さいたま市立大宮図書館/おおみやデジタル文学館 ―歌人・大西民子―

全短歌(10824首)

全短歌(歌集等)

朱扇

 
貧しき中に       女なりとも       混迷の         甘かりし        
謄寫刷りを       酒の席に        譲歩して        砂防法などの      
世の中を        苦學して        體力を         ひたむきに       
家族らに        玉子ゆでる       百日紅の        
 
 
 

10432
貧しき中に ある平安も 肯はむ ブラウスをさらす カルキが匂ふ
マズシキナカニ アルヘイアンモ ウベナハム ブラウスヲサラス カルキガニオフ

『朱扇』(朱扇社 1952.9) 第4巻9号 p.2


10433
女なりとも 生活力を 養へよと 遠き教へ子に 書き添へてやる
オンナナリトモ セイカツリョクヲ ヤシナヘヨト トオキオシエゴニ カキソヘテヤル

『朱扇』(朱扇社 1952.9) 第4巻9号 p.2


10434
混迷の 世に若き身を さらしつつ 如何に堪へゐむ わが教へ子ら
コンメイノ ヨニワカキミヲ サラシツツ イカニタヘヰム ワガオシヘゴラ

『朱扇』(朱扇社 1952.9) 第4巻9号 p.2


10435
甘かりし わが人生觀が 響きゐずや 教へ子たちの 處世の上に
アマカリシ ワガジンセイカンガ ヒビキヰズヤ オシヘゴタチノ ショセイノウエニ

『朱扇』(朱扇社 1952.9) 第4巻9号 p.2


10436
謄寫刷りを 一日なしつつ 我の中に 徐々に起りゐる 變化思へり
トウシャズリヲ ヒトヒナシツツ ワレノナカニ ジョジョニオコリヰル ヘンカオモヘリ

『朱扇』(朱扇社 1952.9) 第4巻9号 p.2


10437
酒の席に 誘ふ葉書が 君に來つ 痛飲などといふ 言葉がありき
サケノセキニ サソフハガキガ キミニキツ ツウインナドトイフ コトバガアリキ

『朱扇』(朱扇社 1952.9) 第4巻9号 p.2


10438
譲歩して オペラを見むと 言ひし君 かかる愛情の 在り方も寂し
ジョウホシテ オペラヲミムト イヒシキミ カカルアイジョウノ アリカタモサビシ

『朱扇』(朱扇社 1952.9) 第4巻9号 p.2


10439
砂防法などの 圏外にあり 生活に 追はるる友が むしろ羨しも
サボウホウナドノ ケンガイニアリ セイカツニ オハルルトモカ ムシロウラヤミシモ

『朱扇』(朱扇社 1952.9) 第4巻9号 p.2


10440
世の中を 割切りて生くる 立場羨し 疾く子を生めと 言ひにし友よ
ヨノナカヲ ワリキリテイクル タチバウラヤミシ ヤクコヲウメト イヒニシトモヨ

『朱扇』(朱扇社 1952.9) 第4巻9号 p.2


10441
苦學して 遂に病みつきし 汝が愛し 哲學概論など 枕邊にあり
クガクシテ ツイニヤミツキシ ナンジガアイシ テツガクガイロンナド マクラベニアリ

『朱扇』(朱扇社 1952.9) 第4巻9号 p.2


10442
體力を 知れと叱れば 涙ぐむ 幼くて父を 喪へる汝よ
タイリョクヲ シレトシカレバ ナミダグム オサナクテチチヲ モヘルナンジヨ

『朱扇』(朱扇社 1952.9) 第4巻9号 p.2


10443
ひたむきに アメリカ留學を 夢見ゐし 明るさも既に 失へる汝よ
ヒタムキニ アメリカリュウガクヲ ユメミヰシ アカルサモスデニ ウシナヘルナンジヨ

『朱扇』(朱扇社 1952.9) 第4巻9号 p.2


10444
家族らに 互みに病まれ 夏も更く 注射器を煮つつ 一人起き居り
ウカララニ カタミニヤマレ ナツモフク チュウシャキヲニツツ ヒトリオキオリ

『朱扇』(朱扇社 1952.9) 第4巻9号 p.2


10445
玉子ゆでる 鍋が微かに 音たてて 何時までも妹も 眠れぬらしも
タマゴユデル ナベガカスカニ オトタテテ イツマデモイモウトモ ネムレヌラシモ

『朱扇』(朱扇社 1952.9) 第4巻9号 p.2


10446
百日紅の 花も吹かれて 散り居らむ 暗き夜空を どよもす風よ
サルスベリノ ハナモフカレテ チリオラム クラキヨゾラヲ ドヨモスカゼヨ

『朱扇』(朱扇社 1952.9) 第4巻9号 p.2