さいたま市立大宮図書館/おおみやデジタル文学館 ―歌人・大西民子―

全短歌(10824首)

全短歌(歌集等)

短歌

 
雨のなかに       ハイヤーを       対きあひて       住みがたき       
漂鳥の         印章を         タール煮る       ワンピース       
冷却器の        改宗の         朱を塗りて       苗床の         
わが岸を        三椏は         新しき         地取りして       
風折れの        田から田へ       夜の水は        溶闇に         
音量を         蛇の卵         伴はれ         新しき         
遺されし        墓碑銘を        川底の         おのづから       
鷺草の         柱像の         
 
 
 

10684
雨のなかに 赭く錆びゆく 朴の花 昨夜の夢さへ われをあざむく
アメノナカニ アカクサビユク ホウノハナ ヨベノユメサヘ ワレヲアザムク

『短歌』(角川書店 1961.7) 第8巻7号 p.34


10685
ハイヤーを 洗ふホースが くねりゐて 予感するどし 朝の駅前
ハイヤーヲ アラフホースガ クメリヰテ ヨカンスルドシ アサノエキマエ

『短歌』(角川書店 1961.7) 第8巻7号 p.34


10686
対きあひて プルニエの皿 あけしのみ 掠むるやうに バスは発ちゆく
ムキアヒテ プルニエノサラ アケシノミ カスムルヤウニ バスハタチユク

『短歌』(角川書店 1961.7) 第8巻7号 p.34


10687
住みがたき 町と思ふに 三叉路は 風を呼びつつ 風鈴売らる
スミガタキ マチトオモフニ サンサロハ カゼヲヨビツツ フウリンウラル

『短歌』(角川書店 1961.7) 第8巻7号 p.34


10688
漂鳥の 自在を阻む 何あらむ 或る日は重く 地にゐる鳩ら
ヒョウチョウノ ジザイヲハバム ナニアラム アルヒハオモク チニヰルハトラ

『短歌』(角川書店 1961.7) 第8巻7号 p.35


10689
印章を あつらへに入りて 小暗きに 癖つよき文字 カードに記す
インショウヲ アツラヘニイリテ コクラキニ クセツヨキモジ カードニシルス

『短歌』(角川書店 1961.7) 第8巻7号 p.35


10690
タール煮る かたはら過ぎて 襟暑し 何時訪ひ来ても 騒ける町
タールニル カタハラスギテ エリアツシ イツトヒキテモ ザワツケルマチ

『短歌』(角川書店 1961.7) 第8巻7号 p.35


10691
ワンピース 着せ終へて腕を 嵌め込みつ 店員はマネキン より丈低し
ワンピース キセオヘテウデヲ ハメコミツ テンインハマネキン ヨリタケヒクシ

『短歌』(角川書店 1961.7) 第8巻7号 p.35


10692
冷却器の 音する茶房に 落ちあひて ヒールの泥も いつしか乾く
フリーザーノ オトスルサボウニ オチアヒテ ヒールノドロモ イツシカカワク

『短歌』(角川書店 1961.7) 第8巻7号 p.35


10693
改宗の 経緯を告げて 来し手紙 精しく剖きて 見たき字句持つ
カイシュウノ ケイイヲツゲテ キシテガミ クハシクサキテ ミタキジクモツ

『短歌』(角川書店 1961.7) 第8巻7号 p.35


10694
朱を塗りて 仕上げしグラフ みづからの 信じ得ぬ日も 人は信ぜむ
シュヲヌリテ シアゲシグラフ ミヅカラノ シンジエヌヒモ ヒトハシンゼム

『短歌』(角川書店 1961.7) 第8巻7号 p.35


10695
苗床の ビニールを煽る 風の音と 聴きすましつつ ながく醒めゐる
ナエドコノ ビニールヲアオル カゼノオトト キキスマシツツ ナガクサメヰル

『短歌』(角川書店 1961.7) 第8巻7号 p.35


10696
わが岸を しきりに抉る 流れあり 夜更くれば風の 音を伴ふ
ワガキシヲ シキリニエグル ナガレアリ ヨフクレバカゼノ オトヲトモナフ

