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紀州藩文庫より郷土誌料

郷土誌料 

      〔高野詣日記〕 〔高野詣日記〕[目録]


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<翻 刻>
 
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寅とし弥生下旬
高野詣日記
五橘亭
 
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弥生末の三日高野登山の思ひ立より
かねてかたらふ萩花宿のあるしを
伴ひ側に無造作なる旅精(ママ「情」)もおかしく
 
身軽さは友もとなりの歩行神
 
廿三日晴       井坂村
          宮楠助三郎
 
   弥生も末の廿日あまり井坂の里を訪ひ
 
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   寄水ハ一翠亭に待シ□けられ
   其所に一夜の頭陀を預けしか
   あるしは役務のいとまある日ハ俳諧に
   心さしありて風雅の道理を来ひ
   作間の世話しき片手にも活花
   をもて遊ひ四時の風流をたのし
   めは其住なしもゆかしく近ころ
   新造の物数寄とても奢らす野なら
   す清きに心を養ふもふけとも
 
 
   いわんか折から桜の盛りをも過す
   牡丹の花の半端ならていと賑しき
   此宿の猶も懸栄をことふきて
栄はやき宿や牡丹の走り咲
  庭も不掃除まゝに行春    一翠
殆くさいあすの袷に火熨斗して  巴流
  はや旅なれて来れハ国近   子鳳
占いにむつかしい事明しかね   梅枝
  結ふの森に光る神鏡     等水
 
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月更るほと猶さひし虫の声    呉竹
  風もそよりと誘ふ稲の音   三枝
   右八句表
    各挨拶前文畧
待かねた笠も嬉しき花日和    子鳳
  名染の宿は八重霞ても    圭
草ふかき軒へもさすや花の影   梅枝
  雲雀もねくら覗く永き日   圭
 
 
すゝめはや後れた花を手折して  三枝
  愛相も春の奥深き庭     圭
    ・
いつ見ても其色深きつゝし哉   等水
  古ひた笠も恥す鶯      圭
    ・
青麦に眼立ちつ花の旅の笠    巴流
  霞を分けて野に遊ふ蝶    〃
    ・
待わひた程の愛相も梨子の花   一翠
  心の垣もなき友隣      〃
 
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長閑なる花の木下や寄る胡蝶   明水
  霞まぬ中も此道の友     圭
    ・
陰に咲く花も二光の恵ミ哉    呉竹
  弥生は暖し蝶に雲雀に    〃
  余は撰題の句畧之
青柳の影を奪ふや池の藤     五橘
行春や道者の笠は扇かな    〃
 
 
廿四日 晴     大谷村  大和屋
                  佐兵衛
 井坂を出て川上へ趣く折から加勢田の里の
 の邊りまて而楽のぬしに出迎れて
 道の案内の深切も嬉しく頓て其亭に
 笠をぬけハ側に掃除のもふけも清く
 一間に釜の音も渡り床にハ山吹の
 いとうるハしく一碗を点しもてなされ
 たる其芳情を悦ひ
山吹や水もゆかしき服加減
 
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  愛相も薄き茶に煙の名残   而楽
 
   挨拶前書略
待杖や青麦の穂に伸び上り    望兎
  心のとかな野に舞雲雀    圭
    同
待かねて空を眺る日永かな    而楽
  往つ戻りつ遊ふ乙鳥     圭
伸るほと柳の枝のたをやかに   蘭工
  腹をへらしに鞠の独足    望兎
 
 
夕やけのさめぬ内から三日の影  賀好
  また残る蚊の軒に餅搗
表町と人はいふ也貸座舖
  囲ハれの身ハいつも氣詰
見へなんた文も出て来た反古籠
  掃除も念ンを入る武家方
雛かけて上々続々花見客
  初鶯ににきハしい事
うか/\と山道行けハ踏まよい
  鎗もたせたも今は尺八
 
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さかもなく髪結ひ床の口々に
  米の相場も狂ふ照り際
洗濯によこすハ惜い此流れ
  幣取らぬ日は祢宜も吸筒
冬もよい雨をうけて月の立つ
  染る中にも色かへぬ枩
とふ見ても清い手際ハ今治焼
  地ものてハないあの爪はつれ
ひら/\と床几につもる花の雪
  声ものとかに霞む晩鐘
 
