みやこ町歴史民俗博物館/WEB博物館「みやこ遺産」

みやこの「ひと(先人の事績)」

寺田寅彦書簡

大正10年(1921)

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[表]
消印12月1日午前11時-12時
赤坂区青山南町
六ノ一〇八
 小宮豊隆様
     本郷曙町
     十三
        寺田寅彦


[裏]
新小説唯今落手拝見致しました。種〻面白く啓発されました、芭蕉が実感を尊んだといふ事は云はれて見れば成程と思ひますが今迄気のつかない事でありました。芭蕉のヂオニソス的要素といふ事も成程とひし/\思ひ当りました。」猪の句もいゝ句だと思ふ、何かしら身にしみるものがある。しかし芭蕉には恐らくしみ方が足りなかつたかも知れない」 兎に角君の評釈を読めば読む程芭蕉の顔が段〻はつきり眼の前に現はれて来ます、芭蕉も始めて知己を得たのだといふ気がする。」「思想」の(富士見高原)を読んで居たが僕には面白かつた、石原君に会ひたくなつて来た」 今日も神田で悪い事と知りながらコーヒーを飲んで半日のエキザルテーションを買つた、ドストエフスキーが発作の前に感じたのはこんなぢやなかつたかしらと思ふ、世の中が美しいもの楽しいものに充されて居るやうで自分の全身が幸福ではち切れさうな気がする。」前にはコーヒーのこんな作用をハツキリ自覚したやうな記臆がない。近頃めつたに飲まないからよく利くのかと思ひます。しかし胃には悪いにきまつて居るからなるべく飲まない事にします、御寛容を願ひます」 御子様其後如何に哉 御大事に願上候
    十一月卅日