第五章 加賀藩治終末期
第一節 奧村榮實の献替
天保九年二月齊泰は、先に窮民に粥を給し又は財を施したる者を賞して物を賜ひ、四月十六日には老臣及び算用場奉行等の勞を賞せり。然るにこの年五月に至りて氣候又順ならず、人々寒氣に堪へずして綿衣を被るものあり。六月に至りて尚此の如くなりしかば、諸寺社に於いては五穀豐饒を佛神に祈願したりき。次いで七月非人小屋に收容せる貧民中死者を出すこと甚だ多かりしを以て殊に撫恤に注意せしめ、八月犀川川上の芝居座を毀ちて、非常の際士民の逸樂に耽るを警め、同月また獄囚の待遇を改めて、囹圄の構造を改良し、食餌の給養を豐富ならしめ、十月笠舞に於ける在來の非人小屋の外、別に妙義芝居小屋跡・田井新町・淺野町中島の三ヶ所に貧民收容所を増設し、又十二月には郡奉行・改作奉行・遠所町奉行の荒政に勤勞せし者に賞賜せり。
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