石川県立図書館/大型絵図・石川県史

石川県史 第三編

第二章 儀式慣習

第二節 風俗

正月二日以降七日に至る間、藤内非人の來りて米錢を乞ふもの多し。其の中に初午あり。竹籠に紙を張りて脚部なき馬を作り、肩衣のみを着したる男、己が腰をその中に貫き、側面に袴及び鐙を書き、宛然之に乘れるが如き觀あらしめ、『春の始の初午なんぞ、夢に見てさへよいとは申す。こなた屋形へかけこむ駒は、駒は若駒乘手は上手、ヒン々々ドウ々々』と唱へて、馳驅する状をなし、別に一人の太鼓を囃すもの之に隨ふ。又福の神あり。簑笠を着し、阿多福面を顏の右側に懸け、『御座つた〱、福の神が御座つた。福の神といふ人は、天竺天の神なれば、一に俵をふんまへたり。二ににつこりと笑はれて、三つで皆樣息に、四つで世の中よいやうに、五つでいつもの如くなれ。六つで無量延命を、七つで何事ないやうに、八つで屋敷を建てひろげ、九つこなたへをさまりて、十で徳はどつさり。』と唱ふ。その他、柄を附したる馬首を右手に、鈴を左手に持ち、又兩手に赤き木綿の手綱を牽きたる春駒あり。赤白の狐を土にて作り、之を板に載せたるを捧ぐる正一位稻荷大明紳あり。小さき俵に繩を附して携へ、之を屋内に投ずる福俵福右衞門あり。各佳詞を唱へて家内繁昌を祝す。