石川県立図書館/大型絵図・石川県史

石川県史 第三編

第二章 儀式慣習

第二節 風俗

物吉と稱する一團ありて、石川郡廣岡村に住し、七兵衞といふ者に支配せらる。古くは乞食の癩病に罹るものあるときは、物吉之を收容して看護し、その死者ある場合は荼毘に附するを任とせり。家業は竹の子草履・下駄の鼻緒を作り、武家・町方に祀儀あるときは、その家に至り大聲賀辭を述べ、人をして嫌忌せしめて過分の米錢を受く。葢し物吉名稱はこの地方にのみ限るにあらず。嬉遊笑覽に人倫訓蒙圖會を引きて、『物吉は竹の皮籠のすみぬりにはりたるを負て洛中を勸進に出る。物吉といひそめしより、縁起よしとて名付しものなり。其圖は癩人籠を負、手に棒を持たる乞丐なり。』といへば、初は癩人たりしものなるべし。物吉は素より藤内頭の配下にあらずといへども、同族漸く増殖し、生活亦困難となるに及び、朝夕城下に赴きて食を求むるものあるに至れり。かくの如きは藤内頭より乞食札を得て、その支配に屬す。廻藤内非人頭物吉と同一の場合に於いて施與を受く。
藤内非人頭物吉祝貰請候ヶ條書一件
       覺
 御武家   御 家 督  御 新 知  御 加 増  御 目 見  御 轉 役
       御 門 開  御 新 宅  御 養 子  御 婚 禮  御 前 髮
       御 角 入  御男子御誕生 御 袴 着
 同斷勸進  年   頭  五 節 句  盆   暮  兩度御祭禮  氷室朔日
       八   朔
 町家等   御扶持方   家 賣 買  新宅附土藏  縁   組  法   事
       役   祀  鑑 板 祀  男子誕生   前   髮  角   入
       養   子  婚   禮  袴   着  隠居讓り替  愼 御 宥
 同斷勸進  年   頭  吉   祝  五 節 句  氷室朔日   八   朔
      兩度祭禮  盆   暮   夷   講  大工山祭  鍛 冶 祭
 右之通かご屋・非人頭等夫々御祝等頂戴仕候。以上。
    寛政二年戌七月                      藤   内   頭
〔藤内頭並廻藤内非人頭勤方〕