NPO長野県図書館等協働機構 信州地域史料アーカイブ

4.地域の記録

■小県郡民謡集 [ルビ注記] 

  一 子 守 謡      画像15
 
    坊 や 三 首
○坊やは良い子だお眠りよ ねんねんころやおころりや。良い子だ
坊やはお眠りよ 坊やはおりこ(注1)だお眠りや。ねんねんころやおころ
りや ねんねんねんねんねんねんね。
○坊やはよい子だねんねしな、坊やのりこもの(注2)誰かまつた(注3)
 誰でも かまはぬ一人泣き 一人で泣くのはよいけれど 二人に泣かれりや
わしや困る 早くねんねをしておくれ。
○坊やは良い子だ寝んねしな 早く目んめをつぶらぬと 向ふのお
 
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山のもうもう(注4)が おつかい(注5)おつかい顔をして 寝んねしない子をた
べにくる 坊やは良い子だねんねしな もうしもそれでも来たなら
ば 坊やの刀で切つてやる 坊やの鉄砲でうつてやる。
 
 注1.おりこ……お利口(りこう)。
  2.りこもの……利口者(りこうもの)の転。
  3.かまう……からかう。
  4.もうもう……お化け。
  5.おつかい……おっかない(恐ろしい)の転。
 
    寝いれ二首
○寝いれ子もらく親もらく 寝る子は尚(なお)良くおれもらく。
○寝いれうつつけ(注1)雉(きじ)の子よ 泣くとお鷹(たか)にとられるぞ 
お鷹にとられた其(その)時に けんけんばたばた(注2)せぬがよい。
 
 注1.うつけ……まぬけ。
  2.けんけんばたばた……あばれること。
 
    寝いん一首
○寝いんねんこじまのきやんきやら(注1)少女 をとめがおほきくなりや
お江戸へやるぞ お江戸じやちん縮緬(ちりめん 注2)ちりめん育ち。
 
 注1.きゃんきゃら……お転婆。
  2.絹織物の一種。
 
   寝ん十六首
 
  (改頁)
 
○寝んねしなんせ床なんせ 床が飽きたら起きなんせ。
○寝んねん寝んねん寝んねしろ 寝つて起きたら何くれず(注1) 赤い飯(まんま)
に肴(とゝ 注2)かつて(注3) 柳のお箸(はし)でざぶざぶと 羊羹(ようかん)
饅頭(まんじゅう)買つてくれず(注4)。
○寝んねしなされ日は暮れた 渡るそよ風草の露 靡(なび)く柳の木の下
を 往つたり来たり夢の船。寝んねしなされ夜は更けた 船は河出
た中へ出た うつらうつらと波の上 親が謡(うた)へば子はねむる。
○寝んねん寝んねん寝んねしよ 寝いれば葱(ねぶか 注5)の嫁見せる 起きれば
お菊にくれてやる 泣けば長持(注6)かつがせる。
○寝んねん猫さん鼠とる 隣の後家(注7)さん鐘たたく。
○寝んねん猫のけつ(注8)へ蟹や這ひこんだ やうとこ引き出したら又は
ひこんだ。
○寝んねんころころころ兎 何うしてお耳がお長いの お母(かあ)さんお
腹(なか)に居た時に 椎(しい)の実樫(かし)の実たべたので
 それでお耳がお長いの。
○寢んねんねやまち米屋町の横丁を通る時 ちうちう鼠が鳴いてゐ
 
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た 何の用かと聞いたれば 大黒様(注9)のお使(つかい)で 寝んねした子をお迎
ひに 坊やも早く寝んねして 大黒様へ参りませう。
○寝んねんころころ寝んねしな 寝んねのお子守どこへいつた あ
の山越えて里へいつた 里のみやげに何貰(もら)つた でんでん太鼓(注10)に笙
(しょう 注11)の笛 それを貰つて何にする 何に駿河(するが)の富士の山
 富士の山ほど育ちがよい。
○寝んねん閨(ねや 注12)の戸あけたれば 月は朧(おぼろ 注13)の東山
 寝てがさめてが夢うつつ 昨日も今日も夢うつつ。寝んねん閨の戸しめたれば
 加茂の流のひとりごと 此衣(べい)そめて縫ひあげて 明日は智恩院聖護院。
(ちおんいんしょうごいん)
○寝んねん合歓(ねむ 注14)の木に花が咲き 赤い木の実がなりました 南の国
から飛んで来た 小鳥が其実を取りました 誰にやるか聞いて見る
と 寝んねした子にあげませう 坊やも早く寝んねして 赤い木の
実を貰ひまそう。
O寝んねん寝顔の愛らしさ 夢の窓には月がさす 東に見ゆるは富
 
  (改頁)
 
士の山 富士の高嶺(たかね)に雪がふる 西に見ゆるは吉野山 吉野よいと
こ花が咲く 南も北も面白や 鳥が啼(な)くやら謡ふやら。
○寝んねん森の小鳩(こばと)達 こんなに暗い夜だもの さぞや梟(ふくろう)の
銀の目が 青く光つてこはからう 東が白んで夜があけて お天道様(てんとうさま 
注15)出たならば どつさり豆を蒔(ま)いてやろ 寝んねんころりよお休み 森の
小鳩も寝た程に 坊やも早く寝んねしな。
○寝んねん浜の石塊(いしころ)ころんでどこへ行く 波にもまれて浜の石 泣
けばかたらん(注16)泣くなよ 泣けばてぽう(注17)にうたれるぞ 泣くない泣く
ない寝んねしな。
○寝んねんころころ鳴く虫の 節(ふし)も悲しい星月夜 父が恋しうて鳴
きやるのか 母が恋しうて鳴きやるのか そんな悲しい声だして
鳴いてくれるな蟋蟀(こほろぎ)よ 坊やのやうにおとなしく 泣かずに寝んね
しておくれ。
○寝んころ寝んころ浜の石 ころころ転んでどこへ行く 波にもま
 
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れて淡路島(あわじしま) 通ふ子鳥の島へ行く 私も行きたい夢の島 夢の島に
は五色浜(ごしきはま) 玉よりきれいな青石が 星よりきれいな白い石 泣けば
  千鳥が飛んで行く 泣がずに行きたい夢の島。
 
 注1.何くれず……何をあげようか。(当地の方言。以下〔方〕と記す。)
  2.おかず。
  3.かう……加えて食べる。〔方〕
  4.買ってあげよう。〔方〕
  5.根深。長ネギ。
  6.衣服などを入れる直方体の箱。
  7.夫の死後、再婚しないでいる女性。
  8.尻。
  9.仏教の神の名。飲食を豊かにする神。
  10.乳児用のおもちゃ。
  11.雅楽用の管楽器。
  12.寝室。
  13.かすんでいるさま。
  14.マメ科の落葉高木。
  15.太陽。
  16.語らん……「語らぬ(語らない)」の転。
  17.てぽう……鉄砲(てっぽう)の転。
 
    よーい二首
○よーい横浜調練場(注1) おつちよこちよいが笛吹きや足そろへ。
○よーいよーおい寝んねしな 寝いれば葱(ねぶか)の嫁みせる 泣けば長持
かつがせる。
 
 注1.調練場……兵士の訓練場。
 
    泣くな二首
○なーくな泣くな日影の紅葉(もみじ) いくら泣いても日がささぬ。
○泣くなややさん(注1)目がわるい 子守がつんだ(注2)と思はれる。
 
 注1 赤ん坊。
  2.つむ……つねる。
 
   此(この)子一首
 
  (改頁)
 
○此子は良い私の子 お歳は二つで名はうめ子 梅子は良い子よに
こにこと 朝から晩まで泣きもせず 今に大きくなつたなら 袴(はかま)
つけて靴はいて 書物買ひ学校へ私と一緒に行きませう。
 
    東の谷一首
O東の谷には螢とび 西の谷には鐘がなる 青葉若葉に日は暮れて
 お寺の森に火がともる ともる灯影(ほかげ 注1)に立寄れば
 夕べ生れた寺の子が 重ね蒲団(ふとん)に紅まくら 寝んねん
 ころりん寝んころりん。
 
 注1.灯火の光。
 
    お前のお子守一首
○お前のお子守やどこへ行つた あの山越して里へ行つた 里のみ
やげに何貰(もろ)うた でんでん太鼓に笙の笛 はたいて聞かせる寝んね
しな 吹いて聞かせる寝んねしな
 
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    ぜん善一首
○ぜんぜん善光寺参りのやぐつお染 お染大きくなりやお江戸へや
るぞ お江戸ぢやちんちり縮緬小袖(こそで 注1) 田舎ぢや菜種の花紋り。
 
 注1 小さい袖の、和服の普段着。
 *都市のはなやかさと、田舎の暮らしぶりが対比されている。
 
    ののさん一首
○ののさん(注1)いくつ 十三七つ 七つの歳に 赤いぼこ(注2)
産んで だーれにだかしよ(注3) おこまにだかしよ おこまは
どこへ行つた 油買ひに行つて 油屋の前で 滑つて転んで 油一升こぼした
其油どうした 太郎どんの犬と 次郎どんの犬と 皆なめてしまつた 其犬
どうした 太鼓に張つて あつち向いちやどんどん こつち向いち
やどんどん。
 
 注1.巫女(みこ。神に仕える未婚の女性。)〔方〕
  2.子ども。〔方〕
  3.だかしよ……抱かせよう。
 
  (改頁)
 
   二 言 草 謡
 
    自然現象に関するもの十条
○てんとさん(注1)てんとさん お手紙おくーれおくれ。(太陽に光熱を乞
ふ時)
○照る坊主天あけーろ天あけろ。
○照りてり坊主照り坊主 あした天気にしておくれ。
○向うの山かくれ こつちの山照れてれ。
○おらの日影になるものは 正月傷寒(注2)病み出して 盆にやぼつくり
死ぬやうに。
○夕やけ小やけ あしたー天気やえーか(注3) 雨こんこ(注4)降るな 千曲の
橋や落ちるぞ。
 
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○あした天気やえーかわりーか(注5)。(草履占 ぞうりうらない)
○大風吹けよ山風吹けよ。
○天から山から風吹けよ 天風吹け山風吹け。
○桑原くわばら。(落雷除 らくらいよけ)
 
 注1.天道様(てんとうさま)……太陽。
  2.しょうかん……熱病のはげしいもの。チフスの類。
  3.えーか……「良いか」の転。
  4.「こんこん」の略。
  5.「悪いか」の転。
 
    植物に関するもの三条
○お坊お坊飴(あめ)買ひ行け。(蒲公英(たんぽぽ)の種子を吹いて)
○すいこ(注1)食つちや酸いすい 薔薇(ばら)食つちやばーらばら。
○蛇のすいこなまずいこ 吹いてたべれば なんともない。
 
 注1.イタドリ(の茎)。昔は子どもが塩漬けにして食べた。
 
    動物に関するもの六十八条
○蝸牛(だいろ 注1)だいろ角だせ われ(注2)も出しやおれも出す。
○蝸牛だいろ角出せ 角出さなけりや向山へもつて行つて 首ちよ
んぎーるちよんぎる。
 
