石川県立図書館/大型絵図・石川県史

石川県史 第三編

第三章 學事宗教

第三節 漢學(下)

綱紀壯年にして詩を好み、長篇短章往々にして則ち成る。
春   日
 三春天地暖。萬物育其生。仁雨花皆發。節風竹獨清。讀書非一日。高枕是升平。政暇明窻下。靜聞黄鳥聲。

加陽城初遇六月塑
 數日浮雲合。陰陽未窮。曙風起天末。旭日照山東。水色如藍湛。露光與玉同。群臣朝禮罷。進退自融々。

森三悦和平岩仙桂篠原之一律。佐玄澄亦嗣其響。諷誦之餘。欣然走筆。
 豪強甘一死。千載喚眞盛。忠壯由求志。勇功賁育名。染毛勝彩。衣錦等纓。悽愴篠原景。戰爭今似〓。

綱紀河北潟の下流粟崎に別舘を設けて屢之に臨む。河北潟を稱して太清湖といふもの、此の頃より始るといふ。綱紀が粟崎の亭子に題する詩に曰く。

 百尺凌雲碧玉樓。蒼波涵影鏡中流。帝棧數濺江天色。織出檻前錦樹秋。

此の時木下順庵平岩仙桂澤田宗堅等に宴を賜ひしに、各秋日扈從粟崎別舘應教七律を賦せり。順庵の詩に曰く。

 華舘高樓倚曲碕。畫船浮處望無涯。滄溟鵬撃三千里。白嶺龍蟠億萬基。大網横波白魚躍。雙橋映水彩虹垂。賢侯遊豫何非事。正是秋風省歛時。

澤田宗堅の詩は則ち。

 華亭城北甲三州。萬木蕭森度晩秋。吟弄頻含輞川趣。雲煙眞適武夷遊。松蓮原上寵蟄。橋架巖崕蜺浮。料得郭凞堪筆。四時錯行勝雄稠。

平岩仙桂の詩は。

 一層樓榭碧瀛潯。夕景粲然恁檻臨。遠竦巽方白山嶽。近當乾所黒津森。澹雲佳氣雜天地。麗水明砂布古今。清沼豈非文囿右。翺翔來去濯游禽

寛文十一年の夏、綱紀儒士江戸育徳園に迎へ、詩を賦して曰く。

 騷客題詩一草堂。夕蝉和雨送斜陽。人間快樂有何事。吟就此中興味長。

この宴に侍するもの、林鵞峰・林鳳岡・林晋軒・人見竹洞・野間三竹・野間允迪、及び我が儒平岩仙桂澤田宗堅五十川剛伯なり。綱紀八儒に命じて育徳園八景を分賦せしむ。鵞峰は乃ち長林晨暉を得たり。詩に曰く。
迎出日茂林新。佳木千章紅一輪。宿露養得平旦氣。照林杲々煥雲隣。
鳳岡は清池宿禽を得、曰く。

 同群知止枕清漣。夢入十洲三島邊。歛翼能占靜中樂。蒹葭深處不眠。

晋軒は溪橋聞鵑を賦す、曰く。

 芳樹翠園烟景微。杜鵑休道不歸。聲々恐起堯夫感。莫天津橋上

平蕪游鹿は竹洞の賦する所。

 露洗緑蕪町疃平。自教園沼得民情。雅游開宴草如織。濯々馴來歌鹿鳴

西塢花雲は允迪の賦する所。

 白櫻樹上白雲低。霞際淡然千萬枝。濃露香風西塢畔。賞花探句夕陽遲。

仙桂は竹逕凉雨を賦し、宗堅は恠巖紅楓を吟じ、剛伯は幡松晴雪を哦す。その各詩は則ち。

 緑竹團欒滿徑深。新過一雨玉蕭森。不圖趙盾炎熱盡。唯有滑川千畝陰
 峨々巖石倚林丘。高閣風廻楓葉稠。爛漫照地霜後晩。想看呉水楚山秋。
 移栽一徑萬年松。喜氣歡聲排九冬。帶雪蟠根何所似。緑盤龍化白沙龍

又八勝境を分賦せしむ。鳳岡は蔦旋居、晋軒は月到亭、竹洞は半曲樹、允迪は通達窻、仙桂は標柱石、宗堅は青顧軒、剛伯は望富觀、三竹は晞驥堂を取る。然れどもその詩は和臭紛々、生硬にして吟哦すべからざること、之を前詩に徴して知るべし。詩已に成り、揮灑して卷軸をなす。鳳岡之が序を作り、三竹之に跋し、並びに賜宴の状況を叙す。其の文亦平板にして撃節に價せず。故に今皆之を收録せず。
是より先、寛文四年林海洞を東都邸に招きて、朱若亭の感興詩を講ぜしめ、又詩經を釋かしむ。十二年綱紀越中に遊獵せる時木下順庵等駕に從ひ、教に應じて五言排律一章を上る。貞享三年仲秋蓮池亭に於いて國卿大夫に調馬を見しめ、且つ夜に入りて宴を賜ひ、各明月の詩を献ぜしむ。綱紀通論して奧村庸禮父子の詩に至り、節を撃ちて嘆じて曰く、文辭巧妙、實に漢魏の遺韻ありと。