石川県立図書館/大型絵図・石川県史

石川県史 第二編

第四章 加賀藩治停頓期

第三節 風教作振

天明三年孝女杉も亦褒旌せらる。杉は鹿島郡所口の人伊右衞門の子なり。今年春伊右衞門罪ありて金澤の獄に下りしに、杉悲痛に堪へずして日夜號泣せしが、遂に城下に赴きて賈人六右衞門の婢となり、その得たる賃銀を以て屢旨甘を調へ、以て獄中に贈りたりき。偶河北郡藥師村なる本興寺の佛像靈驗ありと傳へて、賽客群を爲せり。杉之を聞きて、毎夜入靜りたる後二里を距てたる本興寺に至り、父の宥されんことを祈請し、還れば則ち蓆に寢ね塊を枕とせり。家人その故を問へば言ふ。父獄に在りて苦を受くるに、如何ぞ妾獨温安に就くを得んやと。聞く者皆悽惻せしが、遂に藩吏の知る所となり、特に伊右衞門を杉に責付し、毎歳錢若干を賜ひたりき。