  (改頁)
 
○蠅(はえ)はえ手すれ。
○とんぷ(注3)とんぷ此指とまーれとまれ。
○とんぷとんぷとまれ 元の巣へとまれ。
○みんみん みーんみんみんみーん。(蝉(せみ)の鳴声)
○蝉(じみ 注4)じみのばれ虻(あぶ)あぶくだーれくだれ。
○虻あぶお経よめ。虻あぶお経読め。(虻の腹をおさへて)
○螢(ほうた 注5)も来いこい山んぶき(注6)も来いこい かねんかねん水くれーろ水く
れろ。
○ほうたろ(注7)も来い来い来い 山んぶきも来い来い来い(ほうたろに
や水くれよ)山んぶきにや乳くれよ。
○螢来いこい水くれる そつちの水は苦いぞ こつちの水は甘いぞ
○蟻地獄(へこ 注8)へこ田ーぶて お茶飲んで田ーぶて。
○蟻地獄(かつこ 注9)かつこあとしやれ(注10) かつこかつこあとしやれ。
○地ー蜘蛛(じーぐも 注11)地ー蜘蛛 下に火事やある お茶飲み上れあがれ。
 
  (改頁)      画像21
 
○地ー蜘蛛地ー蜘蛛腹切れ。
○地蜘蛛(ずいくも 注12)ずいくも戸あけろ 今日は加賀様のお通り(注13)だ。
○簑蟲(みのむし)みのむし戸ーあけろ 今日は殿様お通りだ。
○きーす ちよん。(きす(注14)の鳴声)
○かんた(注15) きよろきよろ。つゞれさせ。(蟋蟀(こおろぎ)の鳴声)
○げこげこ。裸だはだかだ。(蛙の鳴声)
○蛙の目玉へ灸(きう)すえて それでも飛ぶなら飛んで見ろ。
○ちんちん。忠忠。(雀(すずめ)の鳴声)
○竹に雀は仙台さんの御紋(注16)。
○竹に雀はしなよくとまる。
○雀や鈴ふれ 鳥(からす)鉦(かね)たたけ 鳶(とんび)とろろ笛吹いて見せろ。
○かあかあ。があがあ。あーあー。孝孝。(鳥の鳴声)
○烏烏かんざぶろ 親の恩を忘れるな。
○烏烏あと見ろ鉄砲ぶち(注17)やねらーうねらう。
 
  (改頁)
 
○烏烏あと見ろ わんだれ(注18)内や焼ける 早くいつて水かけろ。
○烏烏寒三郎 目の中のごみう(注19) 金(かね)の棒でつつき出せ。
○雪やめんを舞ふ 烏あ鉦叩け 雀や鈴ふれ とんびや戸を叩け。
○此所来(こけこ 注20)いよー。こけこーこー。東の空が光るぞよー
東天紅(注21)。こけーこつこつ。(鶏の鳴声)
○ほーほけきよー。法華経(注22)。(鶯(うぐいす)の鳴声)
○びちびち。日一歩(ひいちぶ)。(雲雀(ひばり)の鳴声)
○日一歩 日一歩雲雀。日四両 日四両とんび。(雲雀並に鳶(とび)の鳴声)
○とんびひよろ。びーどろ。日和(ひより)。日四(ひよりよ)両。(鳶の鳴声)
○とんびとろろ お寺の前で わくわく(注23)まーいて見せーろ見せろ。
○とんびとんび枠まはせ お宮の前で枠まはして見せろ見せろ。
○とんびさんとんびさん なぜちごまごしなさるい 私はかんざし
無くしやした お前のかんざしは銀かいな真鍮(しんちゅう)かいな
 びーどろびーどろ。
 
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○泥喰ちや泥喰ちや口や渋びい。(燕(つばめ)の鳴声)
○どでーぼつぼ。(鳩(はと)の鳴声)
○かつこーかつこー。(郭公(かっこう)の鳴声)
○ほつきよ きよきよ きよきよ。てつぺんかけたか。ほんぞんか
けたか。(杜鵑(ほととぎす)の鳴声)
○きよときよと。(夜鷹(よたか)の鳴声)
○けんけん。ちよけんちよけん。(雉(きじ)の鳴声)
○雉はけんけん山鳥やことこと。(雉並に山鳥の鳴声)
○ほろつくほーほー あしたー起きて巣ーつくる。(梟(ふくろう)の鳴声)
○雁(がん)雁竿(さお)になれ。
○にやーにやー。にやーんにやーん。(猫の鳴声)
○がんが がんが。がんがん。わんわん。(犬の鳴声)
○ひんひん。ひひん。(馬の鳴声)
○ひんひんどうど ひんどうど。
 
  (改頁)
 
○馬馬腹太鼓(ばこ)はたーけはたけ。
○馬のねんぼーぐーつぐつ。
○ぼーぼー。もーもー。(牛の鳴声)
○牛にひかれて善光寺参り。
○猿(さる)猿野猿坊(やえんぼ 注24) 猿けつあ(注25)真赤(まつか)。
○きやんきやん。尻や凍(しみ 注26)るくわえんくわえん。(狐の鳴声)
○狐のきんたま土瓶にしよ。
○野火やついた火やついた あつたら(注27)狢(むじな)が焼け死んだ。
○狸のきんたま八畳敷 あぶつて広げりや十畳敷。
○きいきい。ちうちう。(鼠(ねずみ)の鳴声)
○きいきい鼠の棚さがし 棚から落つちや きーいきい。
○よーくかくれろ金鼠(虎毛(とらげ)の猫に捕られるな。)(一声すれば見つ
かるぞ。)
○蝙蝠(こうもり)蝙蝠毎晩こい 草履が切れたらはだしで来い あかりが消え
 
  (改頁)      画像23
 
たらころんで来い。
○うーさぎ兎(うさぎ)何見て跳ねる。
○尻喰(しりげ)い観音。(兎の山に登る時)
○頼むぞ観音。(兎の山を降る時)
 
 注1.カタツムリ。〔方〕
  2.お前。〔方〕
  3.トンボ。〔方〕
  4.セミ。〔方〕
  5.ホタル。〔方〕
  6.ゲンジボタル。〔方〕
  7.ホタル。〔方〕
  8.アリジゴク。〔方〕
  9.アリジゴク。〔方〕
  10.あとしゃれ……後ろに去ること。〔方〕
  11.ツチグモ。
  12.ジグモ。すなわち、ツチグモ。〔方〕
  13.加賀様のお通り……加賀藩の大名行列。  
  14.キリギリス。〔方〕
  15.コオロギ。〔方〕
  16.仙台さんの御紋……伊達家の家紋。
  17.ぶつ……打つ。
  18.わんだれ……お前たち。〔方〕
  19.ごみ。
  20.ここへ来なさいよ。
  21.あかつきに鳴くニワトリの声。
  22.「ほけきょう」。仏教の経典の一つ。
  23.回転すること。
  24.サル。〔方〕
  25.けつあ……「尻は」
  26.しみる……冷える。〔方〕
  27.惜しい。もったいない。〔方〕
 
    人事に関するもの
 
     体部に関する五条
○あわわに碁石 光り饅頭蜂(はち)の巣 芝山きのこきつきつき。(唇歯眼
鼻耳殻(注1)をさす)
○上(あんが)り目に下(さんが)り目 くるりとまわつちや猫の目。
○男の目にや糸張れ 女の月にや鈴張れ。
○頭ちんぢれ毛はぼぼすきだ。
○爺さん姿さん聞いてくれ 私のちんこへ毛がはいた(注2) 茜(あかね)
のふんどしかうて(注3)くれ。
 
 注1 耳殻……耳介(じかい)。耳の穴のまわりに広がっている、貝殻のような形のもの。
  2.「生える」。イとエの交替。
  3.かうて……買って
 
  (改頁)
 
     行為に関する六条
○歩むは上手(じょうず) ころぶはお下手(へた)。
○見まい聞くまい申すまい。
○見た事聞いた事言ふもんだ 聞いた事話すにとが(注1)はない。
○生きた水飲むか 死んだ水飲むか 死んでもままよ 落ちてもま
まよ。
○嫁起きて機(はた 注2)織れ 婆(ばば)起きて飯たけ 野郎起きて米つけ
 泣あ起きて米かめ 爺(じじい)はぢつと寝てゐろ。
○爺ぢつと寝てゐろ 婆起きて火たけ 嫁起きて機織れ 聟(むこ)起きて
山へ行け 餓鬼あ起きて米かめ。
 
 注1 とが……過ち。
  2.布地を織る機械。
 
 
     契約に関する二条
○指切りこ切り うそ言つた者は 地獄の釜(かま)へぽつたんしよ。
(指を互にかけて言ふ)
 
  (改頁)      画像24
 
○しやんしやんしやんよ おしやしやんしやんよ。(手拍(てう)ち)
 
     製作に関する三条
○ちやんぽこ茶釜あ煮えたつた。
○ちやんぽこ茶釜煮えたつた お寺の婆さん跣(はだし)で裸で
水汲(く)みにお出で 澄まばすめ濁らばにごれ お寺の婆さん
水汲みにお出で/\。
○袋になれ かます(注1)になれ。(麺類の切端を焼く時)
 
 注1.穀物などを入れる、むしろの袋。
 
     諧謔(かいぎゃく 注1)嘲弄(ちょうろう 注2)に関する五十一条
○はんこーはんこー飯こぼし 拾つてくれれば又こぼす。(頭髪の
剃(そ)りのこしを嘲(ののし)る)
○縁から落つて鼻ついた 道理で鼻低くいな。
○だんまり団子くそ団子。(無言を嘲る)
○泣いて笑ふは疝気(せんき 注3)の薬。(泣いて直(すぐ)に笑ふを嘲る)
 
  (改頁)
 
○誰かさんの頭へとんぽがとまつた。(塵(ちり)の留(とど)まれるを)
○誰かの頭へ烏(からす)が巣くんだ 小供えぢるな(注4)指でもさすな。(同上)
○月夜に提灯(ちょうちん)あんぽんたん。
○越中富山の反魂丹(注5) それを呑(の)む奴あ あんぽんたん。(売薬を嘲る)
○こそこそ話は江戸まで聞ける 江戸の絵かきが字にかいた。(私語
を嘲る)
○男と女でひつちやんちやん 其水こぼせばもつたいない。(男児女
児共遊を嘲る)
○そればかなんだ 目ん目の垢(あか)だ まつと(注6)まつとたんと(注7) 
天笠(あまがさ 注8)した位たんとたんと。
○大寒む小寒む 山から小僧が飛んで来た 寒かあ三枚着てーろ
熱かあ皆ひつ去れ。
○山人(やもーど 注9)やもーど むすび(注10)ばかでかくて 
束(たば)の中がらんこがらんこ。
                        (薪(まき)取りを嘲る)
 
