石川県立図書館/大型絵図・石川県史

石川県史 第三編

第二章 儀式慣習

第二節 風俗

十二月二十五日より所々に年の市を開き、歳末入用の物品は、悉く之を購ひて貯藏す。この頃人持以上の武家にては、門松に用ふる眞松の下附を出願し、二十九日頃より之を立て、又注連繩を張る。門松は門・式臺・中式臺・臺所に設けられ、高さ五六尺の眞松に細き竹二本を添ふるものにして、高祿の家にあらざれば爲すことなし。注連繩には俵藻・讓葉・田作・昆布・蜜柑・木炭を挿み、門戸を横ぎりて長く張らる。別に室毎に輪状のものを飾り、之を間繩(マナハ)と稱す。商家にては戸口に輪飾を施すといへども、一向宗の信者のみは之を爲さず。この頃新年用の鏡餠及び熨斗餠を作る。餠は自家にて作り、營業者をして作らしめ、又は搗廻(ツキマハリ)をして作らしむ。搗廻とは釜・蒸籠・臼・杵などを運び來りて餠を製し、その賃錢を受くる者をいふ。この頃知人の間に、歳暮を祀して物品を贈答す。幼年の男兒は、歳末より天神堂を飾りて正月に及ぶ。葢し藩侯の祖先を天滿天神なりとするに因るなるべし。晦日、孟蘭盆以後に於ける貸借を精算し、除夜には寺院に詣でゝ曉に徹するものあり。子の刻一向宗以外の諸寺、百八聲の梵鐘を鳴らして舊年のこゝに終れるを報ず。