石川県立図書館/大型絵図・石川県史

石川県史 第三編

第二章 儀式慣習

第二節 風俗

五月五日端午とし、俗に菖蒲の節句又は蓬の節句とも稱す。男兒出生して初めてこの佳辰に會する時は、幟・吹貫・小旗等を庭上に樹て、高祿の士家に在りては飾兜を作るものあり。屢江戸に來往する者の家に在りては、府内の風俗に倣ひて吹貫に鯉を用ひ、幟竿に風車を附するもありき。この日一般に笹粽を製す。そは細長き三角形の團子を大笹にて卷き、之を蒸したるものにして、五本を一束と稱し、實梗繩にて扇状に結はへ、二束を半聯、四束を一聯と數へ、親戚互に贈答せり。笹は前月末數里を距てたる山に入りて採集し、或は村婦野娘の振賣するを購ふ。笹粽製造の煩雜を厭ふ時は、單に小豆を附し又は大豆粉にまぶしたる同形の團子とするものあり。殿中の奧向にては、糯粳相半したる餠を五六寸の棒状に作り、眞菰を簀の如く卷くを例とす。この日の遊戲に菖蒲打あり。菖蒲を束ねて短く切り、細き麻繩にて緊縳し、士家の二三男又は若黨等之を携へて婦人の臀を打つ。時に石を菖蒲中に包みて重量を増すものあり。商家の婦女その難を恐れて武士町を通行するもの少し。戸々軒に菖蒲と蓬とを挿み、又は浴場に浮べて浴す。この日より單衣を着す。

金澤城内端午飾幟圖 金澤市村松七九氏藏