  (改頁)      画像25
 
○大坊小坊道心坊(注11) 煮ても焼いても 食はれない。
○坊主ぼつくり薩摩芋(さつまいも) 煮ても焼いても 食はれない。
○お坊お坊ねつとー坊 肴(さかな)の骨食いてーか 食いてーこたあ食いて
ーが 和尚さんに叱られる。
○釣つた釣つた えぼ釣つた(注12)。(意地張りを嘲る)
○見えた見えた馬鹿見えた。
○いゝきび団子黍(きび)団子。(爾(なんじ)に出て爾にかへる時)
○一生懸命三升五合。(五月労働の最上給料に起因す)
○一生懸命二升五合 いー黍団子五升。
○小供の喧嘩(けんか)に親が出て 親の餓鬼めが耻(はじ)かいた。
○内の前ぢや犬鳴き 外へ出ちや吠えづる。
○痛かあ鼬(いたち)のくそ三文かつて三年つけろ。
○乞食(こじき)乞食かん袋(注13) 椀(わん)もて逃げろ。
○盗人ぬすと今年のぬすと 油断はならぬ。
 
  (改頁)
 
○真中(まんなか)饅頭端端(はじはじ)花餅(注14)。(友と並ぶ時)
○真中まぐそ端端鼻くそ。(同上)
○見るもなーたーけ(注15) 言ふもなーあほー。
○人の目はちちの目 おらの目はかねの目。
○おれの俵米で 人の俵挽割(ひきわり 注16)だ。
○餓鬼も千人子供も百人 女にまける骨なし野郎。
○人真似こ真似酒屋の狐 かす一本くれて追ひ出せ追ひ出せ。(真似
するを嘲る)
○ちよつ見るちよーり 又見る間抜け 尚(のー)見る鈍間(のるま))。(人の顔を見る時)
○好(よ)かーよけえ引つつれ 悪(わり)かーわれあやまれ いやならおけやれ
桶のびんつう。
○悪かつた勘(かん)しなや(注17) 勘しるひまねい ひま無きやかさかけ かさ
の種もつ来い。
○蜜柑(みかん)金柑(きんかん)酒の燗(かん) 親の折檻(せっかん 注18)子が
聞かん 其子が痺疳(ひかん 注19)で目があかん。
 
  (改頁)      画像26
 
○よしともせつちん(注20)子供の奉加(注21) 赤んぺろりん猫のくそ。
○何んだらなぐれ 棒だら(注22)おしよれ(注23)。
○負けて口惜しか石でもかぢれ 石にやとが無いかぢられぬ。
○女の中の大根棒 男の中の人参棒。
○俵の中のつぶれつ子 女の中の大根葉。
○鉄さん手が無い足が無い 達磨(だるま)の形に相違ない。
○ちよいと手を出す乞食の子 又ひつこむ亀の子。
○鼻垂しの権助 おしやべ(注24)の豆蔵 だまり者のなんか 内にばか居
弁慶 目でつか(注25)の才六。
○おんぼろさんぼろ(注26)黄縞(きじま)んぼろ。(襤褸(らんる 注27)衣を嘲る)
○おんぼろさんぼろあらめ(注28)の行列 ひじきの金比羅(こんぴら 注29)参り。
(同上)
○此処(ここ)まで来いね黄な粉のやつこ。
○嫁さん聟さん夏お出で夏は麦飯とろろ飯。
○嫁□□かーらけ(注30)だ聟□□□とうしみ(注31)だ 油かつてともーせともせ。
 
  (改頁)
 
○人の名を呼んで挨拶(あいさつ)するに「はえ」と応ずれば 鮠(はえ)が
はねれば鰍(かじか)もはねる。「あい」と応ずれは 鮎もはねれば鰍もはねる。
「ええ」と応ずれば 縁から落つて鼻をつけ。「うん」と応ずれば うんと(注32)
またんで(注33)くそ垂れろ。「ふん」と応ずれば 糞(くそ)は猫のくそ焼いてもく
さい。
「なに」と応ずれば 何んだらなぐれ うな(注34)尻なぐれ。無言なれば
だんまり団子十食つて十日の晩にやくたばれ。等といふ。
 
 注1.ユーモア。
  2.ばかにして、からかうこと。
  3.漢方で、下腹のあたりが痛む病気。
  4.「いじるな」。イとエの交替。
  5.腹痛などに用いる丸薬。
 
  6.もっと。〔方〕
  7.たくさん。
  8.雨の時に頭につける笠。
  9.「やまびと」の音変化。山に住む人。山で働く人。
  10.にぎりめし。
  11.道心坊……乞食坊主。
  12.「えぼつる」……すねる。〔方〕
  13.「紙袋(かみぶくろ)」の音変化。紙で作った袋。
  14.笹の葉の形にした餅菓子。
  15.「見る者は、戯(たわ)け」……見る者は、愚か者。
  16.穀物を臼などで粗くひくこと。
  17.堪忍してください。ごめんなさい。〔方〕
  18.体罰(たいばつ)を加えること。
  19.漢方で、小児の慢性胃腸病。
  20.「雪隠」……トイレ。
  21.寄付金(集め)。
  22.「なら」の転。〔方〕
  23.「おしょる」……折る。〔方〕
  24.おしゃべり。〔方〕
  25.大きい。〔方〕
  26.ぼろぼろの衣服。〔方〕
  27.ぼろの衣服。
  28.海藻の一種。
  29.仏法の守り神。航海の安全を守るといわれる。
  30.うわぐすりをかけないで焼いた、素焼きの陶器。(卑語的用法)
  31.灯心(とうしん)の雅語形。あんどん・ランプなどの芯(しん)。(卑語的用法)
  32.たくさん。
  33.待たないで。
  34.お前。〔方〕
 
     悪戯に関する八条
○江戸見たか京見たか。(子供の頭を両手で持つて釣り上げて言ふ)
○今日は二十八日だ 尻まくりがはーやつた。
○素麺(そうめん)蕎麦切(そばきり) すましのお醤油(しょうゆ)で
 かつこめかつこめ。(腕を軽く摩し最後に腋下(わきのした)をくすぐる)
○素麺蕎麦切山椒(さんしょう)の粉 辛いものなんだ大根おろしのことことこと。
                           (同上)
 
  (改頁)      画像27
 
○一里二里三里しりの穴穴。(頸(くび)よりぐりぐさせて肛門に至る)
○川の神(のの)さん(注1)じじばば御免御免。(河へ放尿する時)
○目ん目ん盲(めくら)に当つたら御免よ。(眼を閉ぢて棒をふりて)
○夜の小便目が無い目が無い。(夜の放尿時)
 
 注1.ののさん……神様。〔方〕
 
    数装に関すらもの [但(ただし)子守謡(うた)遊戯謡に属するものは除く]
○一つひよ鳥ニつ梟(ふくろう)三つみみづく四つ夜鷹五つ柄長鳥(注1)六つ
椋鳥(むくどり)七つなん鳥八つ山鳥九つ小鳥十はとーまる。
○一つがらがら二つさんしよの木三つ蜜柑木(みかんのき)四つやうとの木五つ公
孫樹(いちょう)の木六つむくれんじよ(注2)七つ南天の木八つ八重桜九つかうめん十
で殿様おさまつた。
○一番初めが宇都の宮 二又日光の中禅寺 三又お佐倉宗五郎 四又
信濃の善光寺 五つ出雲の大社 六つむねんの天神様 七つ成田の不
動様 八つ八幡の八幡宮 九つ高野の高野山 十で東京の日本橋。
 
  (改頁)
 
○お恵比寿(えびす)さんといふ人は 一に俵をふんまいて 二にはにつこり
笑つて 三に酒をつーくつて 四つ世の中よい様に 五つ泉の湧(わ)く
様に 六つ無病息災で 七つ無事何いやうに 八つ屋敷を平らけて
 九つ小倉をおつ建てて 十でとんとんおさまつた。
○一つとや 一夜あければにぎやかで/\
   お飾りたてたり松飾り注連(しめ)縄かざり
 二つとや 二葉の松は色ようて/\
   三階松はかづさやま/\
 三つとや 皆さん子供衆は独樂(こま)あそび/\
   穴一独樂とり利根(注3)をつく/\
 四つとや 吉原女郎衆は手毬(てまり)つく/\
   手毬の拍子は面白い/\
 五つとや いつも変らぬ年男/\
   お年も取らぬで嫁をとる/\
 
  (改頁)      画像28
 
 六つとや 無理にしめたる玉帯を/\
   雨風吹いてもまだ解けぬ/\
 七つとや 南無阿弥陀仏(なむあみだぶつ)と手を合せ/\
   後生(ごしやう)願のお爺さまお婆さま
 八つとや やーをら良い子ぢや千代の子ぢや/\
   お乳で育てたお子じやもの/\
 九つとや 此処で別れて何処(どこ)で逢ふ/\
   極樂地獄の道で逢ふ/\
 十ーとや 戸隠山の八重桜/\
   一枝おくれや御爺さまお婆さま。
○正月とへ 障子あければ万歳が/\
   皷(つづみ 注4)の音より謡(うたい)の声/\
 二月とへ 二月参りは寺参り/\
   今日は彼岸のお中日/\
 
  (改頁)
 
三月とへ 桜仏のお釈迦(しゃか)様/\
  飾つて都の内裏(だいり)様/\
四月とへ 死んで又来るお釈迦様/\
  竹の柄杓(ひしゃく)で祝ひませう/\
五月とへ こんこん前掛とつて置いて/\
  正月掛けよととつて置いた/\
六月とへ 碌(ろく)に田の草取らないで/\
  前掛無いとてお腹立ち/\
七月とへ 質屋番頭は急がしや/\
  質を受けたり流したり/\
八月とへ 蜂(はち)に刺されて泣いて来た/\
  誰かお薬ないかいな/\
九月とへ 草の中には菊一本/\
  方々の子供が見にくるよ/\
 
  (改頁)      画像29
 
十月とへ 重箱背負(しょつ)てどこへ行く/\
  今日は恵比寿講のお使に/\
十一月とへ 十一月は蔵開き/\
  お蔵を開いて祝ひませう/\
十二月とへ 十二月は年取りで/\
  お年を取つたら祝ひませう/\。
 
 注1.「えながどり」……語頭は、エではなく、イの発音か。
  2.「むくれんじ(木欒子)」……「もくげんじ」の異名。落葉高木の一つ。
  3.生まれつき賢いこと。
  4.「鼓」の別体。
 
 
    三 遊 戯 謡
 
     役目の決定二条
○ぢやんけんぽいよ。或(あるい)は ちつちつぽい。等は蛇蛙(かえる)蛞蝓(かつゆ 注1)の虫拳(むしけん)又は石袋鋏(はさみ)の拳にも用ひて役目を決定する。更に狼狽(ろうばい)させる為(た)めには石なしよ鋏なしよ等を交へてすることもある。
 
  (改頁)
 
