中津川市/古文献アーカイブ

中津川市史 中巻Ⅱ

第五編 近世(二) -関ヶ原戦から明治維新まで-

第七章 文芸・教育

第一節 文芸

二 俳諧

市内北野の中川神社の直会殿に「奉納俳諧前句」と彫りつけた横二八三cm、縦八四cmの大きな扁額がある。前句(まえく)は五句附で上段右より左へ白山大権現、下段は、中津川連中と伏字を置き、折句の題は「いかき」「とりい」、沓附(くつづけ)は「結構な」「きら/\と」「重ねても」の三句、冠附(かむりづけ)は「宮造り」「玉の床」の二句、中入は「ほんのりと…花盛」、別に四季の句と百首を配し、総句数一〇一出詠六五名である。裏面に「〓(額)板寄附中川三右衛門 執筆赤井源兵衛 彫剜(刻)重沢伊兵衛 同儀右衛門 山田茂作」と墨書している。
 前句附の附句が独立した川柳や、冠附から独立した狂俳も他の地区には残っているが、当地方では見当らない。雑俳もこの一例だけである。最も庶民的なこの種の俳諧は当地方では根付かなかったのであろうか。
 
   奉納俳諧前句                 [濁点・( )は筆者]
句四季  白妙に 只  雪のたゞ中
折 句  山もそろ/\木の芽浮(うき)た津
冠 □   大名の御意も流るゝ大井川
沓 △  權に此世へ 神とあらハ連
百 首  現も夢も  よい 夫婦中
      ほんのりと 中入 花盛
□  驕なと花野に萱の宮づくり千旦林不動軒
権 父の名の雲にしらけて白羽の矢新亀 甲
白 客僧に値(知)遇申も〓(梅)さくら本〓 葉
山 青柳にかすむ墨絵の縫下地落合恵 風
白 八景の比良はおはらの寒薬下〓 木
仝 繕はぬ伊達をすあしの粋(水)仙花本松朴
山 やり水の音に蛙も目をすりて新山 子
現 ミづ性にわしハ木性の馴小舟芳菊子
山 御名残おし 鳫金(かりがね)の国もどり下田楚
中 ほんのりと室にかうじ(糀)の花盛亀 甲
△ きら/\と千畳敷の絵天井新凸 凹
大 雲にしられぬ ぜに金がふる苗木風 月
折 伊吹山紙につゝんできりもぐさ下雲 碓
白 綿帽子やいくら駿河のふじの山下鉄 延
中 ほんのりとにほふやうぢの華ざかり淀 〓
大  錢ハ  牽馬ノ 浮 沓本可 吟
仝 すやりけやりの尻がふらつく京 菓
現 頼政の二の矢は色のあてどころ本一 亀
権 千両の直うちはいつの氏子から下雲 水
山 一はけに野は明ぼのゝ 惣模様新冨 什
現 夜着ひとつめい/\鳥の羽づかい仝土 本
白 凩に一枝青し庭のまつ馬コメ望 月
仝 かけはしや見おろす山にのぼる山コマムバ蘭 香
中 ほんのりと聞とてむめの花ざかり京 菓
山 つく/\し故蝶とまれば鑓(やり)のさやシン巴 星
△ きら/\と弥陀は他力の金ひかり風 月
仝 かさねての十二ひとへは茗荷(冥加)の子淀〓 〓
白 針ほどの穴から大イか□ (不明)の株〓 木
仝 塩賣のすべる目もとにしほもなし千旦幸 色
折 鳥の名の利恨(根)返りやいかのぼり仝次 〓
句 行年や鷺もからすもゆきのくれ道楽子
白 鉢の木で水風呂たかば六ヶの庄シン定 好
△ きら/\と草葉にほしの落し種淀范 芝
仝 きら/\と雲はなし地の星月夜下木 仙
白 雲晴て目も醒ヶ井のいぶき山亀 甲
折 隠居とて軽い帋(紙)子のきそはじめ〓 木
仝 とりゐ越利屈ハぬけて稲荷山本洞 月
□  其日からはれて平和か玉の床可 吟
權 ゆのはなを笹に咲せる神子の口マゴメ藤 齊
