和歌山大学図書館/地域史料デジタルアーカイブ

紀州藩文庫より郷土誌料

郷土誌料

      〔百姓教訓之趣認候帳〕 〔百姓教訓之趣認候帳〕[目録]


翻刻 (画像番号)
  1  |  2  |  3  |  4  |  5  |  6  |  7  |  8  |  9  | 10  | 11  | 12  | 13  | 14  | 15   
  16  | 17  | 18  | 19  | 20  | 21  | 22  | 23  | 24  | 25  | 26  | 27  | 28  | 29  | 30   
  31  | 32  | 33  | 34  | 35  | 36  | 37  | 38  | 39  | 40  |


<翻 刻>
 
1     画像

 
      野田村
百姓教訓之趣認候帳
 
2     画像

 
一 夫農民の心たて能ハ国のたから也
  こゝろたてあしきハ國のたうぞく也
  心たて能といふハ我田畠上より預ケ
  置給ふ故に其かげをもつて其身
  の事ハしに及ハず親をすごし妻子を
  やしなふこれをもつておもへハ大キなる
  おんたく也其恩をほうぜん事ハ
  かうさくにゆだんなく地の理を考
 
3     画像

 
  其地に依而種をまき昼の内ハかうさく
  に出夜に入ては縄をなひこもをあミ
  むしろを織さうりをつくりかうさくに
  入べき道具をこしらへ朝夕つとめおこ
  たらずかりそめにも地頭代官の御為
  に背ず上を敬ひ少もおこる事なく
  あしき食をくふても第一年貢を人
  さきにおさめておんをほうぜんと心
 
  がけたま/\友農民と出合時ハかうさく
  作りのはなしより外ハかたる事
  なく我能事を人にかたり人の作りに
  かしこき事を尋我身のとくにせむと
  こころかけわれも人もよき様ニとかり
  そめにも偽りをいはずこれをたから
  農民といふ也心たてあしき農民ハ
  田畑わがものとおもひ上より預り
 
4     画像

 
  たる事をわきまへ【ず(見せ消し)】ざるゆへにおんたく
  を知らねバ年貢をはやく出さん事ヲ
  思ハず偽りを言て上をかすめ身上能
  てもならぬふりをして年貢を出し兼
  借銭の方へかくしてはやくすます是
  おんたくをしらぬ故也その心ゆえに
  かうさくゆたんして朝ねをこのみ
  雨ふり日つよくてれハ宿に居て遊び
 
  農具あしけれともこしらへずげすの楽
  ねといふことくすきさへあれハねて日を
  暮し少身を持たる農民ハ碁雙六に
  すきあまつさえたゝにもうたずかけ
  のばくちをこのミて日をくらし夜を
  あかすかやうのものゝ田地ハあせを
  へだてゝふてき也我か一人の悪心に
  あらず人までひき入遊ふ事大キなる
 
5     画像

 
  徒もの也かやうのものゝ田地は秋の実入
  人にすぐれてあしく其心なれハ友
  農民とも中よからず何ぞよくのあら
  そひにて公事をいたし我ばかり
  理有とたかぶり公儀へ出て理に誥られ
  いたづらものになり諸人につらをま
  ぶられあまつさえ籠などへ入いよ/\
  かうさくおくれ取實すくなけれハ
 
  年貢もたらず田地をうり子どもを賣
  一二年ハつゞくやうなれとも終には
  妻子のわかれをなしてつぶるゝもの也
  これをたうぞく農民といふなり
一 庄屋のこゝろだて能ハ地頭のたから也
  小百姓の師匠也毎朝とくおきて鍬
  をさげあるひハかまを腰にさし田畠
  みまわり耕作の時分を考小百姓の
 
6     画像

 
  内油断のものあれハいけんをくハへ
  情を出させ公儀之用にぶさたなく奉行
  代官の仰をそむかざるやうにおしへ村
  中ものいひごとなきやうに心がけ親に
  孝行なるものあれハほめたていよ/\
  孝行つのらせ弟ハ兄にしたがひ兄ハ弟を
  めぐみ兄弟中よきものをほめたて又親に
  不孝ものあらハつよくいけんを言郷中にも
 