○一人二人三めの子 よつて突つく(かん烏橋の下の)くそかき捧
といてかいてひんなめろ(注2)。とて最後に当るを決定者とする。
 
 注1.なめくじ。
  2.ひんなめる……なめる。〔方〕
 
     凧あげ一首
○凧凧あがれ天風吹け山風吹け。
 
     しんから一首
○しんからかいた(注1) からかいた(お寺)(お宮)の前でからかいた。
                       (片足跳び)
 
 注1.「しんから かく」……片足跳びをする。〔方〕
 
     関東するす一首
○関東するす(注1)は良いするす ひいてもついても五斗八升。(車前の花
梗(かこう 注2)を組みて引き切る遊び)
 
  (改頁)      画像30
 
 
 注1.するす……すり臼。もみすり。〔方〕
  2.花をつける柄。
 
     尻まくり二首
○今日は二十八日だ 尻まくりがはやつた。
○二十五日の尻まくじよう(注1)がはやつた。
 
 注1.尻まくり。子どもが和服で通学した頃のいたずら遊び。〔方〕
 
     鬼 子 七 首
○おかしいかわら おさへておくれ。
○鬼の来ぬまに洗濯でもしやしよ(注1)。
○由良(ゆら)さん(注2)こつち手のなる方へ。
○鬼の来るまで洗濯でもしやしよ 鬼の来るまで豆でも炒(い)りやしよ
 がらがらがら 石臼(いしうす)がらがら 豆ばたきとんとん。
○石臼がらがら豆ばたきとんとん 私(わし)よも仲間に入れとくれ 何く
れる 金襴緞子(きんらんどんす 注3)の帯くれる いつくれる 今くれる それではおは
入り石臼がらがら豆ばかきとんとん。
 
  (改頁)
 
○いんちよ にんちよ さんちよ しんちよ ころばこたて山乗鞍(のりくら)
の上で 十方八方はりまの林のおでんでに でこの坊おほらに ほ
んのうけしよえしよ。
○ざいざいざんから もんから あんから もんから ずい鳥ほに
拔かれてとちぐるま ちやあかほい。
○休む時は てんま。或はてんきゆ。
 
 注1.しやしよ……しましょう。〔方〕
  2.昔流行した子どもたちの遊び。〔方〕
  3.綾(あや)などの地に、金糸を織り込んで紋様を表した豪華な織物。
 
     おこんさん一首
○おこんさん おこんさん 遊びにお出で おこんはまだ寝てゐる
ぜ まあ寝坊だいな。
 
     かくれんぼ二首
○馬のねんぼう ぐうつぐつ。
○隠れろよ かかか河原の鱒(ます)は 河へおんで 小豆(あずき)か豆か ちよつ
 
  (改頁)      画像31
 
くら(注1)ちよつと ひんなめたんまい。
 
 注1.ちょっと。〔方〕
 
     大かん小かん一首
○大かん小かん どの子が欲しや (児名)さん欲しや 何をくれ住
むや 砂糖饅頭(まんじゅう)毛饅頭 そりや虫の大毒だ。
 
     中の小坊ぶん二首
○中の小坊さんなぜ背が低い 青葉にもまれてそれで背が低い。
○中の小ん坊たちやなぜ背が低い 去年の春の青葉にもまれてそれ
から背が低い。
 
     人形おくれ一首
○人形おくれどの子がよかろ ちよいと見て此子 よく見て此子
何買つてくれる 赤い飯(まんま)に肴(とと)かつてくれる 肴に骨ある かんでく
 
  (改頁)
 
れる かみ虫たかる 洗つてくれる 洗ひ虫たかる ほしてくれる
 ほし虫たかる 浅草の豌豆(えんどう)まめ十買つてくれる そりや虫の大毒
だ 一匁(もんめ 注1)いやいや二匁いやいや三匁いやいや。
 
 注1.昔の重さの単位。一匁は、三・七五グラム。
 
     向うの叔母(おば)さん一首
○向うの叔母さんお茶のみお出で 鬼がこはくて行かれません そ
んなら私(わたし)がお迎ひに。
 
     ちよんきな(狐拳(きつねけん))一首
○ちよんきな ちよんきな ちよんちよんきなきな ちよんがなん
だそれ ちよちよんがほい。
 
     草履かくし二首
○草履草履近所 橋の下の菖蒲(しょうぶ) 咲いたか咲かぬか によいによい
 
 
  (改頁)      画像32
 
車を 手に取って見たれば ひどろくまどろく 十三さぶろく ろ
くよろくよ 草履かくしのこうねんぼう こうやく番所の寝る番所。
○草履近所近所 おたまがたつくりつくり お寺の皿が七皿八皿
八皿の内に欠けたがあれば あつちやが鬼よ。
 
      蛇も百足(むかで)も一首
○蛇も百足もどーけどけ おりやあ鍛冶(かじ)のめえ(注1)婿(むこ)だ 
鎗(やり)も刀もさして来た 胴腹切られてびりめくな。
 
 注1.「うめえ(=うまい)」の転。
 
      ひいひいたごろ一首
○ひいひいたごろ 火はどこに御座る あの山越えて 中にちやか
んちやかん。
 
 
      やあらんせ一首
 
 
  (改頁)
 
○やあらんせやあらんせ どっこい一杯やあらんせ もうはやここ
らで休みませう 一文まかるかまからんか 名のれ。
 
      かごうめ三首
○かごうめ籠目(かごめ) 籠の中の鳥は いついつ出やーる出やる。
○かごうめ籠目 籠の中の鳥は 朝早く起きて先づまづこごーれ(注1)こ
ごれ。
○かごうめ籠目 籠の中の鳥は いついつ出やる 十日の晩に鶴亀
出やる出やる
 
 注1.「こごれ」……くぐる。〔方〕
 
      ここはどこの細道二首
○ここはどこの細道だ 天神様の細道だ 少し通てし下しやんせ
御用の無いもな通されぬ 天神様へ願かけに 通らんせ通らんせ
行きなずんずん帰りにやこはい。
 
  (改頁)      画像33
 
○亀井戸(かめいど)の天神さんの反橋を さあ通して下さんせ 用の無い者通
らせぬ 天神さんへ願あげる 通りやんせ通りやんせ 行きはよい
よい帰りはつらい。
 
      ひいらいた一首
○ひいらいたひいらいた 蓮華(れんげ)の花ひいらいた 開いたと思ったら
さっと又つぼんだ。
つぼんだつぼんだ 蓮華の花つぼんだ つぼんだと思ったら さっ
と又ひいらいた。
 
      手ばたき四首
○りきりつちよい やつちよいちよい 一(ひ)いとつ二(ふ)うたつおん三(み)の
み 早う早うぐんぜいよ ぐんだの婆さんにうちようよ 助さん小
間物(こまもの 注1)売れたかね あすは旦那(だんな)の稲苅で 小束に
まるけて(注2)ちよいと投
 
 
  (改頁)
 
げろ。
○丸山土手(どて)から東を見れば見ればね 門のとひよりおつさよさんの
かいちよねかいちよね おさよさせたら常代(とこよ 注3)のくらしをねくらし(注4)を
ね 誰にもらったか源次郎さんにもらったねもらったね 源次郎男
は伊達者(だてもの 注5)でこうまるね困るね 伊達者見込みは七月八月ね八月ね
そうこでおさよさんも涙をこぼすねこぼすね。
○一かん木のうら ちよび助さん 蛇(じゃ)の目の傘(注6)三階で 新式鉄砲五
さいで むねむね鉄砲お出でなさいお出でなさい。
○すとんともちこめ色白ごりごり さけのしはざけさんまの世界は
どうれでお立がま黒で ひめさんとらさんしくじった 大阪天満(てんま)の
真中で 泥棒三人つけこんで こんな悪いことした事初めてだ。
 
 注1.化粧(けしょう)に使うこまごましたもの。
  2.「まるける」……丸める。〔方〕
  3.永久に変わらないこと。現実とは異なる世界。
  4.「ねくらし」……寝暮らし、か。
  5.外見だけを飾る男性。
  6.「蛇の目の傘」……紺地などに白い蛇の目を表した、からかさ。。
 
      貝はじき九首
○一寸(いっすん)来ちやすいよ 二寸来ちやすいよ 三寸目にやおとり。
 
  (改頁)      画像34
 
○一(ひ)と子に二た子 見わたし嫁御(よめご) 嫁御に弥次郎 長崎唐人(注1) 熊谷
敦盛(くまがい あつもり 注2) 九つ十。
○一本たつぽんまんがら九つ十。
○はまぐりはむしのどく。
○つうわんたこかいな。
○ひにふにふん達磨(だるま) 夜も昼も赤い頭巾(ずきん)かんぶり候(そうろう)。
○一(ひいと)つ二(ふうた)つふんだる達磨に 赤い頭巾(ずーき)をかーぶせた。
○こほひ(注3)に出て貝ほれば あさり蛤(はまぐり)数多し 昨日もこうごに導けり
 今又行かん父上を。
○一寸来ちやすいよ 二寸来ちやすいよ 三寸来ちやすいよ 四寸
来ちやすいよ 五寸めにお止め。
 
 注1.昔、中国人をさしたことば。
  2.鎌倉時代初期の武将・熊谷直実(くまがい なおざね)は、一ノ谷の合戦で平敦盛
   (たいらのあつもり)を斬った。これをきっかけに、直実は出家した。(『平家物語』
   に伝えるエピソード)
  3.「子負う」か。
 
      羽根つき十一首
○ひーやふ みーやよ いーつやむ なーなややー こーこのやと
 
  (改頁)
 
を。
○一(いち)や二(に) 三や四 五や六 七や八 九や十。
○一と児に二た児 見わたしや嫁御 何時(いつ)来てみても 斜子(ななこ 注1)の帯を
やの字にしめて 此処(ここ)のやに泊(とま)り。
○一と児に二た児 見わたし嫁御 嫁御の尻を あいたつたこいた
った 九やじや十。
○一と児に二た児 見渡す嫁御 嫁御の尻に 根ぶと(注2)が出来て あ
痛(いた)つこ痛(いた)つ。
○瓢(ひよー)やひよこべ 菜種のみやこ いつむさしならか やくし九やで
十ついた。
○いちごちやにごちや さんごちや桜 五葉(ごえふ)松柳 柳の下で 化粧
して十よ。
○一人来ちや二人来 皆来て寄つて来な いつ来て見ても 斜子の
帯を やの字にしめて ここのやぢやとまり。
 
  (改頁)      画像35
 
○一目二目 三あかし四めご 五やの昔 七屋の八さし 九や十よ。
○一月二月 三月桜 桜の下で 化粧して十よ。
○一月二月 三月桜 五葉松柳 柳の下で 化粧して十よ。
 
