さいたま市立大宮図書館/おおみやデジタル文学館 ―歌人・大西民子―

全短歌(10824首)

全短歌(歌集等)

短歌研究

 
かすかなる       切り株に        耳たぶの        装ほへる        
芝焼きし        立体を         みづからの       抽象に         
地下深き        温床の         拭ひ切れぬ       菊石の         
指先の         圧点を         重心が         きりのなき       
森を抜けて       花栗の         夜の駅の        切り口より       
野の隅に        自転車を        水滴を         山々の         
麦の穂の        円心に         中傷の         円筒の         
生け垣を        とめどなく       
 
 
 

10771
かすかなる 時報互に 聴きわけて 遅速異なる 時間持ち合ふ
カスカナル ジホウカタミニ キキワケテ チソクコトナル ジカンモチアフ

『短歌研究』(短歌研究社 1972.8) 第19巻8号 p.16


10772
切り株に つまづきたれば 暗闇に 無数の耳の ごとき木の葉ら
キリカブニ ツマヅキタレバ クラガリニ ムスウノミミノ ゴトキコノハラ

『短歌研究』(短歌研究社 1972.8) 第19巻8号 p.16


10773
耳たぶの 小さき黒子を 禍根とし 朝々われは 髪もて覆ふ
ミミタブノ チイサキホクロヲ カコントシ アサアサワレハ カミモテオオフ

『短歌研究』(短歌研究社 1972.8) 第19巻8号 p.16


10774
装ほへる よろこび淡く 雨傘の 輪をずらしつつ 従ひゆきぬ
ヨソホヘル ヨロコビアハク カウモリノ ワヲズラシツツ シタガヒユキヌ

『短歌研究』(短歌研究社 1972.8) 第19巻8号 p.16


10775
芝焼きし 痕のまだらに 注ぐ雨 囮の雌も 鎮めて待たむ
シバヤキシ アトノマダラニ ソソグアメ ヲトリノメスモ シズメテマタム

『短歌研究』(短歌研究社 1972.8) 第19巻8号 p.16


10776
立体を 取り戻しゆく 夜の心 くるめくやうな ワルツを弾きて
リッタイヲ トリモドシユク ヨノココロ クルメクヤウナ ワルツヲヒキテ

『短歌研究』(短歌研究社 1972.8) 第19巻8号 p.16


10777
みづからの 呼び醒ましたる 潮騒に ゆれ出す壁画の なかの破船も
ミヅカラノ ヨビサマシタル シオサヰニ ユレダスヘキガノ ナカノハセンモ

『短歌研究』(短歌研究社 1972.8) 第19巻8号 p.17


10778
抽象に 流るるわれを 堰くごとく 鉢傾けて 灰汁こぼしゐる
チュウショウニ ナガルルワレヲ セクゴトク ハチカタムケテ アクコボシヰル

『短歌研究』(短歌研究社 1972.8) 第19巻8号 p.17


10779
地下深き 震源を伝ふる 夜半の声 枕にオーデ コロンが匂ふ
チカフカク シンゲンヲツタフル ヨワノコエ マクラニオーデ コロンガニオフ

『短歌研究』(短歌研究社 1972.8) 第19巻8号 p.17


10780
温床の パイロットランプ 吹き消して 来し悔いをふと 点すに似たる
オンショウノ パイロットランプ フキケシテ コシクイヲフト トモスニニタル

『短歌研究』(短歌研究社 1972.8) 第19巻8号 p.17


10781
拭ひ切れぬ ガラスの曇り わが持てる 歪みも触れて 痛まずなりぬ
ヌグヒキレヌ ガラスノクモリ ワガモテル ヒズミモフレテ イタマズナリヌ

『短歌研究』(短歌研究社 1972.8) 第19巻8号 p.17


10782
菊石の おのおのが持つ 輪郭を 踏みつつぼけて ゆく指点あり
キクイシノ オノオノガモツ リンカクヲ フミツツボケテ ユクシテンアリ

『短歌研究』(短歌研究社 1972.8) 第19巻8号 p.17


10783
指先の 繃帯うすく よごれゐて 午後の会議の 次第に疎し
ユビサキノ ホウタイウスク ヨゴレヰテ ゴゴノカイギノ シダイニウトシ

『短歌研究』(短歌研究社 1972.8) 第19巻8号 p.17