  おくましきやうにしかりかうさくに情
  を出スものをほめたてかりそめの寄合
  にも作りのはなしをしてもの事おしへ我か
  いやなとおもふ事は人もいやならんとおもひ
  わか身によき事ハ人もかくのことく
  あらんと思ひ我も人もよき様にと
  郷中ハ我一家のことく思ふハ心立能庄屋也
  かくのごときの村は人々長久に身をさかゆ
 
7     画像

 
  べき事うたかひなし
一 郷中に身躰のよき農民のあるハよし
  あしの二ツ有り友農民のならぬをあハ
  れミ我米金をとりかへ何とぞ以来迄
  身上つゞきとけ候様に利ぶんもかろく
  あるひハ延へ我もそんのなき程にして
  身躰ならものゝそたつやうにするハ
  郷中のたから也是地頭のためによき
 
  農民なり又友農民の身躰ならず未進
  なと有を金米高利にかし田畑しち
  に取以来此ものをつぶし其田地我か
  ものにせんと前かどよりたくみおもてむ
  きハかねをかしなさけのやうにいひなし
  内證のこころはつぶるゝをよろこぶハ是
  郷中のためにあだかたき也かくのごとく
  なる村は農民につよきよハき村有て
 
8     画像

 
  地頭より免をさげてなさけをかくれ
  バつよきものハいよ/\つよくよハき者ハ
  借銭の高利にとられいよ/\よハり
  一やうにゆかずかたおちて終に其村
  立あらず地頭のために能事なし
一 農民のおや子兄弟親類と田地あら
  そひ亦ハ何にてもよくの事に公事を
  このむハ必まけ也其子細ハ我か手か足
 
  を切て捨たるかことしいたむ事かぎり
  あるまし養生して能なりたりとも
  役にもたらず何角にことかくばかりならん
  親子兄弟ハ本一身より出たるもの也
  然るに公事をして相手をまけさせ籠
  などへ入あるひハ成敗させるハ我か
  手を切足を切たるにひとし勝てま
  け也ちくしやうとても我か身をあひ
 
9     画像

 
  せずといふ事なしいはむや人間において
  をや是をもつて思へハ今時農民の公
  事皆親子兄弟親類のあらそひたし
  わか手足を切てすつるにひとし
  ちくしやうにもおとりたる事なり
  よく/\まよひをわきまへ親るひの
  公事やむべき事なりたとへ他人
  との公事たりとも元来天地を父母と
 
  する道理より見る時は同胞の兄弟
  なり其上少之利欲を以て村之庄屋
  年寄江苦労をかけ第一上にも悪ク
  おもハれ旅宿滞留の費かた/\以テ
  さしやミぬべき事なり
一 本農民ハ心きよくいさきよきもの
  なり五穀を生して人をやしなひ
  天道にもかなふ爰を以テたのしむ
 
10     画像

 
  所ありそれ故にむかしいこくにも聖人
  賢人農民より出たり今以農民は
  侍にひとし其子細ハ右の心有るをもつ
  てなり侍のゆえ有か又ハ病気などに
  なりて奉公ならざるは農民より外の
  楽ミなし然るに今時の農民ハ悪敷
  ならひに引れ百姓と屏風ハすぐなれバ
  たらずと心にも思ひ口にもいひ上をかすめ
 
  いつわりを言世の中よきをもあしきと
  言取實ありてもなきと言何事に付
  てもまことをいはず是ゆへに農民ほと
  いつハり言ものハなきと人にもおもハるゝ
  なりいつハりハぬすみ目前なれハ天道
  にもにくまれ人にも盗人同前に思ハるゝハ
  偽りたき故なり此ゆえに天罸も当り
  仕合よき事もなきことはりなり
 
11     画像

 
  心きよくいさゝかよき者ハ耕作に心を
  つくしその上大風洪水日でりの天災
  うらむる事なし世の中あしけれハ
  悪敷様に身を持それを苦しまず
  又世の中よきとしハ年貢はやく済シ
  よたくあれハ家のしゆりをくハへ妻子
  の衣類をこしらへよの事にむさと費を
  いたさず世の中あしからん事を心に忘
 
