石川県立図書館/大型絵図・石川県史

石川県史 第三編

第六章 經濟交通

第三節 市場

かくて金澤の米場は、藩治の末期に至るまで頗る盛況を呈したりしが、明治二年一大變動に際會せり。この年夏、土用に入りし後天候順調を缺き、政情に關する流言蜚語連りに行はれて人心胸々、米價之に伴ひて暴騰したりしが、偶六月下旬執政は、朝廷版籍の奉還を許可し給ひしを以て、今年半納期に於ける拂米を停止すべきことを諸給人に布告したりき。是に於いてさしもに殷盛を極めたりし米場は忽ち強烈なる打撃を蒙り、纔かにの拂出したる越中新米參萬石を得て切物商開始し得たるに過ぎず。而もその後天候穩かならず、米價益向上を續けしかば貧民動搖し、惹きて切物商の取引圓滑なる能はざるに至り、爲に賣買を停止せしめられたりき。之に加ふるにこの時藩知事前田慶寧知行は、舊封十分の一に減ぜられ、給人の食祿亦之に準じたりしを以て、經濟界の紊亂實に極度に達せり。蓋し藩治泰平時代に在りては、給人等皆家政を整理するの途に暗く、啻に半納期に於いて本納に至るまでの全額を賣却するの惡習慣ありしに止らず、數年後の收納米を豫期して取次の米仲買に質入し、之を以て僅かに家計を支へ得たるの状態なりしを以て、彼等の債務は漸次に増加し、仲買の立替は非常の巨額に上りたりしが、今や之を回收するの方法殆ど絶望となるに至りたるを以てなり。但し突然の減祿は、給人をして困難せしむること頗る甚だしかるべきを以て、本年は舊收納の全額を支給し、明年以後減額を實施することゝ定められたるも、凶歉の爲に米穀を以てすること能はざりしが故に、金澤藩はその四分の一は實米を給し、殘額は代錢を以てし、之によりて可及的負債を辨償せしめんとせり。然るにこの命令を遵奉するものなく、爲に頻々として破産の仲買を生ずるに至りたりき。而して彼等の營業を繼續するものも、亦給人の拂米減少して取引を行ふこと能はざりしを以て、十月相謀りて、金澤越中石動・福光を初とし内三ヶ國に於ける凡べての藏米を貯用米と稱し、之によりて單位二十五石建の切物商を行はんことを請ひしに、金澤藩許可を得たり。是より八ヶ所を限り建米とすること自ら止む。翌三年二月、前年の凶作によりて倉の收納米少かりしかば、令して米場に於ける切手米の全額を正月中の平均相場によりて買上ぐることゝせり。是を以て纔かに開始し得たる貯用米建賣買も亦廢止せざるべからざるの悲運に陷る。米仲買等乃ち連署して、今秋收穫すべき新穀五萬石の切手拂下に出願して許可を得、三月再び貯用米新穀の取引を開始せり。次いで同年十月諸商賣株立を許さずとの命ありしを以て、米場に於ける仲買肝煎・組合頭・口錢方・陰役等を廢止し、新たに米仲買百八十餘名を以て千秋組と稱する組合を結び、之に屬する米仲買取締役四名と口錢取立兼陰役六名とは廳によりて任命せらるゝことゝなれり。四年二月廳は、管内の米市場を一ヶ所とすることに定め、當時恰も設立したる商法會社をして兼營せしめ、從來の米仲買をして一人毎に義定錢二千貫文を爲替會社と稱する行に納入せしむるの制を定む。商法會社は爲替會社と共に廳監督の下に起りたるものにして、一般商工業を奬勵し、商店團体の書面に奧書を加へて爲替會社より資金の供給を得しめ、而して商店團体よりは歩一の利益を收め、以て自會社の維持を圖りたるものなり。是に於いて米場は、享和三年以來連綿たりし十間町の位置を離れ、一時博勞町一番地なる商法會社に移る。この月金澤藩は切手を以て能登製鹽拂下げたりしを以て、米仲買は副業として鹽切手の賣買をも開始し、以て明治五年五月に及べり。是より先四年六月、米場に於いて限月商則を改め、賣買米に對して入立錢を納入すべきことを定む。これ米穀の賣買に證據金を徴收するの濫觴なり。
商  則
 一、米中買共休日之外晝九時過より商店へ罷出、夕七時迄商業相營可申事。
 一、米賣買證文、買人より即刻口錢取立方へ指出可申事。
 一、米賣買口錢、翌月毎に米仲買共より取立上納可仕候事。
 一、毎月五日・廿日取引之節、繰紙朝五つ時迄に可相渡候。右刻限に後れ候へば繰紙不相渡候事。但、右繰紙取受候者は即刻繰紙差出、取引に相懸り可申事。
 一、貯用米商毎月四日迄に出入爲相濟、五日に至り商店へ朝五時迄に罷出取引可致候。二十日切も、十九日迄に出入爲相濟、五日切同樣に可致事。
 一、商店に於て不作法いたし候者は、出勤方指省候事。
 一、毎月取引之節、米仲買共取引指支候者は、夫々損錢高取調理、入立錢にて不足いたし候へば其段御達申上候間、當人所持之家締方之儀市長中へ被仰談、當人へは日數十日之間に取引之譯夫々相立候樣被仰渡、其上にも取引之譯相立不申候ば、家並商業御鑑札相手の者へ御渡、商店へ出勤方御指止之事。
 一、米仲買共家之儀は商業縮方に仕儀に御座候間、要用會社拜借錢等不相成儀、豫て市長中へ被仰渡御座候樣仕度奉存候事。附り、米中買家賣拂候節、其段會所掛りより演述有之候樣仕度候事。
 右今般商律改正仕候に付御達申上候。尚御指圖奉願上候。以上。
    明治四年六月                     米中買取締役
〔金澤町米商成立濫觴〕