『短歌』(角川書店 1961.7) 第8巻7号 p.35


10697
三椏は 毛深き花と 触れて見つ 夢の続きの しぐさのごとく
ミツマタハ ケブカキハナト フレテミツ ユメノツヅキノ シグサノゴトク

『短歌』(角川書店 1961.7) 第8巻7号 p.36


10698
新しき 木鋏鳴らし 薔薇切れば 音叉の立てし 音がかへり来る
アタラシキ キバサミナラシ バラキレバ オンサノタテシ オトガカヘリクル

『短歌』(角川書店 1961.7) 第8巻7号 p.36


10699
地取りして 縄を矩形に 張りゆけり 梅の落ち実は たれも拾はず
ジトリシテ ナワヲクケイニ ハリユケリ ウメノオチミハ タレモヒロハズ

『短歌』(角川書店 1961.7) 第8巻7号 p.36


10700
風折れの 木の折れ口に 抗ひの 痕をとどめて するどし幹は
カザヲレノ キノオレグチニ アラガヒノ アトヲトドメテ スルドシミキハ

『短歌』(角川書店 1961.7) 第8巻7号 p.36


10701
田から田へ 落とす水音 おもむろに 養されて来し われかも知れず
タカラタヘ オトスミナオト オモムロニ ヒタサレテコシ ワレカモシレズ

『短歌』(角川書店 1961.7) 第8巻7号 p.36


10702
夜の水は 土手の切れめに 光りゐて 未詳の個所を 嘗て怖れき
ヨノミズハ ドテノキレメニ ヒカリヰテ ミショウノカショヲ カツテオソレキ

『短歌』(角川書店 1961.7) 第8巻7号 p.36


10703
溶闇に 転換さるる 場面にて 映画ならねば ながながと会ふ
ヨウアンニ テンカンサルル バメンニテ エイガナラネバ ナガナガトアフ

『短歌』(角川書店 1961.7) 第8巻7号 p.36


10704
音量を 下げつつ待つに 鼓手の 身振り映して 久しきテレビ
オンリョウヲ サゲツツマツニ ドラマーノ ミブリウツシテ ヒサシキテレビ

『短歌』(角川書店 1961.7) 第8巻7号 p.36


10705
蛇の卵 探すと森の 少年ら 風折れの木を 跳びてすばやし
ヘビノラン サガストモリノ ショウネンラ カザヲレノキヲ トビテスバヤシ

『短歌』(角川書店 1961.7) 第8巻7号 p.36


10706
伴はれ 旅ゆかむ日を 思ひ来て 楓の花の 降る道に出づ
トモナハレ タビユカムヒヲ オモヒキテ カエデノハナノ フルミチニイヅ

『短歌』(角川書店 1961.7) 第8巻7号 p.37


10707
新しき 銃と散弾 買ひ込みて 山に帰りし その後を知らず
アタラシキ ジュウトサンダン カヒコミテ ヤマニカエリシ ソノゴヲシラズ

『短歌』(角川書店 1961.7) 第8巻7号 p.37


10708
遺されし 貼絵は持つ 月明に 半旗のやうな 葉を垂るる木々
ノコサレシ コラージュハモツ ゲツメイニ ハンキノヤウナ ハヲタルルキギ

『短歌』(角川書店 1961.7) 第8巻7号 p.37


10709
墓碑銘を きざむドリルを 支へゐて 痙攣のやうに 人の手うごく
ボヒメイヲ キザムドリルヲ ササヘヰテ ケイレンノヤウニ ヒトノテウゴク

『短歌』(角川書店 1961.7) 第8巻7号 p.37


10710
川底の 石は光ると 渡り来て 息荒く貨車の 過ぎゆくに遭ふ
カワゾコノ イシハヒカルト ワタリキテ イキアラクカシャノ スギユクニアフ

『短歌』(角川書店 1961.7) 第8巻7号 p.37


10711
おのづから つながる頸を 夜々に待つ 顔無き埴輪 机に置きて
オノヅカラ ツナガルクビヲ ヨヨニマツ カオナキハニワ ツクエニオキテ

『短歌』(角川書店 1961.7) 第8巻7号 p.37


10712
鷺草の 花の無数が はばたくと 夕陽の河原 騒立ちやすし
サギソウノ ハナノムスウガ ハバタクト ユウヒノカワラ サワダチヤスシ

『短歌』(角川書店 1961.7) 第8巻7号 p.37


10713
柱像の 双手が支へ ゐし屋根の 重み夜更けて わが肩に来る
アトラントノ モロテガササヘ ヰシヤネノ オモミヨフケテ ワガカタニクル

『短歌』(角川書店 1961.7) 第8巻7号 p.37