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田無・保谷のおはなし

田無・保谷のおはなし


むかしむかし たなしの村に 心やさしくかわいらしい きぬというお姫様がいました。
きぬは 死んでしまったおかあさんのかっていた七匹のかいこをとても可愛がっていました。
きぬ
 「おとうさん。わたしこのかいこのことを、大好きだったおかあさんだと思っているのよ。」
ちち
 「かわいそうな きぬ。さみしいおもいをさせたね。
でも、あたらしいおかあさんが来ることになったから、もう大丈夫だよ。」
しかし 新しいおかあさんは 本当はきつねが化けた恐ろしい人だったのです。
そして きぬが大事にしていたかいこを見るなり
きつね
 「うまそうな虫だ。どれひとつ食べてみよう」
きつねが手を延ばしたとたん かいこは口からピューと糸を噴きかけました。
かんかんに怒ったきつねは
きつね
 「すてておしまい!こんな生意気な虫なんて」
きぬ
 「お願いです。このかいこたちはおかあさんの形見なんです。すてることなんてできません。」
きつね
 「生意気な 虫たちをすてられないなら、おまえも一緒にすててやる」
きぬ姫とかいこを一緒に本当にすててしまったのです。
ここは『タカの山』。
昼間でもうす暗く、人もおそうタカたちが飛び交う恐ろしい山です。
遠くの空には大きなタカが2~3羽飛んでいるのが見えます。
一羽のタカがおびえているきぬ姫を見つけました。
タカは鋭いつめを出し、目をギラギラ光らせながら、きぬ姫をめがけておそいかかりました。
キー バサバサ
あ!
七匹のかいこたちは口から糸をはき出しました。
糸はあっというまに恐ろしいタカをぐるぐるまきにしてしまいました。
糸はねばねばしていて、タカがどんなにもがいてもとれません。
きつね
 「死んだと思ったのに何ということだ!
まだかいこを持っているのなら『ししの谷』にすててやる!」
しし
 「うぉーうぉー」
ししの谷には遠くからうなり声がきこえます。
しし
 「うぉーうぉーうぉー」
うなり声はだんだん だんだんとせまってきます。
ピカ!いなずまが光り、ししの姿が浮かびあがりました。
大きな赤い口、金色の目が、きぬ姫をにらんでいます。
バリッバリッ
雷が鳴り ししはきぬ姫におそいかかりました。
きぬ
 「おかーさーん、たすけてぇ」
きぬ姫は目をつむり逃げようとしましたが、すぐに転んでしまいました。
きぬ姫のかかえていた七匹のかいこは、手からとび散り、空高く弧をえがいて七色の美しい虹となりました。
・・・
きぬ姫はその虹をわたり、恐ろしいししから逃げることができました。
きつね
 「こんどこそうまくいったと思ったのに。」
きつねは怒りで体をふるわせながら、きぬ姫をこわきに抱えました。
ピューと山をのぼり いくつも山を越え ついに谷底の川へつき落したのです。
七匹のかいこは力を合わせて、くわの枝を舟にしました。
きぬをのせた舟は、川下へとどんどん流れてゆきます。
 
きつねが家にもどってみると そこには流され、たどりついたきぬ姫が すでに横たわっていました。
かいこたちは、きぬ姫のそばで死んだように動きませんでした。
いなくなってしまったきぬ姫を探し歩いていた父おやは、変わりはてたきぬの姿を見て、たいそう悲しみ涙を流しました。
父おやの涙がかいこの上に落ちました。
すると、かいこたちは七色に光りはじめ、みるみるまに天使のような羽がはえ、きぬ姫のまわりをとびはじめました。
きつねはその光景をみると、おどろきのあまりしっぽを出し、ばけぎつねの正体を出して逃げていきました。
光の輪がだんだんとおおきくなり きぬ姫とかいこたちはふわふわと天に昇りました。
・・・
村人たちは、きぬ姫をしのびかいこをかいました。
そのまゆから美しいきぬ糸を作ります。
かいこのおかげで村はしだいに豊かになりました。
きぬ姫は、かいこの女神となり、いつまでも村人やかいこたちを見守っています。
人々は一月十五日の小正月には、まゆ玉をかざり、きぬ姫をしのぶのです
 
おわり