  れすねてもさめても耕作にこゝろを
  つくし物ごとに偽りなく年貢さへいたせバ
  天にもおそれず人にもおそれずこゝろひ
  ろくとしてのびあがらん爰をもつて
  侍のかくれ家ハ農民にしくハなし
一 上に慈悲の心有て無理なる事もなく
  農民のためによき仕置ありと思ふ
  時は何事に付ても偽りをいハず常々
 
12     画像

 
  在々百姓中間の善悪ありやうに申
  奉行代官在々迴る時ハ親しんるひニ
  逢ごとく真実の愛敬をいたし物ごと
  ありのまゝに語る時は上下わぼくして
  何のへたてもなく郷中のよはりつより
  農民の内身躰なるならぬをもあり
  のまゝにかたりおや子のごとくしたしみ
  其年の年貢等迄讀合づくに致す
 
  ならば上にも財寳たくさん農民も
  うへずこゝへずゆたかなるべき物なり
  かくのことく農民と心を同しうせバ
  なに事も成就せずといふ事あるまし
  亦奉行代官郷中迴る時あだかたきの
  ごとくおもひ何事をたつねても誠を
  いはず身よくの事ばかり申せハ其村の
  様子も知れず上下別々にて免付等
 
13     画像

 
  すゐりやうのあてがひならバ農民の為
  にあしき事のミ多からんよく/\わき
  まへて物毎にいつはりをいはず心
  置にたしなむへき事なり
一 領分の内いつれの庄屋ハよくいつれの庄
  屋ハあしきと人のみる所人のさす所た
  がハさるものなりしかれハ人のこゝろハ
  見がたきものにて又知れやすきもの也
 
  夫能庄屋と言ハ物毎直に偽りなく公儀ヲ
  恐れて法度に背ずその身正直ゆへに
  小百姓もよく下知を聞て郷中に言分
  なく百姓中間まるきものなり又
  あしき庄屋ハ公儀をかろしむる故に
  細々法度にそむきものごと偽りばかり
  言我身のよくハつよくそれゆへに小百姓下
  知をもきかず郷中言分不絶百姓中間
 
14     画像

 
  あしきものなり甚あしき庄屋をハ人
  ことにくみ一番にハ其村の誰二番には
  其村の誰といはるゝ也かやうのものハほと
  なくほろぶるものなり大勢の中にていた
  つらものといはるゝ事其耻をしるへし
一 免状請取候ハヽ則庄屋所へ小百姓よびあ
  つめ壱人/\に年貢相済候事をあらため
  皆済なるものハ其通りなり皆済なら
 
  ざるものハ子細をくハしく尋年貢たら
  ざる時は田地を拂残る田地にて以来
  つゞくかつゝかざるか穿鑿いたしつ
  づかざる時ははやく身躰つぶし奉
  公に出一両年過て其田地を取戻し
  候歟又ハ一門寄合すくふか亦はむしん
  なとをくわだてゝすくふか庄屋能きも
  入小百姓をハ子か弟のことく情を出すハ
 
15     画像

 
  能庄屋のしかたなりひとへに地頭への
  奉公なり如此の村ハ農民のこゝろ持よく
  成末々よき村になるもの也免状請
  取ても其せんさくもなく面々心まかせ
  にいたしならぬものあれとも庄屋
  かまひもなく面々さばきの村ハやがて
  其村あしく成ものなり庄屋心だて
  あしきハ地頭への大きなる不奉公もの
 
  なり如此之庄屋をは小百姓より訴訟
  してかゆへき事なり面々身の
  ためなり
一 かくれみのかくれがさうちての小づち
  とて大キなるたからあり人々家ごとに
  もちて其断をしらず雨ふりてかう
  さくもならずそとへも出られざる時常ニ
  持たるみのかさをきて田畑をたがえし
 
16     画像

 
  其やうをつとめ又六七月の時分つよく
  てりてそとにも居がたき時彼笠を
  着てかうさくをつとめうちでの小つち
  とは朝夕つかふ鍬の事なり此くわを
  ふり上てくわ一はい打こみ土ヲおこして
  やハらかにして五穀のたねをうゆる時は
  よくそだち秋の實入各別なり是を
  もつて大たからといふハみのかさくわ也
 
