五條市教育委員会/中家文書調査報告書

中家文書調査報告書

第三章 解説

第六節 吉野材木方口役銀と代官所

 五條代官所は「御救御貸付銀」「困窮村々救為手当」「荒地御起返御手当」などと様々な仁政的名称で公金の貸付政策を実施し、多方面に貸し付けたが、村・百姓・旗本らの借り手側からは当然「拝借」することである。貸付には代官所と拝借主との間に掛屋が仲介し、関与している。貸付文書はここでは主に三群に区別される。①帯封で区別されて一括されている文書群で、番号〔17〕~番号〔24〕までがその一つ。②〔254〕~〔309〕(番号(・ ・)省略、以下同)の帯封で一括りにされた文書群で、「辰巳両年分御貸附手形」の文言のある付箋付きである。③同様に帯封で一括りの文書群の〔322〕~〔327〕で、「小利足手形」と書かれた付箋付きである。この三群以外の「夫食手形」については捨象。以下では①②③について若干考察しておく。
 ②の〔254〕~〔309〕のうち〔267〕~〔309〕には端裏書に朱書された数字が記されている。〔271〕に「壱ばん」、〔290〕に「四拾五ばん」と書かれる。ただし、「四拾ばん」と書かれた文書はここにはなく別の③の箇所にあって、中家文書目録では〔325〕文書に書かれている。また、何故か「拾六ばん」と記した文書が見当たらない。③に含まれる〔324〕文書も口役銀に関係し、ここに混入したのではないか。拝借する主体は、領主(旗本)・村・個人などに区分されるが、その拝借主名が不明な文書も混じる。①の八文書のうち、金額の下に村名・人名(貸付対象者)がある場合は「預ヶ金之内を以可被相渡」、それが記されていない場合は「預ヶ金之内書面之通請取」と書かれる。すべて発給人は五條代官所役人、宛所は掛屋(中屋)源兵衛である。これら①をまとめると【貸付文書一覧(午年)】の如くである。
【貸 付 文 書 一 覧(午年)】
番 号日 付金 額元 金貸付対象者発給者
17午1/28100両貸附預ヶ金加藤平内知行所美濃国
池田郡六之井村
斎藤勝平
奈良丈右衛門
18午2/2424両預ヶ金上守道村・上品村
・下片岡村
斎藤勝平
奈良丈右衛門
19午2/2220両預ヶ金(記載無)斎藤勝平
奈良丈右衛門
20午1/1727両2分*
18両3分*
預ヶ金大仏殿納斎藤勝平
奈良丈右衛門
21午2/2415両預ヶ金(記載無)斎藤勝平
奈良丈右衛門
22午4/253両*預ヶ金須恵村重五郎上村井善蔵
奈良丈太夫
23午4/22109両*頑ヶ金(記載無)上村井善蔵
奈良丈太夫
24午2/720両貸付金東郷村渡斎藤勝平
奈良丈右衛門
備考○すべて箱3の文書番号 ○金額のうち金の分以下の単位は切り捨て、その金額には*を付した。 ○番号20の文書は番号275と関連文書

 ①~③のうちで最高の金額は三三五両〔302〕、次いで一〇九両〔23〕が多い。一〇〇両は〔17〕など五文書ある。銀五貫目〔263〕の場合、同じ時期の五條代官所が行った三〇年賦貸付を記録した文書(『吉野林業史料集成』「困窮村々貸出銀帳」)の金銀換算比率を用いれば銀五貫目は金約八四両となるが、銀額を示す文書は七文書しかなく僅かである。拝借主と考えられる村々は、大抵宇智郡・吉野郡・宇陀郡・高市郡など五條代官所の支配範囲内だと考えられるが、〔17〕の美濃国池田郡六之井村は加藤平内知行村だという。既に慶長七年(一六〇二)、当時の加藤光直(平内)は美濃国池田郡・安八郡・不破郡において采地三六四〇石を与えられている(『寛政重修諸家譜』)。
 掛屋と代官所との関係、掛屋の機能、村々や旗本への貸付など、この①~③の文書は新しいいくつもの情報、知見を提供する。便宜上【貸付文書一覧(旗本)】を掲示して、拝借主が旗本の場合について少し触れておきたい。多賀氏は大和国高市郡などに二〇〇〇石の知行地を得ている旗本である(『寛政重修諸家譜』)。根来氏は宇智郡とは関係が深い。根来氏(盛重系)は宇智郡の丹原村・火打野村・田殿村などの領主である。旗本の根来出雲守(斯聲)と辻甚太郎代官や和泉国日根郡熊取谷の中家とは相互の姻戚関係を通じた強い繋がりがある(『和泉国日根郡熊取谷中家文書目録』熊取町教育委員会)。一例を挙げておく。天保四年(一八三三)のことであるが、「熊取町中家文書⑤一四一」は丹原村役人が五條代官青山九八郎に申し立てた文書で、辻甚太郎代官の丹原村への貸付前後の情況をよく示している。
 もう一つ注目すべきは【貸付文書一覧(旗本)】の加藤平内知行村以外の旗本への貸付年は文政三年(一八二〇)だということである。上述の三十年賦貸付を記した文書「困窮村々貸出銀帳」(『吉野林業史料集成』)を含めて「巳ヨリ戌迄無利足三十ヶ年賦」に関係した地域社会に残る文書が散見される。これも今後の検討課題である。
【貸 付 文 書 一 覧(旗 本)】
番 号日 付旗 本金 額
17文政5午年加藤平内知行村金100両
284文政3辰年伊藤彦右衛門金15両
285文政3辰年根来出雲守金25両
288文政3辰年多賀左近金100両
297文政3辰年山角六郎左衛門金20両
備 考○番号284の伊藤彦右衛門は不詳 ○山角六郎左衛門『柳営補任』三巻