石川県立図書館/大型絵図・石川県史

石川県史 第三編

第二章 儀式慣習

第一節 典禮

この夜殿中に謠初を行はるゝを以て、能役者は八ッ半の時刻に出仕し、江戸京都の抱役者も來藩出仕するものあり。七ッ時を過ぐる時は年寄以下亦登城す。藩侯は準備の成りたる報を得て大廣間に出座し、板縁敷居際に列座する年寄以下に對して近く寄るべしとの命を與へ、年寄以下皆敷居内に膝行着席す。謠初に於ける吉例の番組は略左の如し。

  四 海 波    權 兵 衞
 高  砂   權 兵 衞      [仁 兵 衞 千 之 丞]   [壽  六 養 五 郎]
  松 高 き   彌 三 郎
 東  北   彌 三 郎       [次 三 郎 八郎兵衞]   市 十 郎
  祀ふなる     權  進    長生の家   宮  門  松が根の   五郎兵衞
  萬代の    權兵衞    老をだに   彌三郎    長き命    灌  進
  花さそふ   宮  門   桑の弓    五郎兵衞   玉かづら   權兵衞
  白妙に雲も  彌三郎    か樣に名高き 權  進   此御代に   宮  門
  難波の梅   五郎兵衞   笙の岩屋の  權兵衞    實や大原や  彌三郎
  雲かと    權  進   大悲擁護の  宮  門   盛なる藤   五郎兵衞
  よしや    權兵衞    松も木高き  彌三郎    君が代は   權  進
  緑樹蔭    宮  門   唯たのめ   五郎兵衞   天下を保   權兵衞
  うつすや   彌三郎    袖ひぢて   權  進   其外當社の  宮  門
  夜聲もいとゞ 五郎兵衙   三千年に   權兵衞    ゆるす故に  彌三郎
  唯是君の   權  進   初春の    宮  門   例へば是は  五郎兵衞
  野邊の    權兵衞    君は千代ませ 彌三郎
 猩  々   權兵衞    [嘉 六 郎 勇   藏]  [太郎左衞門 多 賀 藏]
〔北藩秘鑑〕
謠初の儀初るとき、表小將は藩侯に島臺・吸物・取肴を供し、大小將は年寄に吸物を供す。是に於いて藩侯は酒盃を賜ふとの意を告げ、年寄・家老・若年寄順次に酒盃と取肴とを受く。若年寄の賜盃終らんとする頃囃子の東北終り、次いで小謠の間に、奏者・奉行・頭役等二人宛御流れを頂戴し、役者は大土器に酒を注ぎたるを上座より廻し、御流頂戴の終らんとする頃、囃子の猩々を初め、同時に島臺・吸物・銚子を撤し、舞納めたるを見て若年寄目録を大夫に與へ、且つ藩侯に對して『何某御目録頂戴仕難有奉存』と言上す。是に於いて藩侯『今晩は首尾能』と告げ、筆頭の年寄之に答へ、次いで藩侯居室に入る。その下賜品は、大夫竹田權兵衞に小袖二代四枚、諸橋權進・波吉宮門に二枚宛、殘余の惣役者に一枚宛なり。