  人々家毎にありて此断をしらず人の
  しらざる時出て耕作するゆえに
  かくれみのかくれがさうちでの小つ
  ちといふなりよく/\わきまへかう
  さくにゆだんすべからざるもの
  なり
一 かくれ座頭といふもの家毎にあれ共
  其断をしらず公儀へ物毎かくして
 
17     画像

 
  悪をなし人の仕合あしきをよろこひ
  われ計よきやうにとよくふかく少へ
  たち候へバ人はしらずとおもひ海邊
  のものは沖にて舩を打わり命あ
  やうくしてあがるものあれバあハれと
  はおもハすしてながれ物うばい取公儀
  の御法度にもかやうの時は舩頭水主の
  命を助け情を出し荷物をあけ候へバ
 
  十分一廿分一を下さるゝにそれをも
  おもひ出さずうばい取たるものを
  ちやうぎ才覚してかくし其身一人
  ならず子共まで見ならひ又親の
  ごとくすれバ子々孫々までぬすみを
  おしゆるなり上へハ中々しれ
  ましきとおもひよくには目も見
  えずかくす事なり勿論當座は
 
18     画像

 
  しれぬ事もあれとも天照太神の
  御たくせんのごとく謀計ハ眼前の
  りじゆんたりといへともかならず神
  明の罸とあたるとありとくしれずと
  いふ事なし彼隠れ座頭よくしら
  す類也亦何程山の奥にても我か家
  の内にても公儀を恐れあしき事を
  なさずいはずもし悪事あらバ當
 
  座ハ知れず何ぞの事に付て終にハかく
  れあるましきとおもひ少の事も
  いつハらずありやうに直なるものあり
  是も太神の御たくせんのことく正直
  は一たんのゑこにあらずといへとも終には
  日月のあハれみを蒙るとあるごとく
  當座ハしれぬやうなれとも月日かさ
  なるにしたがつて其正直あらハるゝ
 
19     画像

 
  ものなりよく/\わきまへ山海はる
  かにへたつともかくしてあくをな
  さず正直をたつへき事なり
一 人もしりあらハれたる田地を作りて社
  こゝろハやすけれすこし成とも隠田あ
  れハ人に氣づかひたえず我と心をくる
  しむる事也たとひ一郷一味にて
  しれましきと思ふとも終にはかくれ
 
  座頭よくしらす類也しるゝ時はぬす人
  同前なれハ人ことにこれをにくみ成
  敗にあふとてもあハれとおもふものも
  なし何とそしさひありて命たす
  かるとも一代つらをまぶられ彼隠田
  したる徒ものといはるゝハ死てもやまず
  やきてもやけずうづみても其悪名
  ハ残る事なれハ子ともにもはぢを
 
20     画像

 
  あたふるなり少のよくにて大きなる
  あやまりなりよく/\わきまへ知る
  べし
一 世間にてたわけといふ言葉大かた農民
  の内より出たるときこえたり田の分
  様ハたとへハ五拾石持たるもの兄弟子共
  ありて貮拾石三拾石分とらせ候得ハ
  水旱のとしにもとやかくいたしくらし候
 
  又兄弟子ども大勢持五石拾石づゝわけ
  ちらし候得ハ夫婦手づからかせぎニ而も
  水旱のとしにハ俄にたをれ田地を
  賣夫婦子ともわかれ/\になるもの
  なり奉公に出あるひハこつしきとなる
  ものなり然れハ田地の本をうしなひ
  子孫おとらふるも此田わけよりはじ
  まる也農民にてなくとも分別なく
 
21     画像

 
  はなのさきなるものをはたわけと申
  も此ことわりなり
一 農民惣領の子をハ取たて幼少より
  手ならひさん用おしへ百姓の百姓たる
  やうすを口にておしゆるよりわか身に
  つとめてしらせよの事に心をうつさせず
  かりそめにも大脇指などさゝせ武士の
  まねをいたさせず一すじに農事に
 