10784
圧点を 知られしごとき 危ふさに 油絵のなかの われと向き合ふ
アツテンヲ シラレシゴトキ アヤフサニ アブラエノナカノ ワレトムキアフ

『短歌研究』(短歌研究社 1972.8) 第19巻8号 p.17


10785
重心が 迫り上げられて 苦しきに 間を置かず来る 製材の音
ジュウシンガ セリアゲラレテ クルシキニ マヲオカズクル セイザイノオト

『短歌研究』(短歌研究社 1972.8) 第19巻8号 p.18


10786
きりのなき 仕事区切りて 中心が くぼむ朱肉も 机にしまふ
キリノナキ シゴトクギリテ チュウシンガ クボムシュニクモ ツクエニシマフ

『短歌研究』(短歌研究社 1972.8) 第19巻8号 p.18


10787
森を抜けて のがるる如く 帰りしが 眼裏に白き 一枚の沼
モリヲヌケテ ノガルルゴトク カエリシガ マナウラニシロキ イチマイノヌマ

『短歌研究』(短歌研究社 1972.8) 第19巻8号 p.18


10788
花栗の 香の吹き溜まる 夕まぐれ 埴輪の巫女の 唇うごく
ハナグリノ カノフキタマル ユウマグレ ハニワノミコノ クチビルウゴク

『短歌研究』(短歌研究社 1972.8) 第19巻8号 p.18


10789
夜の駅の 伝言板に 溢れゐる 文字声なして 響むことあり
ヨノエキノ デンゴンバンニ アフレヰル モジコエナシテ トヨムコトアリ

『短歌研究』(短歌研究社 1972.8) 第19巻8号 p.18


10790
切り口より 垂るる血のごと 脈打ちて タール吐きゐる 土管ありたり
キリグチヨリ タルルチノゴト ミャクウチテ タールハキヰル ドカンアリタリ

『短歌研究』(短歌研究社 1972.8) 第19巻8号 p.18


10791
野の隅に 積まれ久しき ドラム罐 土橋を渡る をりふしに見ゆ
ノノスミニ ツマレヒサシキ ドラムカン ドバシヲワタル ヲリフシニミユ

『短歌研究』(短歌研究社 1972.8) 第19巻8号 p.18


10792
自転車を 土手に寝かせて 人憩ふ 萱草の花も やがて開かむ
ジテンシャヲ ドテニネカセテ ヒトイコフ クワンサウノハナモ ヤガテヒラカム

『短歌研究』(短歌研究社 1972.8) 第19巻8号 p.18


10793
水滴を 垂れつつ尖り ゆく水柱 暗示にかかる 如く見てゐつ
スイテキヲ タレツツトガリ ユクツララ アンジニカカル ゴトクミテヰツ

『短歌研究』(短歌研究社 1972.8) 第19巻8号 p.19


10794
山々の 雌雄をつなぐ 物語 旅の一夜の つれづれに恋ふ
ヤマヤマノ シユウヲツナグ モノガタリ タビノヒトヨノ ツレヅレニコフ

『短歌研究』(短歌研究社 1972.8) 第19巻8号 p.19


10795
麦の穂の かすかに白き 花まとふ 野を傾けて 過ぎゆく疾風
ムギノホノ カスカニシロキ ハナマトフ ノヲカタムケテ スギユクハヤテ

『短歌研究』(短歌研究社 1972.8) 第19巻8号 p.19


10796
円心に 沈みゆく身を 幻覚に 光る波紋の ひろがりやまず
エンシンニ シズミユクミヲ ゲンカクニ ヒカルハモンノ ヒロガリヤマズ

『短歌研究』(短歌研究社 1972.8) 第19巻8号 p.19


10797
中傷の 文字読みしあと 硝子戸に 映れるわれは ゆらゆらと起つ
チュウショウノ モジヨミシアト ガラスドニ ウツレルワレハ ユラユラトタツ

『短歌研究』(短歌研究社 1972.8) 第19巻8号 p.19


10798
円筒の 太き脚もて 立つ埴輪 われは踵を 返すほかなく
エントウノ フトキアシモテ タツハニワ ワレハクビスヲ カエスホカナク

『短歌研究』(短歌研究社 1972.8) 第19巻8号 p.19


10799
生け垣を 透かして歩む われの影 引き裂かれたき 心が還る
イケガキヲ スカシテアユム ワレノカゲ ヒキサカレタキ ココロガカエル

『短歌研究』(短歌研究社 1972.8) 第19巻8号 p.19


10800
とめどなく 降る売子木の花 見つつゐて 芯の重みに 堪へ得よわれは
トメドナク フルエゴノハナ ミツツヰテ シンノオモミニ タヘエヨワレハ

『短歌研究』(短歌研究社 1972.8) 第19巻8号 p.19