 注1.平織りの絹織物の一つ。織り目が細かくて、斜めに並ぶ。
  2.根の大きい、はれもの。
 
      玉とり八首
○お一(ひーと)つお二(ふーた)つお三(みーい)つお四(よーお)つ
 きいくね きなこ石 きなこー石
えだおれ えだおれ ぢつたーたき ぢつたーたき ぢごすり 一
度二度三度四度五度 つうばつばつば……二つば二つば五つつば…
…玉おもらひ玉おもらひ……おしいまいおしまい かんなぐり(注1)。
○お一つお二つお三つお四つ きいくねきなこ石 えんだ折れ 分
れ石 お手入れ 地叩き 地ごすり 置きじつた おき林檎(りんご) つば
つばつば 一つば二つば三つば四つば五つば五つば どれしよ は
ばおもらひ けしだーをれ 馬乗れ 川越え川越え川越え川越え
かます入れ かます出し 籠(かご)抜け おんまねき 柳だれ かんなぐ
 
  (改頁)
 
り 一箇(いっこ)二箇三箇四箇五箇。
○お一つお一つ お二つお二つ お三つお三つ お四つお四つ お
すてんばらりん くわんでくわんで やんまいやんまい おざしき
おざしき みきさんまいみきさんまい おさいれおさいれ おねが
へしおねがへし おにもつこい かきどし ばったん ももどし
ばったんばったん 一俵二俵三俵四俵五俵のお俵 おしかけおしか
け お廻(まわ)しお廻し おさらひ お一とわきお二たわきお三いわざお
四わさお五つわさお六わさお七つわさお八つそーお九つそー十さも
たんたん たんたん滝水おん澤蓮華(れんげ)の花見やれ 亀来い 向ひの山
の雨ふり花は 咲いたか咲かぬか私(わし)やまだ知らぬ むかひもちよん
ぎり 一度二度……三十度 おしまひ しまって洗濯でもやりやん
せ かんなぐり。
○お一つおろしてさーらり お二つおろしてさーらり お三つおろ
してさーらり お四つおろしてさーらり おてさきおろしてさーら
 
  (改頁)      画像36
 
り おはさみおろしてさーらり おちりこおろしてさーらり よせ
ちよんぎりおろしてさーらり おんば(注2)おろしてさーらり がりがり
がりがり ありんほうひう 川越してさーらり おほむね川越して
さーらり おにぎりおろしてさーらり 小さなはしこぐれ(注3) 大きな
はしこぐれ 川越してさーらり。
○ひーふーからくりからの糸 お口を揃(そろ)へて置いたれば 夕べの嵐
で皆まった。
○えちよ(注4)かつけーし(注5) えちよ にちよかつけーし えちよにーちよ
 みちよかつけーし えちよにちよみちよ……(十まで)
○一つぱえー一つぱ 二つぱえー一つぱ二つぱ三つぱえー一つぱ二
つぱ三つぱ……(十まで)
○えちよまい(注6)の鍋蓋(なべぶた)きせやんしよえちよ にちよまいの鍋蓋きせや
んしよにちよ……(十まで)
 
 注1.「かんなぐる」……いいかげんにしておく。〔方〕
 2.おんぶ。背負うこと。〔方〕
 3.「こぐる」……くぐる。〔方〕
 4.「一丁(いっちょう)」の転。
 5.「かっけーす」……掘り返す。かき混ぜる。〔方〕
 6.「一丁前」の転。
 
 
  (改頁)
 
     手   毬(まり)
     ぶらぶら三首
○提灯(ちょうちん)ぶらぶら先(ま)づ一本しよ。
○提灯ぶらぶら簪(かんざし)ぶらぶら先づ一本しよ。
○柳ぶらぶら先づ一本しよ。
 
     むし虫一首
○蓑虫(みのむし)桑虫轡虫(くつわむし)まづまづ一本しよ。
 
     おねんじよ様一首
○おねんじよ様へ およねが十よ。
 
     雪をまるめて一首
 
 
  (改頁)      画像37
 
 ○雪をまるめてお玉とつけて 抱いて寝たれば皆溶けた皆とけた。
 
     蜜柑金柑一首
 ○蜜柑金柑なで泣くや おかさんに抱らで乳のんで はは面白い面
 白い。
 
     入れかヘ一首
 ○入れかへ入れかヘ 一つと入れかへ入れやんしよ それとん一つ
  入れかへ入れかへ二つと入れかへ入れやんしよ それとん二つ……(十まで)
 
     ひふみ二首
 ○ひでふで みでよで いつもで ななやで このとで どでち三
 四で あさまりおくにで おくさんさぶろく なしなしなので あ
 
  (改頁)
 
かかんからよし ちしたはちじきうでるおた。
○ひふみよ五六七八九十 十で二十三十四でおさまり おくにでお
くさん さぶろくおんしな しなのでおかがん がんしよで七七七
十 八八八十 九十九貫で百織った。
 
      お仙や二首
○お仙やお仙やよう聞けや あの山茜(あかね)のいろ躑躅(つつじ)
 色よく咲いたと 思たれば 雨風吹いて色さめた。
○お仙やお仙やなぜ髪結(ゆ)はね 櫛(くし)が無いかい小よりが無いか 櫛も
小よりも懸子(かけご 注1)にござる 親に別れて傳兵衛さんと江戸へ 江戸の土
産(みやげ)に何んぞ貰(もろ)ろた 赤い手箱に引出しつけて(四十五貫の手箱を貰
ろた)あけて見たれば鍛子(どんす 注2)の帯よ 帯にや短かし襷(たすき)にや長し 
お寺若衆の笠緒によかろ しめてかぶせてお伊勢(いせ)様(注3)へ行けば 伊勢の道
には見事がござる 七つ小女郎が八つ子を孕(はら)み 産むにやうまれず
 
  (改頁)      画像38
 
下(おろ)すにやおりず 向う通るはお医者じやないか 医者は医者だが薬
箱もたぬ それをお医者と言はれうものか 山で山吹河原で蓬(よもぎ) そ
れを煎(せん)じて飲ませたならば あすの(夜あけ)(七つ)にや産れう程に
若(もし)も其(その)子が男の子なら 寺へ上せて(学問)(手習)させて(寺で)(手
習)無調法(ぶちょうほう 注4)で博奕(ばくち 注5)をこえて(博奕こきこきこ
き負されて)高い縁か
らつき落されて 楊枝(ようじ)や落れば鼻紙や落ちる 落ちる所へいろはと
書いて いろはのいの字がよく書くならば 書いて上げましよ師匠
様へ お師匠様へ 先づ一本。
 
 注1.二重構造の容器。
  2.地の厚い絹織物。
  3.伊勢神宮。
  4.相手の期待にこたえられないこと。
  5.かけごと。
 
      おらが一首
○おらが少さい時や利口で器用(きよ)で 裏の小川で小石を拾って 砂で
磨(みが)いてやすりをかけて 紙に包んでおこや(注1)へ投げりや おこや女郎
衆は金だと思て 行けばよう来た酒買っちや餅(もち)ついちや祝ふ。(酒は
貰はで盃(さかずき)や紅葉(もみじ) なんぼ下戸(げこ 注2)でも三つあがれ。)
 
 注1.お小屋……常設の建物。
  2.お酒を飲めない人。
 
  (改頁)
 
      おらが姉五首
○おらが姉さん観音(かんのん)参り 下に白無垢(しろむく 注1)しらが(注2)の帯よ
 二十目綿帽子 ほわりとかぶり 一や二 三や四……九や十。
○おらが姉さん観音参り 一の段から二の段までも 三の段からけ
がれて落ちて 笹で目を突いて痛いとおしやる 医者を呼べかい目
医者を呼べか 医者も目医者もなな呼んでくれと(注3) 明日は吉(きち)さんの
手にかかる。
○おらが姉さん焼餅すきで 隣よばれて十三たべて 一つ余して袂(たもと 注4)
へ入れて 馬に乗るとてすとんと落し(後の馬方拾ってよこせ 足
で蹴(け)あげて烏(からす)にくれて からすいやいやとんびにくれて 
とんびいやいや雀(すずめ)にくれて 雀ちやくや皆たべた。)(取るにや恥(はずか)
し取らぬにや惜しし 後の馬方一寸(ちょっと)取って皆だべた。)
○おらが姉さん三人ごさる 一人かたづき其あと取りは 江戸へ参
 
  (改頁)      画像39
 
りて十三年期 年期勤めて身を拵(こしら)へて 親や兄弟へ逢ひたいものと
姉の方へと先づ一寸よれば 姉は喜ぶ涙をこぼす 裏の細道しよ
こしよこ行けば 真黒林の小松のかげで あちらこちらとお話なさ
る あれは誰よと友達に聞けば 彼(あれ)は塩田(しほだ)の姉婿様よ 従弟(いとこ)
傳吉(でんきち)名は吉三郎 親の譲りの長脇差(ながわきざし 注5)を 
さいて(注6)飛ぶ(注7)とこお勘(かん)が見つけ お勘そこに居てにこにこ笑ふ 
お勘よう聞け我君様は 宵(よい)にや夜遊び朝寝がすきで たけし(注8)
子供が三人ござる 一人姉さん太鼓が上手(じょうず)
 一人姉さん鼓が上手 一人姉さん仕立屋でござる 仕立屋一番伊達
者でござる 伊達者ながらも実者(じつしゃ 注9)でござる 五両で帯買って三両で
くけて(注10) くけめくけめにくけ針かつて 折目折目に折り房さげて
之を結んで御家中(ごかちゅう 注11)へ行けば 御家中若衆に抱きしめられて 帯が切
れるに放して頼む 帯の切れたは結びもするが 縁の切れたは結ば
れぬ結ばれぬ。
○おらが姉さん織機(はたお)るは 七つ拍子か八つ拍子 大奥山の山寺の
 
  (改頁)
 
つつつき椿(つばき)の若板を 一枝おろしてお手に持ち 二枝おろして腰に
さし 三枝折る間に日がくれて 西の長者に泊らうか 東の長者に
泊らうか 西の長者にや熊が居た 東の長者に泊まって 已(おのれ)が姉子
に似た人が 盃持って酒持って 一杯あがれや上戸(じょうご 注12)さん 肴が無い
とて上らんか おらが方の肴は 高い山の鷹(たか)の子 低い山の蟇(ひき)の子
 舞って通るは雉(きーぢ)の子。
 
 注1.上着と下着、全体が白一色の着物。
  2.婚礼の贈り物に使う、麻の繊維を髪の毛のように細くしたもの。
  3.「なな呼んでくれと」……呼ばないでくれ。「なな――と」は、奈良時代以来の禁止の表現。〔方〕(「古語は方言に残る」の典型例である)
  4.和服の袖(そで)の下方の、袋状の部分。
  5.腰にさす小刀。
  6.「さして」の転。
  7.走る。〔方〕
  8.成長した。
  9.しっかり者。
  10.「くける」……縫う。〔方〕
  11.大名の家臣団。
  12.酒がたくさん飲めること。酒飲み。
 
      おらの兄一首
○おらの兄(あに)しやん編笠買ひに 何の編笠女郎(注1)買ひに 吉原(よしわーら)
の裏の河(かーは)
に 赤(あーか)いきれが流(なーが)れた それとーめろやれとーめろ とめて
見たれば おいらん(注2)さんの襦袢(じゅばん 注3)のお袖(そで)か
 新しお客のふんどしか まづ一本しよ。
 
