石川県立図書館/大型絵図・石川県史

石川県史 第二編

第二章 加賀藩治創始期

第六節 基督教の傳播

南坊はその信仰を固執せんが爲に、遂に波濤萬里を超えたる異境に配流せらるゝに至りたりしが、かくても尚彼はその基督教信者たることに對して天恩を感謝したりしか、或は謬りて異教を奉せしが爲にその大身たる地位を失ふに至りしを悔いたりしかに就いては、長崎古今要覽に、彼が『南蠻の惡徒に迷はされ、彼に傾きかゝる身となる事、宿因の程こそ恨めしけれ。』と嘆じたりとし、六本長崎記にも亦『邪宗門に落入し事、かへす〲も無念なりと後悔せしよし。』と記すれども、此の如きは皆我が國の外教禁止以後に於ける一種の宣傳たるに過ぎず。新井白石の如き具眼者に在りては、南坊等の此の國に在りてこそ大身なるが故に教徒も之を尊重したりしが、外國に赴きたる後はその待遇また舊の如くならざりしを以て大に後悔せりと前人の傳へたるは、『わざと申ふらし候にやと存候。』[白石先 生手簡]といへり。