石川県立図書館/大型絵図・石川県史

石川県史 第二編

第四章 加賀藩治停頓期

第五節 社會種々相

謠曲註釋書以外には、擬謠曲を集めたる謠曲萬壽抄の著あり。この書の著者は明らかならずといへども、その開卷第一に載せられたる『盆正月』が、天保元年五月藩侯齊泰の子慶寧江戸に生まれたるを喜び、城下の人民が大規模の祝祭を擧行したる次第を記すものあるが故に、略その著作年代を推察し得べし。又安永九年藩士高田善藏が金谷殿中千鳥の廊下に於いて奸臣中村萬右衞門刺殺せる事實を脚色したる『竹の露』あり。共に時代相を見るに逸すべからざる好資料にして、その文は別に之を引用せり。その他酒三輪・日待頼政・藥葵上・酒三井寺・自然居士・大食景清・酒鉢木・鼠景清・鵜飼・鐵輪・放下僧の諸短編ありて、何れももぢり小謠たるに過ぎず、遊戲的閑文字として多大の價値を認めずといへども、當時加賀謠曲國たりし反映として見る時は亦趣味の津々たるものなきにあらず。