 注1.遊女。
  2.上位の遊女。
  3.和服の下着。
 
      おらが弟一首
 
  (改頁)      画像40
 
〇おらが弟千松は 京へ上りて船を(かみ)(こぐ) 船は何船かんと(注1)
船 かんと続いて信濃まで 信濃の問屋(とんや)へ布買ひに 布は何布表布
 表紫むら雀(注2) 羽を揃へて舞ふところ 舞ふところ。
 
 注1.「官途」……鎌倉時代の京官か。
  2.「群雀」……むれをなしているスズメ。
 
      おらがお亀一首
○おらがお亀はりうこそで 松下松屋へ貰はれて 夫婦の中はよけ
どれも 小姑(こじゅうと 注1)の中は悪(わる)くって 花のお江戸を奉公に
一年勤めて二年目に とんとお亀が病み出して お医者のとこへも人をやり 鍼
者(はりしゃ 注2)のとこへも人をやり お医者も間もなく馳(は)せつけて
右や左の脈を見せ 脈はないぞいお亀殿 お亀も泣いて言ふ事にや 此春こし
らへた赤もく(注3)は あれは妹の譲りもの 白もの綸子(りんず 注4)は
母様へ 鏡と手箱は寺へやろ 寺へやろ。
 
 注1.夫もしくは妻の姉妹。
  2.「鍼医者」の略か。鍼(はり)……医術の一つ。
  3.海藻の模様の着物か。
  4.生糸(きいと)で織り上げた、つやのある絹織物。
 
      おらが隣一首
 
 
  (改頁)
 
○おらが隣の助さんたちは 鉄砲かついで五升(注1)樽(たる)さげて 雉(きじ)のお山
へと雉ぶち(注2)行けば 雉はけんけん(注3)山鳥やことこと(注4) 一年もよてもま
だ来ない 二年待てどもまだ来ない 三年さきから文が来た 其文
を読んで見たれば あすこどーしやれここどーしやれ 熊野どーし
やれお肩にかけて帷子(かたびら 注5) 片裾(かたすそ)の梅の折技(中はこりよーげの
そーれはれ それ橋う渡る)ちやんぽこ始まり ちやにこに事ずみ どこ
でうたれた あづま街道でうーたれた あづま街道のお茶屋の小娘
兄弟三人もーち候 姉よーりも妹よーりも 内についたる中娘 一
つでは乳を喰(く)うはひ 二つで乳離れなーされた 三つーでは皆の子
供衆とお遊び揃ひて 四つで糸をとーり候 五つーでは管(くだ)を巻き(注6)候
六つで黒機織り候 七つーでは七重錦を織り揃(そーろ)へ 八つで約束なー
された 九つでここへ嫁入り 十で殿御となーされて お十一やお
十二ーでは 玉の様なるおぼこ(注7)を持(もー)ちて 其子が春日山へしろを立
てて 其しろがいやと思へば おとぎりす(注8)きりぎりす 始めて都へ
 
  (改頁)      画像41
 
お上りか 都のお話おん聞きや(娘一人持ったれど あちらこちら
へもらはれて 吾妻(あずま)問屋へ定って 絹の着物を七重(かさ)ね 金襴緞子を
七重 七重八重揃へてやるからは 先い行かうと思ふなよ 後に帰
ろと思ふなよ(父様母様何おしやる)帯で世間が知らりようか 着
物で世間が知らりようか(これ程揃へてやるものを 内へ帰ると思
ふなよ江戸へ帰ると思ふなよ)(日本(ひのもと 注9))かがやくお日様は 西が曇れば
雨となる 東が曇れば雪となる 北山曇れぼ雹(ひょう)となる。)
 
 注1.升(しょう)。尺貫(しゃっかん)法で、容積の単位。一・八リットル。
  2.「ぶつ」……撃つ。〔方〕
  3.雉(きじ)の鳴き声。
  4.山鳥の鳴き声。
  5.麻(あさ)の単衣(ひとえ)。
  6.「管を巻く」……酒に酔(よ)って、くどくどしゃべる。
  7.世間に慣れていない女の子。
  8.植物「おとぎりそう(弟切草)」の異名。
  9.日本をほめた呼び名。
 
      おらが裏三首
○おらが裏のちしやの木に 雀が三疋(びき)とーまつて 一羽の雀は鷹に
追はれて あれやぽんぽんこれやぽんぽん お前に百貸した。
○おらが裏のせんざい(注1)に 鶴と亀とが巣をかけた 何にするとて巣
をかけた 簑(みの 注2)にするとて巣をかけた 簑になるまい笠になろ 笠は
何笠越後笠 越後の祭に出したれば 一貫五百と値がついた 一貫
 
 
  (改頁)
 
五百で売るよりも 家のお亀に被(かぶ)せたい被せたい。
○おらの裏のぢしやの木に 雀が三疋とーまつて 中の雀の言ふこ
とにや おらが座敷は廣(ひろ)座敷 おすべり(注3)三枚呉座(ござ)三枚 続いて六枚
引いたれど 百圓(えん)屏風を立てかけて(咋夕よんだる花嫁御)今朝も
座敷へ出したれば おめくり(注4)おしやくり(注5)お泣きやる 何が不足でお
泣きやる 何も不足ぢや無いけれど 小袖(注6)の小褄(こづま 注7)へ血が付いた 血
ーぢや無いもの紅(べに)ぢやもの それでも血ーぢやとおつしやらば 馬
に鞍(くら)置け善三郎 とーても送らば関東まで 関東続いて信濃まで
信濃土産は何々ぞ 一に香箱(こうばこ)二につづら 三に更紗(さらさ 注8)の
帷子(かたびら) 誰に着しよとて買うて来た 奥に着しようと買うて来た
奥に死なれて今日七日 七日経てども人知らず 裏の細道出て見れば 五人の子供
は廣袖(ひろそで 注9)で 青竹なんぞを枝につき 黒竹なんぞを腰にさし えーぢ
や友達花折りし 何の花ぞと聞いたらば 桔梗(ききょう)花や黄金(こがね)花 一枝折
れば傘にさし 一枝折りてはお手に持ち えーやー友達宿とりに
 
  (改頁)      画像42
 
宿へ帰りて見た時が 友達や来たなら寄れと言へ 乞食(こじき)が来たなら
くれてやれ 豆蔵(まめぞ 注10)が来たなら戸をたてろ 代官が来たなら塁(るい 注11)
引け 塁引いたら火あげろ お火をあげたらお茶たてろ お茶たてしーな
も口きくな お父やんどこへと問ふたらば お父やん秩父(ちちぶ)へ符(ふだ)うけ(注12)
に お母やんどこへと問ふたらば お母やん善光寺へ念仏に 兄さ
んどこへと問ふたらば 兄さんお江戸へ商(あきな)へに 姉さんどこへと問
ふたらば 姉さん浅間へまき取りに まづまづ一本貸しやした そ
れとん。
 
 注1.前栽……庭先に植え込んだ草木。
  2.カヤ・スゲなどで編んだ雨具。
  3.イグサなどで編んだ敷物。〔方〕
  4.「おめく」……さけぶ。わめく。
  5.「しゃくりあげる」……息を吸い込むようにしながら泣く。
  6.絹の綿入れ。
  7.着物の襟(えり)から裾(すそ)にいたる、へりの下の方。
  8.人や花鳥などの連続模様をいろいろの色で織り込み、または型染めした綿布や絹布。
  9.着物のそで口が、そでの下の部分まで広くあいているもの。
  10.おしゃべりな人。〔方〕
  11.塁……とりで。
  12.ふだうけ……ふだ(神仏の守り札)をもらいに行くこと。
 
      向ふの山四首
○向ふの山で光るは何(なん)だ 月(つーき)か星か月でも無いが星でも無いが 大(おー)
丸(まん)様の嫁入仕度(じたく) 箪笥(たんす)長持ぎしぎし下る どこまで下る奈良まで
下る 奈良で一番壮屋(しょうや 注1)の娘 本田(ほんだ 注2)も上手
島田(しまだ 注3)も上手 後から見ても前から見ても しらべの如くしらべのうちで
蜜柑(みかん)がうれる 売れど
 
 
  (改頁)
 
もままよ買へどもままよ おらが少い時あお乳を喰(くは)へて なんばん(注4)
付けたら辛(から)かった。
○向ふの山で谷底みれば 名古屋の城は高い城で 一段あがれ二段
あがれ 三段めは良いよい良い子が三人御座る 一に良い子は糸屋
の娘 二に良い子は二の屋の娘 三に良い子は酒屋の娘 酒屋一番
きりようがよくて 立てで芍薬(しゃくやく 注5)すわれば牡丹(ぼたん)
 歩く姿は百合(ゆり)の花(注6)。
○向の山で竹切る人は (十次郎)(長五郎)さんか五郎さんか 帰り
に寄ってお茶あがれ お茶よーりも新茶よーりも お茶屋の娘にち
ょいとほれた ほれたなーらば 抱いて寝なんせ しつししの毛
ほつほほの毛 ほの毛を焼けばぴちぴちはねる。(猫や猫や今に五郎
さんがお帰りなるから 夜具(にやご)も蒲団(ふとん)もたたんでおけよ。)
○向の山の鳴鳥は ちうちう通いかめい鳥(注7)か 源次郎さん土産に何
貰った 銀ざし簪(かんざし 注8)貰(もら)った 其銀ざし簪どうやった 屏風(びょうぶ)
のかげに置いたれば ちうちう鼠(ねずみ)が引いていった どこからどこまで引いて行  
 
  (改頁)      画像43
 
つた 鎌倉街道へ引いていった 一お茶二お茶三お茶桜 桜の下で
ぼうちよ(注9)に蜂にお手をさされて 痛いとも言はずかい(注10)とも言はず
唯泣くばかりしよ。
 
 注1. 江戸時代、村の行政事務をあつかった者。(主に西日本での呼び名。東日本では
  名主(なぬし))。
  2.「本田髷(ほんだまげ)」……女性の髪形で、髷尻を高くしたもの。遊女などがゆった。
  3.「島田髷(しまだまげ)」……おもに未婚の女性がゆった日本髪。
  4.トウガラシ。〔方〕
  5.夏の初め、ボタンに似た、大形の赤または白の花が咲く。
  6.「立てで~百合の花」……美人の姿を形容する言い回し。
  7.「鳴鳥(めいちょう)」=美しい声で鳴く鳥の意か。
  8.女性の髪にさす、かざり。
  9.「茅蜩(ぼうちょう)」……ヒグラシの異名か。
  10.「かゆい」の転。
 
