第五章 殖産製造
第二節 農業(中)
改作奉行の最も主要なる職務は農事を勸奬するに在り。是を以て毎年正月十七日、恒例として諸郡の御扶持人十村以下を金澤に召集し、御算用場に於いて改作法の要領を口達す。この日改作奉行は、算用場奉行及び横目と共に出席し、改作奉行中當番の一人之を申渡すものにして、その内容は年によりて相違なきにあらずといへども略大同小異なり。
今日御吉例に依而、御算用場御奉行並御横目曁拙者共同役列座を以、改作之御法を申渡儀千秋萬歳に存る。先以去年諸郡共御收納皆濟全相勤る。依レ之昨日は御目録を以何茂拜領物被二仰付一、頂戴之人々難レ有仕合に可レ奉レ存候。於二拙者共一も添儀に存る。春來氣候も宜、當年は必定豐作と恐悦に存る。舊冬以來雲も淺く野早なる年柄と存る聞、雪消次第早々爲レ致二鍬初一、彼岸中日種池入いたし、苗代用意、荒起田地拵念に入させ、植付曁畑物蒔植、其時々手後不レ致樣勢子(セコ)いたせ。用水の取入口丈夫にいたし、流末迄無二申分一順道に爲二行屆一、我儘之族(ヤカラ)無レ之樣相心得させ。屎物之儀大切之品に有レ之候へば、いかにも手厚仕込樣有レ之度儀、其裁許中におゐても厚世話いたし、手支なき樣にいたせ。草修理之儀限りも無レ之、幾度にても念に入取拂、とかく一村之作甲乙無レ之樣御仕立候儀、改作第一之儀と心得させ。變地所起返し、いかにも田畑に仕立候樣に時々勢子をいれ、川除御普請大切に相心得、成限自普請等を以大破にいたらぬ中常に被二心懸一。扨秋縮御請之儀、前々も申渡す通り、他組他村を不二見合一速に御請いたす樣爲二心得置一。作物出來之上は少しも不二取散一、歩入御定よりも歩落いたす族無レ之、御定よりも相進成限り御藏納等いたし、手早く皆濟いたす樣に心得させ。とかく年始より皆濟之儀片時も不レ忘常々心懸置樣に、何茂念頃に申諭し置け。御收納米俵持の儀、別て米性成限り遂二吟味一、近來申渡す通りいかにも精誠宜相成樣猶亦一統申渡、其時にも入レ念勢子いたせ。高方等御法之儀、近年夫々申渡置通り、少茂違亂不レ致樣格合急度爲二相守一、勿論其許中にも深く心懸可レ申。萬事唯馴るれば怠るものなれば、常々無二油斷一指揮いたせ。風俗之儀、分限を不レ失、成限古來の質撲の俗に立歸る樣、少も驕たる儀無レ之、唯農業を一途に精力を盡す樣に、一統心懸させる儀、其許中扱方肝要と心得。浦方獵業鹽稼、曁山方等之稼有村々は、改作之隙をも稼をも出情いたせ。結構に御取扱被二成置一、御仁惠之御恩澤、聊忘却いたさぬ樣に心得させ。御扶持人等の儀は、御郡において諸人之目當にも相成者に候へ者、當職勤向無二怠慢一出情いたす儀は申迄もなく、行状等之儀、深く心得可レ有レ之儀に存る間、諸事無二油斷一相心得。新田裁許之儀、新開所繁々相廻り、毛附免相精誠を盡し、本田に劣らぬ樣爲二相仕立一、兼役方之儀も無二油斷一相心得。山廻りの人々、山方切々相廻、御縮方嚴重に相心得。一統御代官納方之儀、譯(別)而前々申渡置、近年猶亦申渡通りに候へば、諸事少くも蟠りたる儀無レ之樣心懸、成限綿密に相心得。此外改作御法多端之儀に付、今日は御例にまかせ要々之儀迄申渡。當月中拙者共毎日出席いたす間、百姓跡式等指懸る御用申聞。御用相濟人々、歸村之上早々致二村廻一、御法之趣無二違失一樣念頃に申渡せ。末座より作法能退出いたせ。 〔河合録〕 |