石川県立図書館/大型絵図・石川県史

石川県史 第三編

第三章 學事宗教

第一節 學校

寺子屋に就學する兒童の年齡は八歳前後に初り、年長者は十六七歳に及ぶものあり。寺子屋の中には町家のみの子弟を收容するものあり、町家の子弟と武家の子弟とを共に教育するものあり。後者に在りては、多く午前に町人、午後に武家を集めて教授時間を區別せり。習字科に用ふる手本は、日常必要なる語句文章を集めたるものにして、書法を練習するに先だち讀方を授けたるが故に、手本は即ち讀本をも兼ぬるものとし、庶民にありてはその教科用とする名頭・町名盡・國盡・商賣往來・消息往來・庭訓往來を學ぶを以て普通の學力を備へたりと考へられ、千字文・實語教・童子教・三字經・小學題辭・唐詩選に至りては頗る高等に屬すとせり。武家の子弟は、明倫堂四書・五經等の漢籍を學ぶの外、寺子屋に於いては歴代帝號・武家法度・武具短歌等を手本とせしを以て、これ亦習字以外多少の裨益ありしこと勿論なり。寺子屋にては毎年春秋二季に張清書を行ひて優劣を判じ、兒童階級を進めしむ。張清書とは、各級毎に一樣の文字を選び、三日聞に亙りて練習し、第四日に至り嚴重なる監督のもとに清書せしめ、各記點して之を壁上に貼布するをいふ。この外席書と稱するものあり。多く寺院を會場に宛て、同窓新舊の門生相集り、席上直に大小隨意の文字を書し、兼て揮毫し置ける作品をも併せて陳列し、以て來賓の展觀に供せしなり。寺子屋にはまた通學兒童の外、稍年長の門生あり。彼等は時々その清書を齎して師の批評是正を求む。門閥家の子弟に對しては、師匠たるもの日を定めて參邸指南せり。凡そ書道を以て衣食するものは、繪畫俳諧・點茶・挿花・卜筮・醫術を生業とするものと同じく、士農工商以外の特種階級とせらる。書家中特に技術の優秀なるものは、徴されて食祿を給ひ士籍に列せらるゝことあり。その職務は書寫方御用を命ぜらるゝを普通とす。書寫方とはの御書物奉行の配下に屬するものにして、珍籍奇書を謄寫するを職とするものなり。