      向ふ通る二首
○向ふ通るは糸屋の娘 京都一番伊達者(だてもの  注1)でござる 諸国大名は刃物
で殺す 糸屋娘は目で殺す。
○向ふ通るは学者ぢゃないか 六(むっ)つの時から学校通ひ 夏の暑(あつさ)も又
冬の日も 雨の降る日も風吹く日でも 唯の一日不参(ふさん 注2)をせずに 精
を出したる利発(りはつ 注3)の娘 いつの試験も皆ほめられて 今じゃ生徒の第
一番。それと言ふのも常平常(つねへいぜい 注4)に 人の言ふことよく聞き分けて 朝
も夕べも我儘(わがまま)いはず 父母の教を内には守り 出ては教師のさとし
を受けて 習ひ覚えし其(その)いさほし(注5)よ 親の名までも世間でほめる
ほんの孝行娘ぞや 先づ一本しよ。
 
 注1.見栄を張る者。
  2.出席しないこと。
  3.かしこい様子。利口。
  4.ふだん。いつも。
  5.誠実勤勉である。功績がある。勇者らしい。
 
 
  (改頁)
 
      おん正正月二首
○おん正正正正月は 松立てて竹立てて 喜ぶお方はお子供衆 旦
那の嫌(きらひ)は大晦日(おおみそか) 一夜明ければ元日で 御年始御祝儀申します お
茶もて来い お煙草盆(たばこぼん 注1) お茶菓子なんぞは早や持てこい。
○おん正正正正月は お目出度い 松飾り竹飾り 飾の下から出た
鳥は 羽根が十六目が(一つ)(三つ)目ーが(一つ)(三つ)で舞ってく
と 石やごーろのまん中で 誰かたーれが石投げた 男の子供が石
投げた 男の子供はにーくいな 女の子供は可愛な(一や二……九
や十。)(それから難所へ橋かけて 難所のおしよろ(注2)でとめられて雪
踏(せつた 注3)雪踏といやならば 紙の草履をふんでやろ 先づ一本しよ。)
 
 注1.喫煙具一式をのせる容器の総称。
  2.「お精霊(しょうりょう)」……死んだ人の魂の転か。
  3.竹の皮の草履(ぞうり)の裏に、革をはり、金具を打った、はきもの。
 
      おん白白一首
○おん白白白白木屋の お駒さん才三(さいざ)さん 煙草(たばこ)の煙は十八九
 白山(はくさん 注1)
 
  (改頁)      画像44
 
様の唐紙(からかみ 注2)は ちらしが付いて美しや 紅葉(もみじ)が付いて美しや。
 
 注1.「白山比咩(しらやまひめ)神」をまつる神社。
  2.ふすま。
 
      おんさ(注1)のさヘ一首
○おんさのさ後(うしろ)のさ がいもく(注2)よ はまぐりよ ろしやの兵隊うし
ろ退(の)き がいもくよ はまぐりよ ろしやの兵隊うち懲(こ)らし(注3) 一や
二三や四……九や十。
 
 注1.合いの手の一つか。
  2.水藻。川藻。〔方〕
  3.懲(こ)らしめる。
 
      ん虎虎一首
 
○おん虎虎虎虎猫(注1)さん きぢ猫(注2)さん お前と私でかけうち(注3)しよ
 どこからどこまでかけうちしよ 吉原たんぼへかけうちしよ 吉原たんぼは丸やけだ。
 
 注1.虎猫……毛色が虎斑(とらふ)のネコ。
  2.虎斑のネコ。または、町芸者をいう俗語。
  3.「かけおち」の転か。駆け落ち(恋人同士が、夫婦になるために、よその土地へ逃げること)。
 
      お芋(いも)やお芋一首
〇お芋やお芋やお芋さん お芋は一升いくらだえ 三十五文(もん 注1) 今ち
 
  (改頁)
 
と(注2)まから(注3)か ちやからかほい お前の事ならまけてやる 笊(ざる)
もてこい枡(ます)もてこい 爼板(まないた)包丁出しかけて(頭を切られる
八頭(やつがしら 注4) 尻尾(しっぽ)を切られる八頭 向ふのお婆さん)隣の
お婆さんちよと(注5)お出で 芋を煮ころばしてお茶あがれ 先づまづ。
 
 注1.昔のお金の最低の単位。
  2.「ちょっと」の転。
  3.「まかる」……値段を安くすることができる。
  4.サトイモの一種。
  5.「ちょっと」の転。
 
      いづくの一首
○いづくのいづくーらの番頭さん 木綿(もめん 注1)は一反(たん 注2)
いくらする 三百三十三匁(もんめ 注3) いも(注4)ちとまからんか 
ちやからかほい 姉(あね)さん事ならまけてやる 一や二……九や十。
 
 注1.わたの繊維から織った布。
  2.巻きつけた織物の長さの単位。一反は、十・六メートル。
  3.江戸時代のお金の単位。一匁は、一両の六十分の一。
  4.「いま」の転。
 
      とんとうし一首
○とんとうしとんとうし おこしはとほるし 小田原よこ屋の小娘
 色白で目細で化粧して むらさき荘屋に貰(もら)はれた 其(その)荘屋が伊達
な荘屋で 金襴緞子を七重ね 重ねかさねて八重ねて 染めて下さ
 
  (改頁)      画像45
 
れ紺屋さん 紺屋の役なら染めてもやります 張ってもやります
お形に何何つけます 片袖は梅の枝 中は五條のそり橋(注1) そり橋を
渡る 渡るちご(注2)に袖を引かれた そこ放せ袂(たもと 注3)放せ
後から道者(注4)が続て 続く続く続くならば 京帯を結び下げて 
田舎(いなか)帯を襷(たすき)に 襷にかけたる其後は 親に三貫(かん 注5)
子に四貫 ましてお婆に四十五貫 錢かねで 高い米買って船に積み 
安い盆買って船に積み 船に積んだる其後は あとは野となれ山となれ(注6)
行く先や蓮華(れんげ)の花(注7)となる。
 
 注1.中央を高くそらせた形の橋。
  2.児童。少年。
  3.和服の袖の下のほうの、袋のようになった部分。
  4.連れ立って神社にお参りするひと。
  5.江戸時代のお金の単位。一千文。一両の四分の一.
  6.「あとは~山となれ」……あとは、どうにでもなれ。
  7.仏の世界の象徴か。
 
      問屋(注1)問屋一首
○問屋(とんや)問屋隣の問屋 問屋むすこに吉(きち)さと言うて 吉さ腰元お花と
言うて あのやお花にくれたいものは 櫛(くし)や笄(こうがい  注2)
長崎かもじ(注3) 紙に包んで窓から出せば 窓ぢや取るまいあい(注4)
なら受ける あいの唐紙さらりとあけて 雨が降ります七十五日 雪が降ります
八十五日 川が増(ます)ます浦野の川へ 船を仕掛けてお花を乗せて お花一人ぢやさ
 
  (改頁)
 
むしう(注5)御座(ござ)る 船の出先へ躑躅(つつじ)を植ゑて 躑躅咲くさくお花が荷物
 そこでお花は空腹(そらはら)やんで 医者をよべかやお医者をよべか 医者
もお医者もななよんでくれと(注6) 明日は吉さの手にかかる。
 
 注1.商品の卸(おろし)売りをあつかう商店。
  2.婦人の日本髪の髷(まげ)に、横にさす、かざり。
  3.婦人の添え髪。
  4.あいだ(間)。
  5.さびしい。〔方〕
  6.呼ばないでくれ。「なな――と」は、禁止の意。〔方〕
 
      地芋(注1)や一首
○地芋やぢいもや高崎地芋 お江戸が栄える さかるとままよ 蜜
柑が売れる うれるとままよ とりさか しめさか 鍋屋の所ヘ一
寸(ちょっと)寄(よ)て見たら おめかけ妾(めかけ)三人ござる 一人は蕾 一人は開き 一
人は三五の紐(ひも)を解く 一や二……九や十。
 
 注1.サトイモか。
 
      けーまい(注1)一首
○けーまいけまい白粉(おしろい)けまい 紅ちよこけまんで口ベにさして 真(まっ)
黒(くろ)ぐろとお歯ぐろ(注2)つけて 銀の簪(かんざし)ちよと横にさして
鼈甲(べっこう 注3)のお櫛を前髪さして 晒(さらし 注4)の手拭(てぬぐい)
ちよと肩にかけ ちよいとお寺へおむすび上
 
  (改頁)      画像46
 
げて 一や二……九や十。
 
 注1.「こまい(=ずるい)」〔方〕の転か。
  2.お歯黒……昔、結婚した女性が歯を黒く染めたこと。
  3.ウミガメのタイマイの甲羅(こうら)。高級な、くし・こうがいなどを作る材料となる。
  4.さらして白くした、もめん・麻布(あさぬの)。
 
      お菊死んだ一首
○お菊死んだ死んだ どこで死んだ 今は大阪蓮華の下で 石を枕
にくるしんだ。
 
      金柑(きんかん)木のうら一首
○金柑木のうら浦吹く風吹く 家(うち)やおばたき浅黄(あさぎ)の茶袋 お左左(ひだりひだり)と
しんしよう(注1)なり おかごは六さい七さい又昔 はやるはたしかの川
さき流るる おんさのさ おさきを打つとてお眠りころんで お茶
碗てつくるけーし(注2)て さいたかどん さかぬかどん どんどん神様
花神様 向う山は箱根山 一や二……九や十 十で申せば松屋のき
くや 松や三軒(さんげん)酒屋で胡弓(こきゅう 注3) 下の酒屋へちよと寄って見れば 奥ぢ
や三味線(しゃみせん)茶の間ぢや胡弓 お台所で鞠蹴(けまり 注4)やるまりけやる。
 
 注1.「身上(=財産))か。
  2.「てっくるけーす」……転倒させる。〔方〕
  3.弓でこすってひく三味線(しゃみせん)に似た小さな弦(げん)楽器。
  4.革(かわ)で作った鞠(まり)をけって遊ぶこと。平安時代以後の貴族の遊び。
 
 
  (改頁)
 
      丁か半か(注1)一首
○丁(ちやう)か半(はん)か又いちよか 又いちよ何(なん)ちよの女房は 抱いてもしめて
も物言はぬ 物の言はぬは道理だよ 八つで紅かね(注2)つけさせて 十
でくらのへやつたれば くらののお道で日が暮れて 今晩どちらで
泊りませう お寺で泊るは気遣(きづか)ひで 酒屋で泊つて朝見れば(おら
が姉御(あねご)に似た姉御)(十七八のおん女郎衆(じょろうしゅう))黄金(こがね)の
盃(さかずき)もち出して 一杯あがれやお客さん 二杯あがれやお客さん 三杯盃なぜ取らぬ
おつまり(注3)無いとて上らぬか おーらの方のおつまりは 高い山の鷹(たーか)
の子 低い山の蟇(ひーき 注4)の子 ちょろちょろ歩く鼠の子 飛んで通るはと
んびの子 ころんで歩くは鼬(いたち 注5)の子(つんつん歩くは芸者の子 はだ
しで歩くは乞食(こじき)の子。)
 
 注1.「丁半」……さいころの目の偶数(丁)と奇数(半)によって、勝負を決める、ばくち。
  2.「おはぐろ(=歯を黒く染める、こい茶色の液体)」のこと。
  3.酒の肴(さかな)。おつまみ。
  4.ヒキガエル。
  5.キツネに似た小さいけもの。
 
