石川県立図書館/大型絵図・石川県史

石川県史 第二編

第五章 加賀藩治終末期

第三節 錢屋五兵衞

改作奉行たりし安井顯比の談にいふ。當時十村役に折橋理三郎ありしが、一日宴席に於いて五兵衞に會せり。理三郎乃ち五兵衞に問ひて曰く、足下富鉅萬を累ぬ、若し利を射るの妙策あらば、その一端を我に教へよと。五兵衞曰く、凡そ財寳を得るの困難なること世亦之に比すべきものなし。方今諸侯皆窮乏し、加ふるに各法制の嚴密なるものあるを以て、如何ぞ能く商利を擅にするを得んや。余の如きも亦普く支舖を全國に開けりといへども、未だ收益の意の如くならざるものあり。若しそれ外國と有無相交換するを得ば或は非常の利を獲得すべからんも、そは國禁に屬するを以て敢へて犯すべきにあらざるなりと。五兵衞の言、或は問ふに墮ちずして語るに墮ちたるものにあらざるか。且つ後に發見せられたる藩吏鈴木清之丞より五兵衞に與へたる手書によれば、その船舶の竹島に往來せる事情明白なりしも、清之丞の黜陟に關するあらんを恐れ、石黒堅三郎と謀りて之を火中に投じたりと。