石川県立図書館/大型絵図・石川県史

石川県史 第三編

第四章 美術工藝

第二節 陶磁

既に叙述したる江沼郡古九谷燒金澤春日山窯は、その製作する所主として貴族富豪の鑑賞愛玩に供するにありたるは、もとこれの保護事業にして、庶民日常の需要を充たし、若しくは外に輸出して商利を博するの目的に出でざりしが爲なるが如し。然るに能美郡に起れる陶窯に在りては、その地城下を去ること遠く、從つて武士階級の需要甚だ鮮きを以て、その製産する陶磁に在りても、優美高尚ならんよりは實用に適するを貴び、産額の多量なるを欲し、專ら營利の目的を達せんとする傾向ありしこと、固より之を自然の數とすべし。されば文化四年に創りたる春日山窯が、終始萎靡不振にして遂に大規模の製産を爲すに至らざりしに拘らず、同八年より着手したる若杉窯の駸々として發展したる所以は、前者がその原料たる磁石を遠く能美郡に仰がざるべからざる不便ありしに反し、後者にありては豐富に之を得べき地の利を占めたるのみにあらず、亦前者の作品が玩賞に重きを置き、後者が實用を主とせるに依らずんばあらざるなり。