 
廿五日雨       名倉村 米屋定七
   今としは桃山子のあるしせられて
   静なる別墅に座蒲團を揃へ
   元より因ミも薄からねハ取わき
   厚き心添といひ長途のつかれを
   慰めんと好物なる手製の品を
           もてなされたるも
            嬉しく取あへす
我も旅餅とかうれし老の宿
   柴草なからも明ん春雨   桃山
 
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ふら/\と窓へも藤の咲伸ひて  蘭工
  泊り鳫の連も跡先      五輦
仮り橋か替れと矢張かり普請   杉斗
  入都の沙汰のあるもとり/\ 里夕
月見酒に丸ふ成たる中直り    唇令
  相撲は弱いけれと将棊は   雄止
伽藍地ときけと無旦に秋さひて  鶴子
  枝もいさつた老枩に杖    文鵲
道分けハあれと収める迷い道   湖秋
  曲輪をぬけて忍ふ露雨    柳吹
 
 
恋ゆへに空さへ狂ふ村しくれ   鳩谷
  飛んて見付た森の梟     素柳
昼てさへとふやら剛い稲荷山   岑月
  金をもたねハ旅も氣さんし  杦月
燃すから咲から散るも花の奥   梅月
  蝶鳥も来て遊ふ野やしき
凧上けの傳りにハやつと腹かへり
  汲ぬ井戸とて注連張て有
雨凌く間に借りに寄るたはこの日
  婆々より古い化そふな猫
 
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飛脚日のたひ/\に待つ江戸便
  晒も早ふかわきよい照
大勢をつかへハ玉の汗か出る
  安おしろいのつけて一はな
小間もの荷明けて双へる長局
  風の模様か知れぬ時鐘
植込ミの蔭にかくれて居待月
  酒の座敷をぬけて虫聞
今秋を伊達の薄着の身に足へ
  とちらへ往ても長い枩原
 
 
海山に野も見晴らしてよい出茶屋
  もんて貰ふて頭痛さつはり
孝行に老をたのしむ嫁の花
  きのふもけふも麗な空
 右歌仙行
   各挨拶前書略
饗應の花も仕思ふて侘し里   里夕
  後段の初音聞ん夏近    圭
 
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〓(健)な姿たのもし花の枝  鶴子
  袖のすミれをさくる手土産  圭
鳥を慕ふ蝶の絶なき牡丹哉   素柳
  昼寝の夢も夏の小座敷    〃
 各挨拶畧之
 
同廿六日曇天
    挨拶前書略
      難歌行
 
 
賑ハしき軒や笠ぬく桃の蔭     蘭工
  眠りを覚す鶯の声       桃山
掻餅も二日貧□取出して
  双紙はきらい竹馬の好
待宵ハ早出てこまる河岸の影
  新酒の酔す色も一はな
知助の褌も結句氣か安い
  悟られもせぬ世間ニ附合
衝立に勝手を隠すうら表
  雨か晴たりや横日さし込
 
11     画像

白妙に波とも見へる谷の花
  友よひ合ふ百千鳥鳴く
存□の茜もさめた旅の空
  牛蒡喰への声もつかふと
今一度聞せすせいてほとゝきす
  雨にもならす星かきら/\
飛石をつたふて忍ふ恋の道
  追ふても犬のされる振袖
催した踊るも月のよミやから
  橋もひいやり濡た打水
 
 
まやといへといつても町行薬店
  秤の世話も入らぬ銀札
有かたい控もすくる国の花
  野もゆたかなる田打畑打
 
廿七日晴  高野登山  遍照光院止宿
  高野登山は三たひなから弥生も
  同し道芝に夫々なしミの花なる
  中に彼幸村か古墳にて過し春
 
12     画像

  五形花の一句を言捨たると思ひ出て
九度山に三度来て見る五形哉
  夫より河根村に至る此里は
  むかしより紙すく事を産として
  諸国へ販くゆへ人呼て高野紙と
  いふ世わたる業の□きふしなから
  外より見れハ清く涼しけなれハ
 
