さいたま市立大宮図書館/おおみやデジタル文学館 ―歌人・大西民子―

全短歌(10824首)

全短歌(歌集等)

俳句とエッセイ

 
ワゴンの上に      店先に         音もなく        暗渠より        
夕闇の         つまづきて       岬幾つ         知り得たる       
戦ひの         光りつつ        砂浜に         すさまじき       
砂文字を        日のあたる       降り立ちて       惑はしの        
窓打つを        いつまでも       踏絵踏む        滅多には        
 
 
 

09053
ワゴンの上に 溢れて花の 売られゐつ 人を送り来て 駅を出づれば
ワゴンノウエニ アフレテハナノ ウラレヰツ ヒトヲオクリキテ エキヲイヅレバ

『俳句とエッセイ』(牧羊社 1983.4) p.40


09054
店先に ダンボール踏み 潰しをり 何かいさぎよき 思ひのごとし
ミセサキニ ダンボールフミ ツブシヲリ ナニカイサギヨキ オモヒノゴトシ

『俳句とエッセイ』(牧羊社 1983.4) p.40


09055
音もなく すり抜けゆきし 自転車の 林の道へ 入りたるが見ゆ
オトモナク スリヌケユキシ ジテンシャノ ハヤシノミチヘ イリタルガミユ

『俳句とエッセイ』(牧羊社 1983.4) p.41


09056
暗渠より まろび出でたる ゴム鞠の 一直線に 流れゆきたり
アンキョヨリ マロビイデタル ゴムマリノ イッチョクセンニ ナガレユキタリ

『俳句とエッセイ』(牧羊社 1983.4) p.41


09057
夕闇の 畑に人の 影うごき カタコンベなど 掘るにあらずや
ユウヤミノ ハタケニヒトノ カゲウゴキ カタコンベナド ホルニアラズヤ

『俳句とエッセイ』(牧羊社 1983.4) p.41


09058
つまづきて 五体ほどけし ときのまに 野火の匂ひに とりかこまれぬ
ツマヅキテ ゴタイホドケシ トキノマニ ノビノニオヒニ トリカコマレヌ

『俳句とエッセイ』(牧羊社 1983.4) p.41


09059
岬幾つ 越えて届くや この世ならぬ 音に午報の サイレン聞こゆ
ミサキイクツ コエテトドクヤ コノヨナラヌ オトニゴホウノ サイレンキコユ

『俳句とエッセイ』(牧羊社 1983.4) p.41


09060
知り得たる こともすべなく 歩めるに ジグザグなして 波の引きゆく
シリエタル コトモスベナク アユメルニ ジグザグナシテ ナミノヒキユク

『俳句とエッセイ』(牧羊社 1983.4) p.41


09061
戦ひの 日のことのみを 語りつぎ 虹立つ空を 人は見ざりき
タタカヒノ ヒノコトノミヲ カタリツギ ニジタツソラヲ ヒトハミザリキ

『俳句とエッセイ』(牧羊社 1983.4) p.42


09062
光りつつ 岬をめぐりて 消えしもの ヨットの白帆 のみと思へず
ヒカリツツ ミサキヲメグリテ キエシモノ ヨットノシラホ ノミトオモヘズ

『俳句とエッセイ』(牧羊社 1983.4) p.42


09063
砂浜に 日ざし移ろひ 影踏みを してゐし子らも いつしか在らず
スナハマニ ヒザシウツロヒ カゲフミヲ シテヰシコラモ イツシカアラズ

『俳句とエッセイ』(牧羊社 1983.4) p.42


09064
すさまじき 海の入り日よ かの島に 全滅したる 一隊ありき
スサマジキ ウミノイリヒヨ カノシマニ ゼンメツシタル イッタイアリキ

『俳句とエッセイ』(牧羊社 1983.4) p.42


09065
砂文字を 消して引く波 寄する波 不意に見知らぬ 顔がふり向く
スナモジヲ ケシテヒクナミ ヨスルナミ フイニミシラヌ カオガフリムク

『俳句とエッセイ』(牧羊社 1983.4) p.42


09066
日のあたる 坂道の目に 見えながら いづち行きけむ 少女のわれは
ヒノアタル サカミチノメニ ミエナガラ イヅチユキケム ショウジョノワレハ

『俳句とエッセイ』(牧羊社 1983.4) p.42


09067
降り立ちて よしなき反故を 燃しゐるに 今朝の雀は みなよく啼けり
オリタチテ ヨシナキホゴヲ モシヰルニ ケサノスズメハ ミナヨクナケリ

『俳句とエッセイ』(牧羊社 1983.4) p.43


09068
惑はしの 言葉のごとく 大津絵に ほつつり赤し 椿の花は
マドハシノ コトバノゴトク オオツエニ ホツツリアカシ ツバキノハナハ

『俳句とエッセイ』(牧羊社 1983.4) p.43


09069
窓打つを 風の気配と 知るまでの つかのまありて またさびしけれ
マドウツヲ カゼノケハイト シルマデノ ツカノマアリテ マタサビシケレ

『俳句とエッセイ』(牧羊社 1983.4) p.43


09070
いつまでも 枯れゐる声を あはれまれ 電話を切れば また風の音
イツマデモ カレヰルコエヲ アハレマレ デンワヲキレバ マタカゼノオト

『俳句とエッセイ』(牧羊社 1983.4) p.43


09071
踏絵踏む 足の次々 あらはるる 夢醒めて寒し われのあなうら
フミエフム アシノツギツギ アラハルル ユメサメテサムシ ワレノアナウラ

『俳句とエッセイ』(牧羊社 1983.4) p.43


09072
滅多には あらぬことにて 揃へやる 男の靴の 大きかりしか
メッタニハ アラヌコトニテ ソロヘヤル オトコノクツノ オオキカリシカ

『俳句とエッセイ』(牧羊社 1983.4) p.43