さいたま市立大宮図書館/おおみやデジタル文学館 ―歌人・大西民子―

全短歌(10824首)

全短歌(歌集等)

アサヒグラフ増刊号

 
帰らざる        かたはらに       引力の         青みさす        
煽られし        年々に         亡き人の        まろまろと       
霊柩車を        洗ひたる        手に重き        
 
 
 

10553
帰らざる 幾月ドアの 合鍵の 一つを今も君は 持ちゐるらむか
カエラザル イクツキドアノ アイカギノ ヒトツヲイマモキミハ モチヰルラムカ

『アサヒグラフ増刊号』(朝日新聞社 1986.12.20) p.


10554
かたはらに 置く幻の 椅子一つ あくがれて待つ 夜もなし今は
カタハラニ オクマボロシノ イスヒトツ アクガレテマツ ヨモナシイマハ

『アサヒグラフ増刊号』(朝日新聞社 1986.12.20) p.


10555
引力の やさしき日なり 黒土に 輪をひろげゆく 銀杏の落ち葉
インリョクノ ヤサシキヒナリ クロツチニ ワヲヒロゲユク イチョウノオチバ

『アサヒグラフ増刊号』(朝日新聞社 1986.12.20) p.


10556
青みさす 雪のあけぼの きぬぎぬの あはれといふも 知らで終らむ
アオミサス ユキノアケボノ キヌギヌノ アハレトイフモ シラデオワラム

『アサヒグラフ増刊号』(朝日新聞社 1986.12.20) p.


10557
煽られし 楽譜を拾ふ 時の間に ドビユツシーもわれは 逃がしてしまふ
アオラレシ ガクフヲヒロフ トキノマニ ドビユツシーモワレハ ニガシテシマフ

『アサヒグラフ増刊号』(朝日新聞社 1986.12.20) p.


10558
年々に 聴き慣れし竹の 落ち葉なれ 雨かと醒めし 妹が問ふ
ネンネンニ キキナレシタケノ オチバナレ アメカトサメシ イモウトガトフ

『アサヒグラフ増刊号』(朝日新聞社 1986.12.20) p.


10559
亡き人の たれとも知れず 夢に来て 菊人形の ごとく立ちゐき
ナキヒトノ タレトモシレズ ユメニキテ キクニンギョウノ ゴトクタチヰキ

『アサヒグラフ増刊号』(朝日新聞社 1986.12.20) p.


10560
まろまろと 昇る月見て 戻り来ぬ 狂ふことなく 生くるも悲劇
マロマロト ノボルツキミテ モドリコヌ クルフコトナク イクルモヒゲキ

『アサヒグラフ増刊号』(朝日新聞社 1986.12.20) p.


10561
霊柩車を 先立ててゆく バスのなか 不意に時刻を 問ひし人あり
レイキュウシャヲ サキダテテユク バスノナカ フイニジコクヲ トヒシヒトアリ

『アサヒグラフ増刊号』(朝日新聞社 1986.12.20) p.


10562
洗ひたる 皿のたちまち 冷えゆくは 死にたる人の 冷えゆくに似る
アラヒタル サラノタチマチ ヒエユクハ シニタルヒトノ ヒエユクニニル

『アサヒグラフ増刊号』(朝日新聞社 1986.12.20) p.


10563
手に重き 埴輪の馬の 耳ひとつ 片耳の馬は いづくにをらむ
テニオモキ ハニワノウマノ ミミヒトツ カタミミノウマハ イヅクニヲラム

『アサヒグラフ増刊号』(朝日新聞社 1986.12.20) p.