  こゝろをよせさする事第一のおしへ也
  弟ども大勢あらバ身躰なる者ハ外にて
  田地を調別家におくか養子などにつか
  ハしさなくハ奉公をいたさせ或ハしよく
  人商人にしつけ又ハ兄の家にて内の者
  同前にかうさくをいたさせ妻子持時
  ハ其妻子ともに惣領のやしきの内にね
  所ばかりとらせ其男しよく分の□けにて
 
22     画像

 
  妻子をやしなひ若たらざる所あらバ
  惣領より合力をくハへ田地むさとわけ
  ちらさぬもの也惣して惣領ハ親に
  入かハり名代をすれバ弟ともハ子の
  ごとくしてもりたつる事親への
  孝行なり
一 農民をたをさんとはおもハねとも
  其年毛頭の見立或ハ一郷/\の毛頭
 
  高下の見立多分につくといへとも秤にて
  物をかくるごとくにはならざる所有り
  しかし能々吟味すへき事なり農民
  ありて社五売を作りいだしそれを
  納て萬事をなすをおもへハ農民
  程のたからハなし其たからを作り出ス
  ものをたをしてハ此方にゑきなき
  事也農民のうとくなるハ蔵の内の
 
23     画像

 
  寳のことし国のたからハ国主のた
  から天下の寳は天下のたからなるが
  ごとし農民の身躰能は耕さくに
  念を入るゆへに毛頭の出来も各別
  なるもの也然ハ農民の身躰よきは地頭
  のたから也農民もつゞき此程も能
  程に年貢を納只其間をかんがえ
  心をつくして毛頭上中下三段宛九段ニ
 
  見分多分につき毎年書付置所の
  毛頭上中下大麦小麦稗きひ粟あさ
  綿菜そば大こん大豆以下ニいたる迄
  當年にくらべ何の年よりハまさり
  おとりをかんかへ又年々の免を引合
  一村/\の吟味をして一人の言分を
  たてず多分へつき毎年出来不出来
  の地くせ百姓の強弱其村之餘力様々
 
24     画像

 
  せんぎ有て免状きハめ何とそ農民
  をたをさぬようにと心をつくす如此
  する時ハうらみなきところ也
一 大迴りの時田地有次第見すべき事也
  かくして見せざる所あれハ其所を能
  出来とす子細ハ毛頭あしけれハまハる
  道をこしらへ田をかりわけ見する也
  こゝを以て見せさる所を能とおもふ也
 
  不残見せ候へハ一郷の内出来不出来を
  かんかへ上中下をきハむ此断をしらずして
  見せざれハ中か上になる事有農民
  のあやまり也
一 大迴り前に方々道橋を作るハ大迴り
  馳走のやうなれとも農民の身のため也
  大迴りハ一度之事年中農民作道の
  よからん為也田畑はやく打返し冬田ニ
 
25     画像

 
  水をつゝみこやのかんがえ油断なきハ
  切者なる農民のわざ也此田畑のさく物ハ
  かならす實入よしあぜをへたでゝ
  各別なりかくのごとくの農民身を
  もたざるハまれなるべし
一 奉公人より農民をミれハつくりの事ハ
  成ほどかふしやたるへきとおもへハ中
  々左様にもなく稲の名麦の名を
 
  しらぬ農民有又切者成農民ハ年に
  より節季の早きおそきをかんがへ土
  用ハせん五月の中時分をかんがへ或ハ
  ほしのめぐりをかんがへて物種をうへ
  或ハひたし地の利をかんかへてうねを
  廣ク作りあるひハせまく作り廣キう
  ねニは重而何をうへむとかんかへうね
  を北南へうへ日さしのよきを考もかり
 
26     画像

 
  さゝげなどは間をひろくうへ其間に
  おそくうへ久しき事をかんがへ所々
  にくゐをたてさげなわをはりては
  いかゝらせ自由のよきをかんがへ畑のぐ
  ろにハいろ/\の物をうへ田のあぜには
  ひへまめあづきをうへ少も地をあそ
  ハせず堤川端には柳をうへ川除にし
  亦は薪に用何事に付ても耕作に
 
  心をつくす農民ありかくのことくの
  もの平百姓ならハ取立庄屋となすへき
  なり小百姓のよき師匠也
一 年の寄たる農民の語りけるハ作り程
  徳の有物ハあらし勿論世の中あし
  けれハさして徳もなけれ共あしき年
  ハそれほと年貢もすくなし畑なとハ
  いく色も作り一筆にても年貢程ハ有事也
 
