港区/デジタル版 港区のあゆみ

港区史 自然編

第Ⅱ章 港区の気候と気象

1 港区の気候・気象を捉える視点

 私たち人間は、いわば大気の底にあたる地表面の近傍で暮らしている。大気中にはさまざまな時間・空間スケールの大気現象が生起しており、それによって現れる日々の天気の状態に影響を受けながら私たちは活動している。
 大気の状態を長年にわたって観察すると、平均状態、典型的な状態、あるいは現れやすい状態などとして、地域に固有な特徴を見出すことができる。これがその地域の気候であり、地域に暮らす人びとや動植物が意識・無意識のうちに生活の前提としている自然環境の一つである。一方、気候は人間活動の舞台背景としてだけではなく、都市気候や地球温暖化などのように人間活動によっても改変を受ける。人間と気候とは相互作用を有しており、地域の理解には気候の理解も重要である。
 時々刻々の大気状態は、気象観測に基づく気温や風向風速などの気象要素、また気象レーダーや人工衛星データなどの解析によって把握される。これらは天気予報の基礎データとなり、またさまざまな気象現象の仕組みや物理的なプロセスの理解に欠かせない資料である。一方で気候の特徴は、ある程度長い年月にわたる気象観測から得られた降水量や気温、風向風速など各種の気象要素をもとにして、平均値を求めたり、ある特定の大気状態が出現する頻度を集計したりするなど、気象要素をさまざまな形に整理集約した数値(気候要素)によって把握される。これをグラフや地図上の分布図として、いわば大気状態の縮図として表現し、季節変化や場所による差異を知って地域の気候を考察する。
 場所による気候の差異をもたらす地理的な要因を気候因子といい、たとえば緯度、海陸分布、海流、海からの距離、地形や標高、土地利用などがあげられる。これらは太陽からの受熱量の差異や地球大気の大規模な循環(大気大循環)、表面構成物質の熱的性質の違いによる大気に対する加熱・冷却の差異、流体である大気の力学的・熱力学的ふるまいなど、多様なプロセスを経て気候に反映される。また、考察する空間のスケール(現象の水平・鉛直的な広がり)によって、気候を考える上で重要となる気候因子やプロセスは異なってくる。
 港区の地形は、JR線の西側に広がる武蔵野台地と、東側の東京湾臨海部における低平な海岸低地や埋立地とに大きく区分される。武蔵野台地上は多数の小さな谷によって開析されて起伏に富んだ地形となっており、特に港区のほぼ中央部を流れる古川沿いは谷底低地となっている。渋谷区の稲荷橋付近から開水路となった渋谷川が港区内に入り、天現寺橋から河口までの約4.4kmが古川と呼ばれる。
 このような身近な地形は、局地的な風系や気温分布への影響など港区のローカルな気候形成に関与していることが考えられる。また、港区が位置する関東平野は、南側と東側が太平洋に面し、北側と西側は山地に囲まれた日本で最大の平野である。低平な関東平野とはいえ、周囲の山地や海陸の分布などによって海陸風や山谷風が生起し、沿岸部の港区においてその影響は大きい。このような自然的要因に加え、港区は千代田区・中央区とともに都心三区を構成する大都市東京の中心地域であり、土地利用(図1-1)や建築物の建ち並び方(図1-2)など高度な都市化の進展をみせている。これに起因する都市気候の発現によっても気候には多様で地域的な分布模様が現れる。


図1-1────港区と周辺域の土地利用分布
港区の行政界を太実線で示している。
国土交通省の都市地域土地利用細分メッシュデータ(100mメッシュ)をもとに作成。



図1-2────港区と周辺の建築物高度分布
5mメッシュDSM(Digital surface model)データ(株式会社パスコ)を用いた。
50m四方内の最大値で表現している。


 降水量や気温などの気候要素には季節変化があり、年ごとの差異はあるものの、概ね一定の範囲内で毎年繰り返され、人びとの暮らしや動植物の活動に1年周期のリズムを与えている。このような季節変化は、大気大循環やそれに関連する高気圧や低気圧、前線など気象擾乱の活動と密接な関係を持っており、世界各地で季節の現れ方は異なる。日本は中緯度のユーラシア大陸東側に位置し、四季の季節変化が明瞭であるとともに、梅雨や秋雨・台風による雨の多い時期が存在する。これに伴い、地域の気候現象にも季節による現れ方の差異が認められる。
 本章では港区における気候の特徴について、各種気候要素の季節変化や日変化を多様なデータに基づいて提示し、それに関わる海陸風や都市ヒートアイランド現象といった身近な大気現象、また短時間強雨(ゲリラ豪雨)による都市型水害や大気汚染などについて概説する。さらに地質時代から歴史時代における地球の気候の変遷および地球温暖化を含む最近の気候変化についても概観する。