折 隠居とはかくるゝの字で聞へ(え)たり望 月
百 かさね着や三笠乃山に月のかさ千旦松 色
白 越路では家の棟踏む馬のあし本有 由
大 佐々木殿でも ぜにのせんぢん(先陣)可 吟
山 寒還るそらもかでんの封を切てシン頌 若
中 ほんのりと野郎ほうしの花盛かつ女
山 花を待身は朝起の箒ずき下〓 林
百 うかりける時雨にのって鉢扣シン九 亀
△ 結構な国をみやげのするが茄子淀花 ◇
□  耳たぶが御意に入たる玉の床定 好
百 逢みてののちは情もうす茶染本洞 水
白 花は猶なつ秋も咲よしの(吉野)葛藤 齊
山 〓(桃)柿の〓(養)子は今がまつさかり□□□[不明]無 案
現 落葉搔 くまで(熊手)のさきで二人口可 吟
△ 結講(構)なあとがよごれて土御門下心 計
句 みゝづくや寧(寝)過た顔のうば桜頌 若
△ きら/\と砂子ふるふや八重霞シン宇 陽
山 暦より疝氣ハ腰にはつがすミ風 月
折 今も其から(唐)に名を蒔 吉備の種落合川 舟
仝 いまの世は神も餅なり宜祢(祢宜)次第雲 水
白 献立に請合うともやぶ暦本早 道
仝 信濃路や霞にのって駒ヶ獄田 楚
現 道盛のいくさもなまる小宰相道楽子
山 小娘の声も巣たちの若菜つミ檐雀子
權 陰陽は天が下うむ二はしら倚松葛
△ きら/\と曇らぬ御代の鐘磨千旦林
仝 けつ講を悋氣に咲すさくら色〓 井
句 たんぽゝやけふハ野懸の三番叟芳菊子
仝 苔干や莫(蟆)の子どものこけむしろ望 月
仝 一牧(枚)戸たつる田にし(螺)や無人定シン不 吟
山 姿見の鏡にかげも花ぐもり本素 琴
折 糸ゆふ(遊)に風の浮織木〻の花風 月
山  足帒(袋)ハ 葛 篭ノ 轄シン稲 丕
中 ほんのりとおはなが〓(貌)も花ざかり手賀野
折 大イもの垣にぶらりと木瓜種心 計
△ 重ねてハ手鰤(手振)で参るひざ直しシン間
山 土筆 (つくしんぼ) 袴をぬいで 無礼講コマムバ休 也
現 邯鄲(かんたん)のまくらならべて五十年無 案
折 いく度も懸て涼しき清(きよ)かんな本素 琴
△ 重てハならぬ塩干のも合つま本水 上
仝 きら/\とひだりが龍ハ日の光シン左 木
白 大こんにからミをつけて蕎麦花幸 色
折 今こむと帰る漣 きつね川木 仙
△ 結講な金持殿に曽我名(苗)字雲 水
仝 けつ講なかんやう(咸陽)宮の帰り花風 月
句 碁両には鼻すゝらせて火燵哉次 〓
中 ほんのりと蝶も菜種の花ざかり下 近
△ 結講な三百余里の永廊下〓 木
仝 きら/\と錦を神のまへだれにコマムバ竹 林
白 野も山も源氏にひかる国の花鉄 延
大 一六(さいころ)ふって 三日 逗留〓 葉
□  揚貴妃の夢に花咲 たまの床千旦林
百 来ぬひとを待味噌屋よりこぬか味曽蘭 香
權 揚貴妃のむかしむかしハ唐のひと望 月
百 春すぎてなつといはせぬ歌がるた下野 香
大 碁は手をうつて 岡目八もく素 琴
百 はるすぎてあふぎにあつき蟬の声本平 木
△ 重ても いけんと餅は呼に来イ亀 甲
仝 きら/\とかさの雫や珠数(数珠)の玉シン玉 延
山 苗代も浪に霞てミつかし味シン呉 楓
□  はんしゃう(半鐘-繁昌)とうち納たり 宮造り  仝筒 水
 
   奉賀御造宮
 嘉 通
  椎かし(樫)もひかりうつるや八重霞
享保十一秊(年)嘉通識
丙午三月吉日  〓印


Ⅶ-3 奉納俳諧前句  (中川神社蔵)


Ⅶ-3 ②


Ⅶ-3 ③


Ⅶ-3 ④