27     画像

 
  身をつゝしみやうをせつにすれハ身を
  もたずといふ事なしとかたるたゞあ
  れバあるほどむさとついやしあすの
  事をもおもハず其ゆへに家居もあ
  バら屋のことく土座にしてしつけふか
  けれハ病者ニもなり只一日くらしのやう
  なれハ藪をはやし木をうへ屋敷を
  くろめ子々孫々迄此屋敷ニおらんとも
 
  おもハずふかいせうなる百姓ハ子まで
  それを見ならひてすゑ/\まてかく
  のごとく成行もの也
一 農民よき身躰も表むきならぬ振を
  して内證にはおごり身躰よきゆへ
  人の田畠をちやうぎ才覚してむりに
  もとめ男女大勢つかひ女房など乗物
  に乗セ供の下女など乗かけにのせ色々
 
28     画像

 
  よせいをして親類かよひをし子共ハ
  武士の真似をして刀脇指遣つかふに
  こしらへさゝせ衣類以下奉公人の及ぶ
  事にあらずかくのごとくの農民は心
  おごるゆへ第一無礼也無礼なれバ上を
  うやまハずそれゆへに人ににくまれ
  かならす法度に背クわか身より出たる
  とがなれハ言わけもならず結句常々
 
  にはしれざる悪事までよハみにあ
  らハれ成敗などにあひあまつさへ首を
  ごく門にさらされ一門たえはつるもの
  なり是地頭代官の成敗にあらず日
  ごろ農民ニ似合ぬおごりをなし人の
  田地などはかりことをなしうばい取
  富貴をもとめたる天罸なり惣して
  百姓にいたづらものあれがしと露程
 
29     画像

 
  もおもハず只郷中丸く人の子として
  は親に孝行に兄としてハ弟をめ
  ぐみ弟としてハ兄をうやまひ夫婦
  わぼくして友百姓たがいにたのもしく
  隣郷までもおもひ合物こといつハらず
  じゆんなる事を聞てハ歓ぎやく成
  事を聞てハうれひわざハひハ下より
  おこる事をわきまへて上をうやまひ
 
  縦しんだいよくともおこるまじき
  ものなり
一 在々にて堤川除或ハ検見或ハ米見
  何れの奉行にても馳走する農民ハ
  徒もの也しさゐはわか心に應して身
  の徳ある事か亦は我身にあやまり
  かくす事有てそれをかくさんためか
  法度に背て馳走するはいつれ子
 
30     画像

 
  細のあるべし爰以テいたづらものなり
  馳走にあひたるもの人にいはずといふ
  事なしかくれ座頭よくつげしら
  する也然ハ奉行を馳走してせん
  なきことをよく/\わきまへしる
  べし
一 在々農民の内かし物多クして高利
  を取ルハ當座ならぬ農民のためよき
 
  やうなれともゆく/\農民のくたびれ
  となり其村はぼうしよに成やすし
  小利にてかすハ郷中のためよき事も
  あれとも同しくハなきかましなり
  當座痛やうなれともゆく/\農民
  のため能事多し身躰能者ハあき
  ないなどいたしその身ほねをおり
  もふけたるたからハすゑ/\繁昌成
 
31     画像

 
  ものなり友百姓にかし高利を
  取り人をたをして持たるたからは
  さかつて持たる寳なれハ必其身ニ
  あしき事いでき身もほろび又さかつ
  ていつるもの也よく/\わきまへしる
  べしさい/\目の前にある事也
一 在々の出家衆人とむらふばかりを役と
  おもひいたつらに日をくらし候ハゆう
 
  ミんとて天道是をにくみ給ふ所なり
  人はさい/\ハしなぬものなり其間ハ
  大寺ハ人を置て作りをさせ其下知に
  隙なく小寺ハ自身かまくわをとり
  耕作に隙なきハゆうミんにあらず
  天道これを好ミ給ふ所也佛ハ地ごく
  ごくらくをたてゝ人を善にすゝめ悪を
  ころし給ふそのことく旦那の内に親に
 
