石川県立図書館/大型絵図・石川県史

石川県史 第三編

第三章 學事宗教

第三節 漢學(下)

月坡は老臥佛と稱す。寛文十年藩侯前田綱紀の命を以て黄龍山に入り、献珠寺中興の祖と爲り、又金龍山天徳院に主たりき。詩文及び和歌に長じ、月坡集十卷あり。詩偈の口吻豪活にして、其の鋒當るべからず。後一簦一錫天下を遍歴し、延寳四年水戸光圀侯に謁し、常陽の岱宗寺にあること十六年。その間侯之と方外の交を爲せり。
水戸宰相大居士此而獻
 千里望風心互親。相違禪話一番新。横吹鐵笛曲最古。倒擲沙盆宗大振。佛子徳成眞佛子。君臣道合正君臣。國豐家富人増樂。非此賢此仁
     丙辰初秋六日黄龍山僧月坡恭艸
 我嘗讀戲遊集師之才名甚悉。奈天不良遇。徒増翹跂耳。今年孟秋飛錫偶至。既挹光霽情踰舊識。幸聆玄提忽豁心。茅談之餘示我以偈。圭復再三無措。音中金玉味如醍醐。不撃節。依韻〓呈。敢乞斤正

其   一
 宿昔神交千里親。唯今既靚共忘新。清談終日情彌密。雄辯懸河氣益振。法雨霏々蘇草木。喝雷殷々動王臣。上人素得詩三昧。不推敲更輔仁。

其   二   偶觸師之佳號。似譃而不敢譃
 黄龍起與白雲親。尚想庭堅參悟新。賓主對牀禪話熟。華夷飛錫道聲振。締交蓮社廬遠。寓思菊籬晋臣。面見洞山山下傑。扶桑亦是一光仁。
    夷則初八日常山光圀拜具艸

その他月坡の作る所多し。
琵琶湖上吟
 跨雨騎雲片衲輕。琵琶十里信行。布帆挂後知風力。舳艫搖邊會水情。江上有山山遠近。波間無路路縱横。普通年外乘蘆客。堪笑度生心不平。

楞嚴寺兼別道友
 一朝逢別恨千年。欹枕烏啼霜滿天。再會須身後夢。幾生月話此山邊

此等の詩、之を儒生が彩筆を以て職とするものに比するに、能く突兀として頭を拔くこと千仭なるを見る。西山侯が親交を許せしもの、亦故なきにあらざるなり。