石川県立図書館/大型絵図・石川県史

石川県史 第二編

第四章 加賀藩治停頓期

第三節 風教作振

孝子傳右衞門は寛政五年を以て旌表せらる。傳右衞門は金澤の人にして、その家貧しかりしが母に仕へて至孝なりき。傳右衞門年已に壯なりしも、家庭の雍和を傷り旨甘親に給せざるべきを恐れて敢へて婦を娶らざりき。傳右衞門の弟善助は、志行極めて凶險、嘗て罪を犯して獄に繋がれしが、その釋放せらるゝに及び母之を怒りて逐はんとせり。徳右衞門爲に涕泣謝して曰く、彼も亦善に遷るの期あるべし。况や骨肉の割くべからざるものあるに於いてをやと。友愛の情切々人に迫りしかば、善助は大に慚愧して終に改心せり。