石川県立図書館/大型絵図・石川県史

石川県史 第三編

第三章 學事宗教

第四節 國學(上)

下りて寶暦・明和を中心として堀麥水あり。奇才縱横行く所として可ならざるはなく、その本領は俳諧に在りといへども、傍ら指を著述に染めて慶長中外傳・寛永南島變・昔日北華録・琉球屬和録・三國圓通傳・難波戰記・説弘難波録・北倭記事等を出し、又三州奇談・越廼白波の如き郷土的雜著あり。筆路何れも暢達にして毫も苦澁の跡を見ざるもの、葢し加賀藩に於けるこの種の作者中前後にその比を見ること能はず。その他著者不明の野狐物語・越路加賀見・世人不知物語・見語大鵬撰等ありて、並びに大槻内藏允の流刑事件を取扱ひ、安永の頃の道庵夜話二十五卷は加州五侠士の傳奇とし、同九年東武講師の名を以て出せる金城失繩編と、年代不詳の兩家越路雁金とは、共に藩士高田善藏中村萬右衞門殺害したる顛末を述べ、天保九年發山人雲山亭の筆に成る復讐藤英傳の、近藤忠之丞が父の仇を報いたる次第を記する如き類少からずといへども、いづれも事實に基づきて多少の潤色を加へたるに過ぎず。筆致亦平凡にして俗惡見るに堪へざるなり。恐らくは士人の聊か文字あるもの、消閑の娯樂として禿筆を呵したるに止るべし。
前節加賀藩に於ける國學の概況を述べたり。是より進みて國文學者・歌人・狂歌師の系統及び傳記に就きて説く所あらんとす。史學者・故實家及び雜學者に及ぶこと、亦尚前節の如し。