 
夏めける世すきや河根の楮さらし
  と口すさミたとり行澄る小川に
  山吹のいとうるハしく咲き乱れ
  たり其里の名を問へハ作水と
  いふも殊にゆかしく
山吹に作水も今ハ黄ハミけり
  紙谷の茶店にしハらく休ひ
  昼餉なと暫し侍る折から
 
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座敷まて吹雪桜の花見哉
   兒の滝
散るを惜む花とゝまらす兒の瀧
   四寸岩
這かゝる蔦も芽出しに四寸岩
   女人堂
花にやとる夫も女蝶か女人堂
 
 
   芭蕉塚
其雉子の声も高野の翁塚
   万燈
万燈や深山つゝしも燃し添
   奥の院
  御廟の流に心の汚穢を洗ひ
  杉のからしに胸の妄想を拂へハ
  信心いとゝ骨髄に入りて暫く
 
14     画像

  大師の霊前に跪きて
苔の洞に浮世の故々も忘れ霜
  訪遍照光院
   入院の賀
  武門を出て釈門に入り虜撓る
  艱苦を凌き雪霜を冒して
  勧学戒行怠らす勉給ふ
  其積功あらわれ此艮遍照
  院主と仰れ給ふ名誉を賀して
 
 
 花そ今あまねく照す其光り
 
廿八日晴
  高野下向ふたゝひ飛山亭に
  止宿通題発句会等あり
  市仙房の小童岩谷竹馬の
  戯の中にいさゝか風雅の機ありて
  父に忍ひ潜に□…□か口斧を乞ふ
 
15     画像

  若鮎の一句あり見れハ其句の
  埒□□おのつから姿情も
  整ふ寔に王戎の才器とも
  末たのもしく思ハるゝより其童に
  与るとて
千丈の滝へも登る小鮎かな
 
廿九日晴     桃山亭
  探題発句并附合満尾
 
 
卯月朔日晴
  高野下山も名倉の二子か案内
  にてふたゝひ市仙房に立帰れハ
  風呂に支度の奔走ハさらに
  社中の人々にいたわられて
  重ね/\の深切にあまへ思ハす
  留杖の日数を指けれハはや
  衣かへのけふとなるに驚き
 
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花の夢さめて若葉に衣かへ
  最はや帰路に趣んと蘭子を
  かたらひ杖笠を取廻せは各袂
  にすかりていわく慈尊院の邊りに
  勝地あり師か滞杖の折を幸ひ
  其所の雅延に一会を催さんと
  既案内もなし置たれハ今一日ハ
  まけて吟杖をとゝめよと余儀なき
  訳にいなミかたく見は景地も
 
 
ゆかしさに其すゝめに任せ侍り
   遊勝利精舎
      初詩
  川はよし野の流すゝしく
  峰は高野の翠へ添へて
  月雪花の眺はさらに
  聞まほしけれ山ほとゝきす
     ○
  吾師遊杖の折から笠と頭陀とを
  草庵に預り奉りけふや慈尊院へ
 
17     画像

  伴ひ参らせ勝利寺の閑室を
  かりていさゝか旅情を慰め奉らんと
  矢立の筆をしめして
(岩)蔭に聞せ申さむほとゝきす    桃山
   旅のよこれを恥る卯の花   圭
茶を煎るも奇麗な井戸の水汲て   五輦
   金は持たい物しやととても  里夕
入らぬ杖突くも隠居の表むき    湖秋
   山々登れハ扨も絶景     唇令
 
 
  月有はや渕先の枩に明残り   鶴子
   画を見る様に美しい雁    杉斗
  ねりものゝならしに祭り着飾りて  雄止
   盃ハかり遅い燗ニ鍋     文鵲
  植込ミに廣い座敷もうつとしい 柳吹
   こちの頭痛ハ雨をよふ知る  鳩谷
  朝よりハ利生か有と夕薬師   岑月
   ちよつと書ても長いかな文  素柳
  侭ならぬ屋敷ハ堅い恋の関   杉月
   折々刎る泉水の鯉      梅月
 
