さいたま市立大宮図書館/おおみやデジタル文学館 ―歌人・大西民子―

全短歌(10824首)

全短歌(歌集等)

短歌新聞

 
陥穽の         離ればなれの      さとられずに      ユトリロの       
その場限りの      バルカロールに     はばたきて       たまひたる       
よりどなき       雨降れば        報復の         雨あとの        
一角より        意識して        方形に         風落ちて        
水甕に         筋書きの        夢にして        闇と闇を        
 
 
 

08775
陥穽の 避けがたき夜ぞ いづくにか 光りつつ風見の 矢は廻りゐて
カンセイノ サケガタキヨゾ イヅクニカ ヒカリツツカザミノ ヤハマワリヰテ

『短歌新聞』(短歌新聞社 1958.6.10) 通巻56号 p.3


08776
離ればなれの 心となりて 歩みゐつ 坂のぼりつめて ともる駅見ゆ
ハナレバナレノ ココロトナリテ アユミヰツ サカノボリツメテ トモルエキミユ

『短歌新聞』(短歌新聞社 1958.6.10) 通巻56号 p.3


08777
さとられずに すましたき齟齬 思ひゐて 柿の花がら 踏みつつ帰る
サトラレズニ スマシタキソゴ オモヒヰテ カキノハナガラ フミツツカエル

『短歌新聞』(短歌新聞社 1958.6.10) 通巻56号 p.3


08778
ユトリロの 街歩み来し 如くして 霧にしめれる シヨールを畳む
ユトリロノ マチアユミコシ ゴトクシテ キリニシメレル シヨールヲタタム

『短歌新聞』(短歌新聞社 1958.6.10) 通巻56号 p.3


08779
その場限りの 言葉と知りつつ 囚はるる 疎かにわが 応へしことも
ソノバカギリノ コトバトシリツツ トラハルル オロソカニワガ コタヘシコトモ

『短歌新聞』(短歌新聞社 1958.6.10) 通巻56号 p.3


08780
バルカロールに めざめむ朝を 持つ如く 岬の見ゆる 椅子に睡りつ
バルカロールニ メザメムアサヲ マツゴトク ミサキノミユル イスニネムリツ

『短歌新聞』(短歌新聞社 1958.6.10) 通巻56号 p.3


08781
はばたきて おり来しは壁の モザイクの 鳩なりしかば 愕きて醒む
ハバタキテ オリコシハカベノ モザイクノ ハトナリシカバ オドロキテサム

『短歌新聞』(短歌新聞社 1958.6.10) 通巻56号 p.3


08782
たまひたる 遺品の壷の 白磁冴え 花なきときに 満ちてしづけし
タマヒタル イヒンノツボノ ハクジサエ ハナナキトキニ ミチテシヅケシ

『短歌新聞』(短歌新聞社 1958.6.10) 通巻56号 p.3


08783
よりどなき 午後となりつつ かたはらの 棚は帳簿の 重みに撓ふ
ヨリドナキ ゴゴトナリツツ カタハラノ タナノチョウボノ オモミニタワフ

『短歌新聞』(短歌新聞社 1958.6.10) 通巻56号 p.3


08784
雨降れば あぶるる彼の 来る待ちて 力仕事を われら溜めおく
アメフレバ アブルルカレノ クルマチテ チカラシゴトヲ ワレラタメオク

『短歌新聞』(短歌新聞社 1958.6.10) 通巻56号 p.3


08785
報復の ねがひもうすれ ゆく日々よ 書庫閉ぢて石の 廊下を渡る
ホウフクノ ネガヒモウスレ ユクヒビヨ ショコトヂテイシノ ロウカヲワタル

『短歌新聞』(短歌新聞社 1958.6.10) 通巻56号 p.3


08786
雨あとの 靄晴れゆけば 対岸に 廃墟のごとき 街うかび出づ
アメアトノ モヤハレユケバ タイガンニ ハイキョノゴトキ マチウカビイヅ

『短歌新聞』(短歌新聞社 1958.6.10) 通巻56号 p.3


08787
一角より くづしゆく外 なき仕事 画家に会ふべく 足袋をはき替ふ
イッカクヨリ クヅシユクホカ ナキシゴト ガカニアフベク タビヲハキカフ

『短歌新聞』(短歌新聞社 1958.6.10) 通巻56号 p.3


08788
意識して かたみに避くる 語彙をもち バスゆるる時 気弱く笑ふ
イシキシテ カタミニサクル ゴイヲモチ バスユルルトキ キヨワクワラフ

『短歌新聞』(短歌新聞社 1958.6.10) 通巻56号 p.3


08789
方形に 裁ちし小布を つぎつぎに つなぎつつ繻子の 緋いろ紛れず
ホウケイニ タチシコギレヲ ツギツギニ ツナギツツシュスノ ヒイロマギレズ

『短歌新聞』(短歌新聞社 1958.6.10) 通巻56号 p.3


08790
風落ちて 夜霧は街を 蔽はむに あなうら冷えて ながく醒めゐる
カゼオチテ ヨギリハマチヲ オオハムニ アナウラヒエテ ナガクサメヰル

『短歌新聞』(短歌新聞社 1958.6.10) 通巻56号 p.3


08791
水甕に 水をみたして 夜々眠る 母の生き方にも われは及ばぬ
ミズガメニ ミズヲミタシテ ヨヨネムル ハハノイキカタニモ ワレハオヨバヌ

『短歌新聞』(短歌新聞社 1958.6.10) 通巻56号 p.3


08792
筋書きの やうには運ばぬ 心かと ながく跼めり ベゴニアの芽に
スジガキノ ヤウニハハコバヌ ココロカト ナガクカガメリ ベゴニアノメニ

『短歌新聞』(短歌新聞社 1958.6.10) 通巻56号 p.3


08793
夢にして うとめる笑顔 写楽斎の 版画のなかの 大夫なりしや
ユメニシテ ウトメルエガオ シャラクサイノ ハンガノナカノ ダユウナリシヤ

『短歌新聞』(短歌新聞社 1958.6.10) 通巻56号 p.3


08794
闇と闇を つなぎてひらく 門ありき 寂しみて夜の 大橋渡る
ヤミトヤミヲ ツナギテヒラク モンアリキ サビシミテヨノ オオハシワタル

『短歌新聞』(短歌新聞社 1958.6.10) 通巻56号 p.3