石川県立図書館/大型絵図・石川県史

石川県史 第二編

第五章 加賀藩治終末期

第三節 錢屋五兵衞

然るに禍福は糾へる繩の如く、財政の危急を脱する爲天保十一年三月奧村榮實を擧げてこれが整理に任ぜしめ、而して榮實が富豪木屋藤右衞門・島崎徳兵衞・錢屋五兵衞等を招き最善の救濟方法を議するに及びて、五兵衞は又忽ち好運の鍵鑰を把握したりき。相傳ふ、五兵衞この時末班より進みて曰く、凡そ財政を整理し國富を増進せしむるの法は、商利を得るの途を開くを第一とす。若し余に命じて事に當らしめば、所期の目的を達すること難きにあらざらん。その細故に至りては胸中自ら成竹ありと。藩吏素より彼の鬼才あるを知りしを以て、乃ち彼の請ふ所に任せ、天保十四年四月大船二隻を新造して五兵衞に附せり。新船の一は二千五百石積にして慶安丸といひ、一は二千石積にして常安丸と稱す。次いで翌弘化元年四月更に常豐丸・常盤丸を加ふ。五兵衞因りて之を加賀藩御手船と名づけ、船具に悉くの徽章を附し、國産を滿載して輸出を計れり。五兵衞又自家の船舶を擧げて船に擬し、遍く諸港に來往して通商交易せしが、特に南部・津輕の木材と、越中一國に對する肥料との輸入を取扱ひたりき。かくして彼は御手船御用たること數年なりしが、其の間啻り藩の財政に裨補する所多かりしのみならず、また家運を挽回して從前に倍蓰するの巨富を致し、その地位を進めて十村格に列し、兩刀を帶し、清水の苗字を冐すを許され、名聲遠邇に轟くに至れり。是より先、喜太郎も亦天保十四年を以ての御(オカネ)裁許たることを命ぜられ、家柄(イヘガラ)町人に准じて正月七日藩侯の謁を賜はり、又納税半額を蠲かるゝ等の特權を得たり。御裁許とは、の必要に應じて金融通貸附を爲すものをいふ。錢屋の家運がこの年を以て大轉換したるを見るべし。

  一、御かね裁許                  歳三十五  錢屋喜太郎
 私儀、文政八年中川外記樣御役中、諸算用聞上役并貯用銀裁許見習被仰付、同九年右本役被仰付候。同年御用銀過分被仰渡候得ども全上納仕候。同十二年高畠右門樣御役中御能方主付被仰付候。同十三年被仰渡候御用銀も全上納仕候。天保四年金澤御引替所札尻被仰付、同五年於右御役所、御戴紙(オダイシ)を以建中紬二反拜領被仰付候。神尾主殿樣御役中、天保七年よりの非常凶作困窮の者共等御救方米錢等調達方、私へ被仰渡相勤申候。其砌御救方へ自分米も指出申候。同年七月御用銀仰出候節、御趣意奉恐察、打割被仰出御座以前、先年の割合より高餘計奉指上度段奉願上後處、御聞屆之後奇特の事に思召、被達御聽にも候段、御年寄中樣よりの御書立、御奉行所へ御呼立被仰渡、難有冥加至極奉存候。同八年所方用米拂底に付一作用米方元締役被仰付、出米買調方并御印米買入代等調達被仰付相勤申候。此節紬一疋拜領仕候。同年三月横目役被仰付、同九年正月貯用銀裁許棟取仰付、同月横目肝煎當分兼帶仰付相勤罷在申候處、同年十一月湯原平馬樣御役中、御仕法相改、横目役被仰渡、與三八・平左衞門・私三人へ横目肝煎被仰渡候へども、無據趣即日御免許奉願上候處御聞屆、尤其砌横目肝煎當分兼帶並横目役御免許被仰付候。同十二月打續御救方等、御國恩存付、二百枚町御役所へ指出度奉願上候處、御聞屆にて右之趣御用番御年寄樣へ御達被置候に付、被達御聽候段、御席へ御奉行所御呼立被仰渡候旨、御書立を以被仰渡、冥加至極奉存侯。同十年産業所主付被仰付子調達仕來申候。同年十二月町御役所へ五貫目指出度、以後御救方御仕法に被仰付下候樣奉願上候處、難有御聞屆御座候。將又今般御算用場よりの御書を以、御裁許一代切にて、御直支配於奉行仰、家柄の者御目見被仰付候者差續列に而、以後御禮正月七日相勤旨。右に付半役御免許被仰付、難有冥加至極奉存候。依之貯用銀裁許棟取・諸算用聞上役・御能方主付・産業所主付御免許被仰渡、當時實父五兵衞より相續、船商賣・同問屋并御國産布・紬抔、關東等交易仕來申候。
 一、宗旨は一向宗、寺は金澤長徳寺旦那御座候。
        一 類 附
          父               五 兵 衞
          母   金澤松任屋彌助姊    ま   さ
          妻   本吉明翫屋次兵衞娘   き   わ
          娘               ち   か
          妹   金澤小倉屋次助妻    し   げ
          同   當所小竹屋善兵衞妻   せ   い
          弟               佐 八 郎
          妹               と   し
          弟               要   藏
          妹               り   う
         伯父  當所鈍屋又五郎隱居   如   休
          同   金澤松任屋       彌   助
          甥   錢屋與三八忰      與 十 郎
          同   小倉屋次助忰      他 七 郎
          同   同           長 次 郎
          同   同           勇 次 郎
          同   小竹屋善兵衞忰     平 太 郎
          姪   同           や   ゑ
          從弟  錢 屋         又 五 郎
          同   同人弟         左 五 郎
          同   同           茂   助
          同   同           加 四 郎
          同   同           徳 兵 衞
          同   同           友 次 郎
          同   長沖屋宗兵衞妻     や   す
〔天保十四年錢屋由緒一類附〕

三ヶ國長者鏡 金澤市正木みつ氏藏

 
 

錢屋喜太郎書翰 石川郡明元愛氏藏