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  一点の隈なく月の晴渡り
   二百十日も草の葉に露
  薮入を慾にもらふて持重り
   足手まといな孫のたのしミ
  □さけハ箒の休む隙もない
   さめた薬鑵にもゆる陽炎
   右百韻一折
 
卯月二日雨昼後晴  粉川止宿 八塚勝次郎
 
 
   高野詣の帰るさ友雀亭を
   訪へハ主人ハ弥生の桃咲ころより
   不豫のいたわりありて若葉涼しき
   初夏の此日〓(健)に清快ありしよし
   取あへす其悦ひを申述るとて
             五橘亭
 霞はれて姿すゝしき竹の宿
   風の力に拂ふわくら葉    華賀
 切れのよい奉行の智恵に我を折て 悟葉
 
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   白髪あたるを恥る長生    蘭工
 糸車舞へは猫さへ眠たかり    鳬来
   物の乾きもよい南受     貞柯
 晩鐘もまた鳴らぬ間に夕月夜   里水
   はした作るも秋の賑ひ    梅賀
 澄ミ酒ハ神へ我等はにこり酒   伊湖
   矢立てちよつと書一趣向   里牛
 関守りの中に富樫はむつかしい  鼓鵜
   庚申待にはや鶏か鳴     □芳
 沙汰なしに積て庭の□明り    真一
 
 
   独楽の爐にかける濡れ釜
 白髭もつまゝれるほと長ふなり
   日さへ忘るゝ旅の退屈
 盛りより花は散のもおもしろミ
   ぬるんた池に鯉のそハへる
 御百度に長い日脚も昼に成り
   跡よけの袖をはらふ振袖
 恋の諧いやともいわすあちら向き
   縄のうれんの風にゆられる
 
20     画像

 切竹に涼しく見へる捨床几
   調合の間に汗を忘れた
 寐入たる子に呑せたき乳の張
   いそく仕事にくらい行燈
  右歌仙左畧
   余有返題
      卯の花改連畧之
   各挨拶前文畧
 
 
 花の笠見せに卯木の花の比     貞柯
   □ひ歩行て今は老蝶      圭
     ○
 衣かへして出迎ん旅の笠      梅賀
   桜の雪を卯の花の宿      圭
     ○
 〓(健)な姿すゝしき袷かな    鳬来
   花の色香もさめて旅痩     圭
 涼風にまかせて戦く若葉哉     里水
   其蔭たのむ鶯の老       圭
 
21     画像

    其外数筆畧之
三日 晴         粉川  藤田三七
  鳥止舎に初て杖を寄せ其住居を
  伺ふに名にをふ風猛山のミとり
  軒に近けれハ郭公のおとつれもなつかしく
  補陀洛の流庭に通へハ水鶏の
  鳴く淋しさもゆかしく竹にすゝめの
  声若き松に老よふ鳩にても
 
 
  皆此亭の名に寄りて一かたならぬ
  風流を浦山しく其蔭に一夜の
  舎りをもとめ侍る
鳥も老を養ハむ此の若葉陰
  此春則ち吉野行の送別に
  一吟の附合あらハ記行の模様にも
  しからんとの望ありて此亭に
  又半日の俳諧あり
 
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    前文畧
 折もよし矢立しめすもぬるし水   悟葉
   我土産にせん花の道の紀    里水
 野にハ蝶山は百舌の囀りて     貞柯
   酒のほといか疵な別業     梅賀
 世の世話は捨ても恋ハ悟りかね   華賀
   紋日前とて文か度ひ/\    鳬来
 忘れてはならぬ祇園の御縁日    皷鵜
   安土の町の秋さひハ無い    伊湖
 
 
 初めより咄しのしまぬ十三夜    里牛
   木の実の音か窓に時雨る    筆
    右十句表
 
四日 晴         井坂村
               実鼓亭
   高野詣の序此精舎を訪へハ
   折ふし上京の留守なるよし
   ほとなく帰りに立寄らんと約し
   置たるもはからす吟行の日数
   重り既に帰居と定めなから
 
23     画像

   院主のなつかしさに其閑室を
   さし覗きて
 見過して往れぬ垣や花卯木
 
     歌仙行
      挨拶前書略
 約束の阜音信つほとときす     巴流
   軒は忘れぬ此若葉陰      圭
 炭の香もゆかしく釜をたきらせて  蘭工
   風も静に添て夕晴       一翠
 
