石川県立図書館/大型絵図・石川県史

石川県史 第三編

第五章 殖産製造

第八節 雜業

煙草の耕作は、石川郡鶴來附近・同郡松任附近・能美郡河合附近等を以て最とせり。鶴來附近は手取川沿岸の山地にして、河合はその上流溪間に在り。是等の地平田狹少にして、その産する穀菽は僅かに自家の食料に供し得るに過ぎず。而して山畑の作物中最も土地と氣候とに適應し、且つ利潤の豐かなるものは煙草たりしが故に、當初各自の嗜好を滿たすを目的として播種せるものも、漸くその量を加へて販賣の用に宛て、以て日常生活の必需品を購入するの資銀を得たりしものゝ如し。石川郡吉野は河合よりも更に上流の地なるが、その煙草の産に名ありしこと、鳥翠臺北莖の著せる北國巡杖記に、『又吉野といへるは、たばこを製して世に商産とす。予も一とせこゝにあそびて、吉野の春に増るたばこの秋を、おなじ名の花とたばこを競ぶれば薫りよしのゝ是は名葉。』といへるにて知るべし。松任附近に至りては固より平野の中にあるが故に、上記の如き理由を見ずといへども、煙草が上下一般の嗜好となるに及び、位置の鶴來に近き關係上亦之を模倣したりしなり。