石川県立図書館/大型絵図・石川県史

石川県史 第二編

第三章 加賀藩治恢弘期

第二節 前田利常の監國

利常好みて書を讀まざりしといへども、その言動能く規矩に中り、見る所大綱を失はざりしもの、實に天稟の資性による。曾て東海道を經て江戸に至りしに、男女途に填塞せり。利常之を左右に問ひて、東本願寺門跡を拜せんとするものなるを知り、彼の乞丐僧何ぞ拜するを要せんと罵りたりき。次日熱田に至りしに、復人の堵を爲して門跡を迎ふるを見しかば、利常、世間何人か能く衆民の信服を得ること是に至るものあらんや、思ふに門跡は即ち活佛なるべしといひて、爾後治を施すに宗教の度外視すべからざると悟れり。異日吏利常に謂つて曰く、封内の聚落至る所として一向宗寺院あらざるはなし。若し寺地に課税せば、その獲る所鮮少にあらざるべしと。利常乃ち之に諭して、汝その一を知りてその二を知らず。愚民の教導せらるゝは多く門跡の力によるが故に、一向宗は實に邦家の至寳と言はざるべからずといへり。