 
 荷組すめは出船用意の水も汲    子鳳
   さし櫛かりて鬢なて付る    梅枝
 名月の曠な角力に土をつけ     呉竹
   古酒てなけれハ利ぬ肌寒    松鳩
 別業はそろ/\紅葉染かけて    三枝
   恋風の吹く娘の振       明水
 責馬の足もませるも俳心      芳水
   信楽の茶の色は格別
 絶景に涼しい店の休ミ所
 
24     画像

   国か替れハ利かぬ銀札
 伯母さまの土産にもろた煙草入
   嫁入仕事の針に退屈
 能い日和暮をも知らぬ窓の花
   藪からつたふ鶯の声
 
     各挨拶前文畧
 待わひた窓へけふこそ時鳥     有然
   花をミさりに飽ぬ夏蔭     圭
     ○
 
 
 また花は残らん法の奥山に     梅枝
   衣もかへす霞む杉むら     圭
    同数景畧之
 
   高野登山の折から紙谷の
   茶店にて戯歌
     かねさミつかミや三ケの難所にて
 思ひかね登る高野のさかしくて
   行のさみつに紙やかハかぬ
 
25     画像

    粉川にて画讃
     猿の三番叟
  見す聞す言はす目出たし三番叟
     猿
 いわさるといふは傳授か呼子鳥
     太公望
  気は長き岩の上 網せねハ身も安く
  釣のいとかしこくも 鮒をすて鯉を得る
 
 
   粉川にて
    送別
 笠によし野の花をかさし草鞋に
 大和路の青きをも踏んと白河ならぬ
 きの川傳ひ日黒ミの顔を土産に
 せんとて弥生も中の八日既に是途□
 定れハと予か草扉へ暇乞に来れるハ
 粉川なる里水のぬし也其旅用意の
 
26     画像

 いそかハしき中に餞別の一句を乞ふ
 予も(年頃)其心さしは含めとも障る事
 ありて心に任せす彼荘園か夢とも
 ならハゆかしき山の花の香をも
 尋んにハと戯に筆を取りて
          五橘亭
 蝶となりて慕ハむ
      花の其しをり
 
 
   名倉にて尾花庵の古筆を
   見て悟明の余り記之
覚英僧都ハ恋理圖寂の学徒にして
むかしハ公家の楚筵につらなり今ハ諸国
修行の乞食となりて葛の松原に遊ひ
  世の中の人には葛の松原と
   呼るゝ名こそ嬉しかりけり  僧都
  なき跡の名は朽もせす世々かけて
   むかししのふの葛の枩原   西行
 
27     画像

  手をあはす塚に声あり
          きり/\す  藤江房
   しのふ都より安達原の御跡をも
   尋ねもとめて白河の方へ趣かんと
   する日既に没しけれハ所の長たる
   家に一夜を明させくれよと頼ミ
   けれハいふせき草堂に
           案内せられて
 蛍にも顔見らるゝや草まくら    尾花庵
 
 
     高野詣餞別
弥生末つかた五橘宗匠蘭工子を誘ひ
高野詣の序なから其道すからの風友を
訪ハんと川上の方へ旅立給ふ其風流
浦山しく予もとし比登山の志願あれと
公の事なとさしつとひて其志も遂されハ
殊さらに尋之見送りて     香橘亭
                 風麦
 
28     画像

ほとゝきすかけて高野の花も嘸
  春の行衛も見む苔の洞  風圭
    ○
高野詣のつねなから紀の川傳ひ
遊杖して遊ニ爰風友を誘ひ野山の
花の緑をともにし夜話に滑稽の
諭さんと弥生も末の三日風圭雅士旅立
給ふ其教導の介にもと蘭工雅士も倶に
發杖ありされハ其吟杖を待人々道々
迎いの笠にきハしく折から花の比といひ
 
 
其風有も嘸と思ひやられて猶さら
うらやましく両士へ申送るとて
            枩下亭
              何竜
 たのしさは
     先々増む花の笠