さいたま市立大宮図書館/おおみやデジタル文学館 ―歌人・大西民子―

全短歌(10824首)

全短歌(歌集等)

朱扇

 
餅草も         雨季來れば       屑毛糸         無名作家の       
原稿が         われの職        未亡人の        春雷の         
策動せし        待つ手紙        
 
 
 

10297
餅草も 摘みて待つとふ 母の手紙 給料日すぎて 歸らむと思ふ
モチグサモ ツミテマツトフ ハハノテガミ キュウリョウビスギテ カエラムトオモフ

『朱扇』(朱扇社 1951.6) 第3巻6号 p.3


10298
雨季來れば たちまち水漬く 河原さへ 人は耕し 種子蒔くらしも
ウキクレバ タチマチミズク カワラサヘ ヒトハタガヤシ シュシマクラシモ

『朱扇』(朱扇社 1951.6) 第3巻6号 p.3


10299
屑毛糸 集めて何を 編むならむ 耳遠き母の 寂しげにして
クズケイト アツメテナニヲ アムナラム ミミトオキハハノ サビシゲニシテ

『朱扇』(朱扇社 1951.6) 第3巻6号 p.3


10300
無名作家の 儘終るとも 長く生きよと 願ふを君も 知り給ふべし
ムメイサッカノ ママオワルトモ ナガクイキヨト ネガフヲキミモ シリタマフベシ

『朱扇』(朱扇社 1951.6) 第3巻6号 p.3


10301
原稿が 賣れなば買はむと 言ひ給ふ 姫鏡台の 前を離れつつ
ゲンコウガ ウレナバカハムト イヒタマフ ヒメキョウダイノ マエヲハナレツツ

『朱扇』(朱扇社 1951.6) 第3巻6号 p.3


10302
われの職 追はむ企みも 知りたれど 信じてゐたし 人の善意を
ワレノショク オハムタクラミモ シリタレド シンジテヰタシ ヒトノゼンイヲ

『朱扇』(朱扇社 1951.6) 第3巻6号 p.3


10303
未亡人の 護身術かわれを 陥れて そしらぬ風に 笑みかくるなり
ミボウジンノ ゴシンジュツカワレヲ オトシイレテ ソシラヌフウニ エミカクルナリ

『朱扇』(朱扇社 1951.6) 第3巻6号 p.3


10304
春雷の ひとしきりせし 夕まぐれ 辭表書かむと 決めて坐りぬ
シュンライノ ヒトシキリセシ ユウマグレ ジヒョウカカムト キメテスワリヌ

『朱扇』(朱扇社 1951.6) 第3巻6号 p.3


10305
策動せし 人らよりも職を 追はれゆく 我に幸福は あると思へり
サクドウセシ ヒトラヨリモショクヲ オハレユク ワレニコウフクハ アルトオモヘリ

『朱扇』(朱扇社 1951.6) 第3巻6号 p.3


10306
待つ手紙 今日こそは來む かがよひて 麥の若葉を 吹く風のあり
マツテガミ キョウコソハコム カガヨヒテ ムギノワカバヲ フクカゼノアリ

『朱扇』(朱扇社 1951.6) 第3巻6号 p.3