石川県立図書館/大型絵図・石川県史

石川県史 第二編

第五章 加賀藩治終末期

第三節 錢屋五兵衞

五兵衞は又信義に厚き人なりき。嘗て語りて曰く、非常の業を起す者は非常の困難を犯さゞるべからず。我が舊主木屋の如きも、また富豪の名を天下に知らるゝに至りたるは、一たびその厄に遭遇したる後に在りしなり。而して余は今や資産に於いて木屋に讓る所なしといへども、名聲の彼に如かざる者は未だ奇禍を得しことあらざるに因る。たゞ余に在りては、常に舊主の恩義に報ずべきを思ひ、敢へて之と地位を爭ふを欲せず。是を以て余の商事を營むや、常に木屋の業を妨害せざる範圍に於いてするを念とせりと。