石川県立図書館/大型絵図・石川県史

石川県史 第三編

第五章 殖産製造

第六節 製箔

是に於いて製箔商工界は全然紛亂し、藩吏も亦害ありて利なき密造檢擧に意なかりしかば、別に何等かの方法によりて新生面を打開するの必要を感じ、安政三年六月左助を町奉行の吟味方に召喚して之が意見を徴したりき。而して左助の之に對する答申は、第一、現に金箔は之を江戸より輸入し、京都より送致するが故に、遠路濕氣を吸收し、その金澤に到着するや損じ箔となるもの少からずして、之を藩用に供し得べからざるは言ふまでもなく、民間の賣買にだに適せざるものあり。故に此等を手入打直しせんがため山上寶藏寺町に一の細工場を建設し、己をして之が管理の任に當らしめられたく、第二、眞鍮・・錫箔錫の製造は何等法令の制裁あるにあらずといへども、製法金箔のそれに類似し、隨ひて金箔の密造を防止する能はざるが故に、眞鍮箔等の打立も亦同じく之を己に一任し、前記細工場に於いて製造せしめられたしといふにありて、畢竟民間に於ける打鎚の音を絶ち、眞鍮・・錫箔を共同製造すると同時に、手入打直しと稱して、の默許のもとに打立公許と同一の効果を擧げんと計れるなりき。是を以ては同年十月左助の意見を容れ、眞鍮・・錫箔及び金直し箔共に左助をして取締らしむることゝし、箔屋伊助・越中屋武助・木屋嘉助・山屋伊右衞門・津幡屋勘七に棟取と稱して左助を輔佐すべきことを命じ、民間の密造者を檢擧する爲には足輕杉山五兵衞・加藤彦左衞門・池内清左衞門を主任となし、十二月朔日その營業を開始せしめ、更に二十三人の職人と五十五人の手傳人とを町會所に召喚して、彼等の從業心得を申渡したりき。

 鈖打立候儀者、於公邊重き御締方に而、前々嚴重被仰渡置候處、箔等打立候者も多有之紛敷に付、以來・眞鍮箔等並金直し箔之儀、越野左助手元締方度旨仕法書を以申聞、其段御用番年寄中えも相達、右仕法通承屆候間、以來締方嚴重可相心得樣左助え申渡候。依而其方共右職方相望候段、左助より願出し僉議之上承屆候條、以來締方等之趣左之通ヶ條書を以申渡候。
 一、近來右箔類隱打等致し、中に者他國えも賣出候者、追々人多に相成、御締方相立不申に付、以來隱打等致候者有之節、越野左助より及斷候筈に候條、其方共並職方手傳之者共も及見聞候はゞ、早速越野左助え可申通候。右に付分而調理方下役之者不申付候間、右樣之者有之儀聞出し候儀相互に常々可心懸候。
 一、右調理方並手生爲取締方、今般町附足輕之内三人主附申付候條、一件に付何歟可達方儀有之候はゞ、都而右三人之内え可相達候。
 一、今般箔屋伊助・越中屋武助・木屋嘉助・山屋伊右衞門・津幡屋勘七、都合五人之者、箔方細工商等諸事棟取役申付候之條、右之者共より締方等之趣、左助同樣時々申談候儀も可之候間、無違失急度相守可申候。
 一、江戸表並京都より取寄候、此表え到着之上損箔不少、御用之儀者不申、平賣にも難致分有之旨。此等之分は、左助於手前手入打直し爲致度旨。依而損じ箔到着之上は、町會所において見分相濟次第可打直し候。
 一、眞鍮錫箔・同鈖類打出出來之儀も左助一手に致し、爲職人其方共二十三人、同手傳之者五十五人申付候儀承屆候。右に付其方共並手傳之者共、於宅々打立方等致し候而は、御締方に指障候間、何れ茂左助細工場え一集に打寄出來方可致候。若細工場之外、其方共並手傳之者共之内宅々曁他家え罷越、右品々打立方等致候儀、且又鈖類之儀は不申、眞鍮錫箔鈖類共都而賣出候儀不相成。曁細工場道具於細工場賣買候儀者不指支候得共、外々において致賣買候儀は不相成候條、若以後密々右樣之儀於之者、無用捨過怠其品に相當る代取揚、並元手も不殘取揚、右職方指除可申候條、兼而此旨相心得可罷在候。
 一、右細工場之儀者、於寶藏寺町相建、右細工場に而致打立候儀前條之通に候條、於同所第一火之用心之儀何れ茂嚴重可相心得候。且又毎日人多に打寄申儀に候條、從前々仰渡候御法度之趣等、萬事心得違無之樣急度相心得可申候。若心得違之族於之者、夫々相糺嚴重可申付候。將又右職方毎日朝早く取懸り、日之内切に而相仕廻、夜中者可無用候。
 一、其方共へ今般爲職札、一口に一枚宛、當場吟味方印章を加へ夫々相渡候條、麁抹無之樣相心得可申。若右職札を以不正之儀於之者、夫々相糺嚴重可申付候。
 一、其方共より元手仕送方爲議定、一口に付今般二百目宛左助手前へ指出候由申聞、依而前段之通夫々職札相渡候間、自然無據趣有之職方相止候歟、又は讓替等致候節者、其段願出候上聞屆、右株札取立、議定左助より爲相返申候。尤自分に讓替等致候儀者不相成候。
 一、眞鍮箔等打立方、向後町人共職一手に相極り候條、若已後御家中家來等有祿之者は勿論、浪人者に而も都而帶刀之者、右打立方内職に致候者有之儀及承候はゞ、早速手先主附之者方可内達候。將又左助方職人並手傳之者之内に茂、向後帶刀之者は堅く不相成候條、嚴重相心得可申候。若此後帶刀之者密々入交候儀相知れ候得ば、夫々相糺し可申候。
 一、直段之儀者、江戸表より取寄候節時々高下有之、且道中において損箔出來之分、手入方雜費も相懸候由。依而以來取寄候節、於町會所見分候上、直段相場相極可申筈に候。
 一、・同鈖類並眞鍮箔等平賣之分賣出候ヶ所之儀者、是迄之通尾張町井筒屋文藏方・片町津幡屋勘七方において賣捌方之儀左助え申渡候。且御細工所等御用指上候之儀者、左助より直に指上候。曁遠所卸賣之儀も、同人より直に指遣し可申筈に候。
 一、富山大聖寺並於高岡・魚津・能州所口・同輪島鈖等密々取扱候者有之躰。其外御領國申於所々取扱候者有之候はゞ、見聞次第前條之通相心得、夫々可相達候。
 一、爲冥加毎歳十枚宛致上納度段、左助願之通承屆候之條、此段可相心得候。將又其方共より爲元手指出候惣高之内、當場え指預け置度段、左助願之通承屆候。依而前條之通職方指止度者有之候はゞ、願出候上左助より元手相返申筈に候。
 右之通ヶ條書を以申渡候條、夫々嚴重相心得、何れ茂職業方入情相勵、永續致候儀肝要之事に候。若以後右申渡之方に相背き候者於之者、嚴重可申付候條、此段急度相心得可申候。
 右之通夫々可申渡候事。
    辰十二月(安政三年)
〔箔方諸事舊記〕