32     画像

 
  かふ/\をし主によく奉公し兄に
  よくしたがひ弟子をよくめくみ耕作ニ
  こゝろを尽し何事につけても偽なく
  ものごとありやうにじやよくなく心
  正直なるものは佛といふに別ハなし
  如此の心なれハ則佛也死ても寂光浄
  土極楽世界に参るなりとおしへ
  亦親に不孝をし主にうしろくらく
 
  兄弟ハ他人よりおとり人はあしく
  ともわれさえよくハと邪よくふかく耕
  作に心をつくさず物毎偽りたく我と
  人のへだて有ていさかふものハいき
  ながらぢごくの住居なれハ死ても猶
  八まん地ごくのがき道へ落いる事
  うたかひなしとおしへ老たるものには
  さきのちかき所をかたりてよき道に
 
33     画像

 
  引入若き者にはながくいきながら
  ぢごくにおちん事をかたりとく人
  のこゝろのあしきをよきかたへおしへ
  みちびき出家ハわかこゝろを正クして
  分逍をこのまず寺なと大きにして
  けつからなる衣類もこのまず佛に
  なるも心鬼に成も心□□て大事と教る
  出家ハ農民の為には生阿彌陀なり
 
  所の調法なれハ馳走して用ゆへき事
  なり又あしき出家ハ在々何ぞ言事
  あれハ無事ニせんとはおもハず贔
  屓の方へはな持てけつく事を破り
  出家の道をもしらず作りをもせず
  いたづらに日をくらす世間に此僧多し
  これを悪僧ゆふミんといふ也
一 小百姓の内身躰ならずつぶるゝもの
 
34     画像

 
  あらハ庄屋よく/\穿鑿いたし
  ならぬしさゐを尋耕作に情[精]を出させ
  何ぞ不調法のありてならぬものハ
  異見をくハへ以来つゞく様にする事
  庄屋のこゝろを尽ス所也又耕さくに
  油断もなく何の不調法もなくして
  身躰つぶすもの或ハ老人の親祖父有か
  或ハその身病氣なるか何そ子細あらハ
 
  上へ申べし有様においてハすくハず
  といふ事なし子細は農民のつぶ
  るゝハ地頭のそんなり
右之條々能心を付て讀我か心に引
合悪敷心あらハ直し申へし身に
病あらハ薬をのミ灸をすへ針を立
湯治をし或ハ神に祈り早クなを
 
35     画像

 
さん事をねかふへし心の病をは油
断してなをさず其病かうしては
かならず命をうしなひ身躰を
つぶす人にもあしくおもハれ子共迄
能事なしその悪鋪こゝろの養生
といふは何事に付ても偽りをいわ
ず上をうやまひうしろくらき事を
せず用をせんにして身をつゝしみ
 
明ても暮ても耕作に心をつくし
候ハゝ身も息災に誰氣遣【事(見せ消し)】なる
ものもなく緩々として身をもち
長久なる事うたかひ有まし此【□(見せ消し)】養
生をして心直りたる農民共能和
睦して年貢等まてたかひに讀
合し免状極めたきもの也
 
36     画像

 
御先御代在中百姓共へ 御教訓被為
仰聞候一冊此節御見出シ候旨別而文字等
迄御調へさせ候而百姓共熟得仕らセ候様ニと
奉行衆御申聞候間各役所ニ而写さセ候而
其写シを村々へ被相廻写シ取らセ末々迄冊数ニ
写シ五人三人打寄候ハヽ讀聞させ末々之者共迄
能相心得罷有候様ニと入念可被申付候以上
            後藤角兵衛
  七月十七日
 
37     画像

 
     上野山十大夫殿
     野田九右衛門殿
     前嶋藤左衛門殿
     湯川藤之右衛門殿
     神保八十郎殿
 
右御紙辺之口ニう□ル
追而申越候左之壱冊ハ重キ 御意ニ候間麁抹ニ
不仕誠ニ不奉存様入念可被申聞候右ハ末々ニ而
誠ニ存候趣ニ相聞候ハヽ各之申付麁抹成故と
相聞可申儀ニ候間とくと可被申聞候已上
 
38     画像

 
39     画像

 
40     画像