      ここで申さば一首
 
  (改頁)      画像47
 
○ここで申さば下総(しもうさ 注1)の国で 酒屋三軒並んでござる 奥ぢや三味線
茶の間ぢや胡弓 お台所ぢや鞠蹴やる鞠蹴やる。
 
 注1.今の千葉県と茨城県南部の旧国名。
 
      さんさ坂下一首
○さんさ坂下の治郎兵衛(じろべえ)が娘は お眠(ねぶり)ころんでお茶碗こはして つ
ぐにやつがれず買うにや買はれず お前に百(ひやーく)わたした。
 
      柳の下一首
○柳の下の喜太郎は あんまり自慢で小自慢で 高い足駄(あした 注1)で河とん
だ どこへ行くかと問ひたれば 八幡長者へ布買ひに 布は何布表
日 表紋所(もんどこ 注2)はりつけて お裾は紫群雀(むれすずめ) 羽根を揃(そろ)へて舞ふところ。
 
 注1.高い二枚の歯を台に、はめこんだ、げた。
  2.「もんどころ」……家によって決まっている紋章。
 
      粟の握飯一首
O栗の握飯(にぎりめし)横ちよに引背負(ひっちよって)て お母さん左様なら往つて参(さん)すけな
 
  (改頁)
 
所が確氷(うすい)の嶺(みね)の真中で 雨はしよぼしよぼ草鞋(わらじ 注1)はきれる 
早くもらつて帰らなければ 家の鍋釜お休みだ。
 
 注1.わらで作り、足に結びつけてはく、はきもの。
 
      つかみどり一首
○つかみどり松みどり和泉屋の 姉さん石に蹴(け)つまづいて 石は腹
立ち狸(たぬき)は笑ふ すっとこどっこい どっこいせ。
 
      是より下一首
○是(これ)より下に大しもに 塩売とうめと申します 娘一人に婿八人
まだも取りたい侍(さむらい)を 若(もし)も私が死んだなら 板屋の息子にかつがせ
て 往還(注1)坊主(ぼうず)に供をさせ 後は野となれ山となれ 行く先蓮華の花
となれ。
 
 注1.行き来。
 
      天竺(てんじく 注1)の一首
 
  (改頁)      画像48
 
○天竺の天の河原の 和尚(おしょう)様の娘は 一(ひとつー)にはお乳を喰(くわ)へて
二つで乳離れなーされて 三つでは皆の子供衆とお遊びなされて 四つで
糸をとーり候 五つで管を巻き(注2)候 六つで黒機織り候 七つでは綾(注3)
を織り候 八つで約束なーされて 九つで嫁入なされて 十で殿御
と馴染んで お十一で花の様なるお子を設けて 七日七夜(ななよ)お酒盛(さかもり)
酒盛すんだら 殿御の裃(かみしも 注4)折るとて あやち竹を忘れて 教えておく
れや姑さん お教(をへ)てやるのは易(やす)けれど 人の嫁御(よめご 注5)になるものが それを忘れてなるものか 面目ないとてかわす川へ 身を捨てて身は
沈む 髪は浮き候(そうろう)元結(もとゆい 注6)は解けて お蛇(じや)となる 先づまづ一本しよ。
 
 注1.昔のインドの、別の呼び名。
  2.酒に酔(よ)って、くどくど、しゃべる。
  3.糸が、ななめにまじわって、模様(もよう)を織り出してある織物。
  4.江戸時代の武士の礼服。
  5.嫁を尊敬した言い方。
  6.もとどりを結うとき使う糸やひも。
 
      源平梶原一首
○源平梶原玉之助 お前の御辛抱(ごしんぼう)誠かい 双六(すごろく)博奕(ばくち)に
打負けて 地蔵峠で日が暮れて 小松林で夜が明けて 夜の明けるも早々と 姉
の方から文(ふみ 注1)がきた 何の文だとよんで見ろ お仙に来いこい恋の文
 
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 お仙をやるには物がいる 妹のお竹をやるならば 金なら三両十
三両 銭なら三貫十三貫 小袖(こそで 注2)の七つも買ひ着せて 帯の三筋(すじ 注3)もからませて 化粧して見やれ髮結うて見やれ牝丹花よりまだよかろ
 桜花よりまだよかろ。
 
 注1.手紙。とくに、恋文。
  2.絹の綿入れ。
  3.「すじ」……細長いものをかぞえることば。
 
     今度見てきた一首
○今度見て来た皆町の小路(こうじ) 女子(をなご)道中高むらしやんこ しやんこし
やんこと伊達やり男 絞(しぼり注1)手拭(てぬぐい)緞子(どんす 注2)の羽織 雪踏ちやらちやら横町へ通ふ おかん(注3)それ見てにこにこ笑ひ おかんよう聞け吾君(わがきみ)様は 夜は夜遊び朝寝をおすき 枕屏風(びょうぶ)に有明(ありあけ 注4)つけて つけた子供が三人ござる 一人縁付き其あと取りは 江戸へ参りて十三年期 年期(注5)勤め
て身をこしらへて 姉の方へと今近よれば 姉は喜ぶ涙をこぼす
今宵(こよい)一夜は泊りて帰れ 何のそうして居らりようものか 裏の細道
よろよろ行けば あぐり林の小松の下で 彼方此方(かなたこなた)とお話なさる
 
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あれは誰だと友逹聞けば あれは鹽田(しおだ)の伯父(おじ)伯母(おば)
聟(むこ)よ 持つてとぶとこ女が見つけ これさ兄さん一寸(ちょっと)待ちなんせ
今の憂世(うきよ 注6)は大事な憂世 人を殺して我身が立つか 立つか立たぬか殺して
見やれ つぷれ藥鑵(やかん)に番茶を煎じ 缺(か)けた茶碗に穗の無い茶筅(ちゃせん
 注7) いくらたてても泡立ーたぬ。先づまづ一本しよ。
 
 注1.布をところどころ糸でしぼって白い模様(もよう)を出す染め方。
  2.練(ね)り糸で織った、地(じ)の厚い紋(もん)織物。
  3.母または妻をいう。町家などで用いた語。
  4.夜明けまで、ともしておく灯火。
  5.奉公人(ほうこうにん)をやとう約束の年限。
  6.この世。 
  7.抹茶(まっちゃ)をたてるとき、かきまわして、あわだたせる道具。
 
   大門口一首
○大門口揚屋(おもんぐちあげや)まつめぐら高尾に小柴 みなみの道中みなとーまる
春先は相川清川 あいあい染川 西がほれたか東がほれたか信濃の
善光寺 あのせーこのせーやつこのせー あれ見いしやこれ見いし
やい しんかい見いもやい 帆掛船(ほかけぶね)が二艘(そう)つづく 二艘續くさんご
ぢやいやだ 其船のおん客乗せて おん女郎(注1)乗せて あとから屋形(やかた)
が馳(は)せかける 馳せかーける船頭はとーまる 吾等が構へば日が暮
れる 日が暮れるお月もお出やる お星もお出やる さんきち藝者(げいしゃ 注2)
 
(改頁)
 
が今はやる 今はやるな江戸ではーやる お江戸の中の中娘 色白
で櫻色(さくらいろ)で 色さき莊屋へ貰はれて あの莊屋も此莊屋も 伊達の莊
屋ぢや無けれども 金襴緞子が一重 赤もく緞子が一重 重ね重ね
て約束揃えて 染めておんくれ紺屋(こうや 注3)さん 紺屋の役なら染めても上
げませう 張つても上げます 裾へは何何お付けやる 雪白牡丹で
白牡丹 風にもまれて一ともれ よつやの袂へ流れ込む流れ込む。
 
 注1.遊女(ゆうじょ)。
  2.歌や舞(まい)、音楽などで、酒もりを楽しくすることを職業とする女性。
  3.こんや……染め物屋。
 
   小夜(さよ)の中山(注1)一首
○小夜の中山通つたれば 孕(はら 注2)めし女にいきあつて 孕めし女を刺し
殺し 刀のわきから子が産まれ 其子を何所へあづけうか 鍛冶屋
の婆さんに預けたら あの乳この乳もらひ乳(注3) 十三の年まで預けた
ら 親の仇を打ちとらう打ちとらう。
 
 注1.さよのなかやま……東海道の難所として知られる静岡県掛川市東端の峠。
  2.腹の中に子どもができて、腹がふくれる。
  3.他人の乳をもらって子どもを育てること。また、そうする時の他人の乳。
 
   紺こん綠(みどり)一首
 
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○紺こん綠 朝は早起き戸を開けて 隅から隅まではき出して ぢ
いさんばあさん起きなんせ 今朝(けさ)のおかずは何だいな きんこ(注1)でま
るめた黄粉餅(きなこもち) 一や二……九や十。
 
 注1.「きなこ(黄粉)」の転。
 
   感ぜや一首
○感ぜや感ぜやお子供衆、塙保己一(はなわ ほきいち 注1)盲(めしい 注2)にて
大部の本を著した其數三千七十種 二千と八百五十冊 人はみめより唯(ただ)心 勉めや
勵(はげ)めやお子供衆。
 
 注1.江戸時代後期の国学者。幕府の保護下に和学講談所を建て、『群書類従』(国書の叢書)を編纂した。
  2.目が見えないこと。
 
   今日は元日一首
○今日は元日都も村も 軒にひらひら日の丸の御旗 門に松竹梅さ
へかほる 初日うらうら霞(かすみ)もはれて 藪(やぶ)で雀が忠忠鳴けば 森で鳥
が拳孝謡ふ 忠孝大事に勉強すれば 君は萬歳萬萬歳で 日本の威
光はとんとんとんと 擧がる手毬(てまり)のさて面白や。
 
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   四 行事 謠 但成人謠をも併せ收む
 
   毎月に關(かん)するもの三首
○月の七日に出て行く人は歸(かえ)るまいぞへ九日に。(成人謠)
○今日は二十八日だお尻の用心。
○今日は二十八日だ尻まくりがはーやつた。
 
   定月に關するもの八首
○お正月は良いもんだ ちんぱと羽根ついて 氷のやうな餅たべて
雪のやうな飯(まま)たべる。
○七草薺唐土の鳥の日本の國へ 渡らぬ先に(七草薺で)すととんと
ん。(一月七日成人謠)
○どんどん燒きは今日ばかだ 餅のかけー今日ばかだ。(一月十五日)
 
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○鬼(おに)ー外福(ふく)ー内 惠比壽大黒目ー開け。(節分成人謠)
○紙かんじよ紙かんじよ 紙くんなきや通さんぼ。(二月八日道祖神)
○盆さん盆さん此あかしでお出でお出で。(盂蘭盆)
○十日ん夜の藁鐵砲 むぐらの野郎たたきころせ。(舊十月十日)
○十日ん夜の藁鐵砲 朝ぎに蕎麥きり晝だんご夕飯(めし)くつちやーうん
寢るだ。(同上)