さいたま市立大宮図書館/おおみやデジタル文学館 ―歌人・大西民子―

全短歌(10824首)

全短歌(歌集等)

朱扇

 
妥協のみ        聲あげて        亂れゆく        焦點を         
薄荷の匂ひ       長き未來に       泣き明かし       今朝は稍        
よるべなき       單調に         道のへの        無斷にて        
崩れたる        風にとぎれて      歸るべき        
 
 
 

10324
妥協のみ 繰返しゆく わが日々よ 思へば今日も よく笑ひたり
ダキョウノミ クリカエシユク ワガヒビヨ オモヘバキョウモ ヨクワラヒタリ

『朱扇』(朱扇社 1951.9) 第3巻9号 p.2


10325
聲あげて 母よと呼びたき 時のあり わが寂しさは 夫にも響かむ
コエアゲテ ハハヨトヨビタキ トキノアリ ワガサビシサハ ツマニモヒビカム

『朱扇』(朱扇社 1951.9) 第3巻9号 p.2


10326
亂れゆく 君が生活に 脅えつつ 身の去就さへ 定め難けれ
ミダレユク キミガセイカツニ オビエツツ ミノキョシュウサヘ サダメガタケレ

『朱扇』(朱扇社 1951.9) 第3巻9号 p.2


10327
焦點を 故意に外して 言ひ合へば 夫も他人の ひとりの如し
ショウテンヲ コイニハズシテ イヒアヘバ ツマモタニンノ ヒトリノゴトシ

『朱扇』(朱扇社 1951.9) 第3巻9号 p.2


10328
薄荷の匂ひ 少し嗅ぎなば 眠れむと 當なき思ひ しつつ覺めをり
ハッカノニオヒ スコシカギナバ ネムレムト アテナキオモヒ シツツサメヲリ

『朱扇』(朱扇社 1951.9) 第3巻9号 p.2


10329
長き未來に 計りて去就 定めよと 言はれし事も 身に沁むるなり
ナガキミライニ ハカリテキョシュウ サダメヨト イハレシコトモ ミニシムルナリ

『朱扇』(朱扇社 1951.9) 第3巻9号 p.2


10330
泣き明かし 諦めややに 得し我か たんねんに朝の 米をとぎをり
ナキアカシ アキラメヤヤニ エシワレカ タンネンニアサノ コメヲトギヲリ

『朱扇』(朱扇社 1951.9) 第3巻9号 p.2


10331
今朝は稍 立ち直りたる わが心 野ばらの唄歌ひて 勤めに行かむ
ケサハヤヤ タチナオリタル ワガココロ ノバラノウタウタヒテ ツトメニユカム

『朱扇』(朱扇社 1951.9) 第3巻9号 p.2


10332
よるべなき こころのままに 出づる旅よ 小型聖書も 鞄に入れつ
ヨルベナキ ココロノママニ イヅルタビヨ コガタセイショモ カバンニイレツ

『朱扇』(朱扇社 1951.9) 第3巻9号 p.2


10333
單調に ひびく獅子舞の 笛の音も 旅のこころに くひ入るごとし
タンチョウニ ヒビクシシマイノ フエノオトモ タビノココロニ クヒイルゴトシ

『朱扇』(朱扇社 1951.9) 第3巻9号 p.2


10334
道のへの 草に埋れし 塔婆にも 百合を手向けて 過ぎむとぞする
ミチノヘノ クサニウモレシ トウバニモ ユリヲタムケテ スギムトゾスル

『朱扇』(朱扇社 1951.9) 第3巻9号 p.2


10335
無斷にて 出で來し旅の 小氣味よさも いつか寂き 悔となりつつ
ムダンニテ イデキシタビノ コキミヨサモ イツカサビシキ クイトナリツツ

『朱扇』(朱扇社 1951.9) 第3巻9号 p.2


10336
崩れたる 古墳をめぐれる 濠のあと 白鷺幾羽 下りてまた飛ぶ
クズレタル コフンヲメグレル ホリノアト シラサギイクワ オリテマタトブ

『朱扇』(朱扇社 1951.9) 第3巻9号 p.2


10337
風にとぎれて 賛美歌の流れ くる窓よ 丘の裾より 霧ははれゆく
カゼニトギレテ サンビカノナガレ クルマドヨ オカノスソヨリ キリハハレユク

『朱扇』(朱扇社 1951.9) 第3巻9号 p.2


10338
歸るべき 家のなきごと 虚しかり 遠くまたたく 街のほかげよ
カエルベキ イエノナキゴト ムナシカリ トオクマタタク マチノホカゲヨ

『朱扇』(朱扇社 1951.9) 第3巻9号 p.2