石川県立図書館/大型絵図・石川県史

石川県史 第二編

第四章 加賀藩治停頓期

第五節 社會種々相

次いで明和三年十一月晦日、金澤城内東丸なる大奉行所管の倉庫に侵入して、夥多の金を掠奪せるものありしが、之を久しくして何者の所爲たるかを知る能はざりき。時に組外組(クミハヅレ)の士に栗田源右衞門ありて、祿二百石を受けしも資産素より豐かならざりしが、頃者家政を整理し得たりと稱し、舊債を辨濟し服飾器什を購ふこと多く、その債は皆即時に之を償ふのみならず、邸宅も亦荒廢せるを以て久しからずして改造するの意あることを語れり。藩吏これを怪しみ内偵を放ちて檢せしめしに、彼の所有する金の額甚だ多きものゝ如くなりき。因りて改方奉行小堀五右衞門の告發により、四年正月十三日年寄横山大膳隆達は源右衞門の頭役岩田傳左衞門を召喚して彼の素行を調査し、遂に十八日を以て逮捕するに決したりき。源右衞門乃ち情を知り、同日拂曉その妾と三子とを刺し己も亦自刄せり。是に於いて藩吏その家僕を捕へて訊問したる結果、源右衞門の家に相對して住する繩屋太郎左衞門が彼の依頼に應じて金を隱匿せるを知り、直に之を押收せしに小判六百十八兩・丁銀一枚五十五匁五分・一歩金二千五百九十一切・七貫九百目・小玉六十五匁を得たり。藩臣にして藩侯の蓄積を竊みしこと此の如きは、蓋し前後にその比を見ること能はざるなり。