石川県立図書館/大型絵図・石川県史

石川県史 第三編

第三章 學事宗教

第三節 漢學(下)

伊藤由貞、字は太享、萬年と號し、其の講書の堂を春秋と稱す。京師の人なり。少年にして松永昌三に學び、晩年加州に來り、客寓すること六年にして元祿十四年七月歿す、年六十一。由貞の加賀に在るや、清貧仕へずといへども經學詩文を以て諸生を教養し、一世の重きを爲す。順庵・鳩巣の二老擢でられて江都に去りしより、學苑に雄視せしものは由貞を然りとなす。而して由貞もと經學を以て門戸を張るが故に、詩文の如きは本領にあらず。故にその作る所頗る寥々たり。只一二を見るのみ。
浦島子至仙宮
 誰昔傳道浦島子。平明操竿出丹陽。一葉扁天接水。曉風吹波湛不量。餌得靈物伸也縮。發生仁意免亦藏。邂逅汨沒値漁客。歸寧出現告龍王。水府清空幽絶裡。抱負相携入望洋。綽綽處女坐相配。棣棣侍妾宴斯長。貝宮連器居體胖。瓊室設筵飮食芳。犧罇雷爵異人事。鴛席鸞琴非世妝。間暇眺望怡顏厚。優遊燕興笑語香。繁華終日伴翠袖。榮耀多年蒸黄梁。歡娯眼目珠履。保撫形容玉筐。俗情頻動豈久住。神清心冷轉堪傷。漫波浩蕩江烟晩。催棹宿無遑。別離葢密失言固。塵世幾許送風〓。歸來往古爲誰問。去後更今四百霜。尋到荒墳唯纍纍。願望狂瀾杳茫茫。恍忽空思蓬莱島。依稀獨坐寢覺牀。天數難遁開筐急。雲樣分散勃飛颺。無懶性命留不止。丹顏看變身已喪。

之を剛伯の詩に比するに、殆ど天淵の差あり。況や順庵・鳩巣に於いてをや。その文の如きは、問はずして可なり。