さいたま市立大宮図書館/おおみやデジタル文学館 ―歌人・大西民子―

全短歌(10824首)

全短歌(歌集等)

 
抜き切れぬ       屋上の         砲身の         バス降りし       
シヤンデリアの     高まりて        草はらの        そそのかす       
結びめを        ぬるき湯の       貰ひたる        蝙蝠の         
なめらかに       坂道の         縞の目を        袖口の         
石膏の         繃帯に         潮鳴りの        
 
 
 

09330
抜き切れぬ 庭の夏草 雨の夜を しんしんとまた 繁りあふ音
ヌケキレヌ ニワノナツクサ アメノヨヲ シンシントマタ シゲリアフオト

『彩』(新星書房 1965.6.26) p.36


09331
屋上の 噴泉を見て 降り来しに 松葉杖など 人は買ひゐる
オクジヨウノ フンセンヲミテ オリコシニ マツバヅエナド ヒトハカヒヰムル

『彩』(新星書房 1965.6.26) p.36


09332
砲身の 長さを覆ふ シート打ち 雨音しげし停車の間
ホウシンノ ナガサヲオオフ シートウチ アマオトシゲシ テイシャ

『彩』(新星書房 1965.6.26) p.36


09333
バス降りし 闇に思へば 若者は 蛇象れる 指環しいゐき
バスオリシ ヤミニオモヘバ ワカモノハ ヘビカタドレル ユビワシテヰキ

『彩』(新星書房 1965.6.26) p.36


09334
シヤンデリアの あかりの一つ つかぬまま 紙の吹雪の ふりまかれたり
シヤンデリアノ アカリノヒトツ ツカヌママ カミノフブキノ フリマカレタリ

『彩』(新星書房 1965.6.26) p.37


09335
高まりて 来る夜のうしほ 蛾のひらく ごとくに白き 扇が動く
タカマリテ クルヨノウシホ ガノヒラク ゴトクニシロキ オウギガウゴク

『彩』(新星書房 1965.6.26) p.37


09336
草はらの 露に濡れたる 足のまま 溺れてゐたし 花火の夜に
クサハラノ ツユニヌレタル アシノママ オボレテヰタシ ハナビノヨルニ

『彩』(新星書房 1965.6.26) p.37


09337
そそのかす ごとき手なりき すきとほる 黒の手袋 脱ぐこともなく
ソソノカス ゴトキテナリキ スキトホル クロノテブクロ ヌグコトモナク

『彩』(新星書房 1965.6.26) p.37


09338
結びめを ほどくごとくに 花こぼす 木蓮も夜の まなかひに置く
ムスビメヲ ホドクゴトクニ ハナコボス モクレンモヨノ マナウラニオク

『彩』(新星書房 1965.6.26) p.37


09339
ぬるき湯の 流るるに似し 会話にて 剥製の雉子 置ける棚見ゆ
ヌルキユノ ナガルルニニシ カイワニテ ハクセイノキジ オケルタナミユ

『彩』(新星書房 1965.6.26) p.38


09340
貰ひたる 名刺のよごれ ゐしことも 私和遂げし夜の 疼きを誘ふ
モラヒタル メイシノヨゴレ ヰシコトモ シワトゲシヨノ ウヅキヲサソフ

『彩』(新星書房 1965.6.26) p.38


09341
蝙蝠の 傾ぎつつ舞ふ 夢なりき 傷つけばなほ 飛ぶほかはなく
コウモリノ カシギツツマフ ユメナリキ キズツケバナホ トブホカハナク

『彩』(新星書房 1965.6.26) p.38


09342
なめらかに 這ふ夜の野火と 見てゐしが 遠景に人の 影すれちがふ
ナメラカニ ハフヨノノビト ミテヰシガ エンケイニヒトノ カゲスレチガフ

『彩』(新星書房 1965.6.26) p.38


09343
坂道の しろじろと続き ゐし記憶 暗かりし海の 色も忘れず
サカミチノ シロジロトツヅキ ヰシキオク クラカリシウミノ イロモワスレズ

『彩』(新星書房 1965.6.26) p.38


09344
縞の目を 合はせて布を 裁たむとし ありありとかの 首謀者の貌
シマノメヲ アハセテヌノヲ タタムトシ アリアリトカノ シュボウシャノカオ

『彩』(新星書房 1965.6.26) p.39


09345
袖口の 毛糸のほつれ 見しことも 別れ来し夜の かなしみを呼ぶ
ソデグチノ ケイトノホツレ ミシコトモ ワカレコシヨノ カナシミヲヨブ

『彩』(新星書房 1965.6.26) p.39


09346
石膏の 鼻梁思ひ切り もりあげて 誰にも似ざる 像か刻まむ
セッコウノ ビリョウオモヒキリ モリアゲテ ダレニモニザル ゾウカキザマム

『彩』(新星書房 1965.6.26) p.39


09347
繃帯に にじむマシン油 まことわれは 悔い改むる こと少なきか
ホウタイニ ニジムマシンユ マコトワレハ クイアラタムル コトスクナキカ

『彩』(新星書房 1965.6.26) p.39


09348
潮鳴りの 音を鎮めて 眠らむに 底知れぬ窪み などが見え来る
シオナリノ オトヲシズメテ ネムラムニ ソコシレヌクボミ ナドガミエクル

『彩』(新星書房 1965.6.26) p.39