さいたま市立大宮図書館/おおみやデジタル文学館 ―歌人・大西民子―

全短歌(10824首)

全短歌(歌集等)

短歌現代

 
夕映えの        村の名と        街灯の         くらがりに       
夜の更けて       留守の日は       奈良の秋        近々と         
五分後に        サンダルは       目の前に        寝入りたる       
病みあとの       信号の         遠くゆく        干し草の        
芝焼くを        光れるは        前の世を        信ずるは        
羽根の紋        木下闇を        消しゴムが       月出でて        
ころがりて       
 
 
 

08589
夕映えの 白く残れる 橋の上 ブルドーザーが 渡りてゆけり
ユウバエノ シロクノコレル ハシノウエ ブルドーザーガ ワタリテユケリ

『短歌現代』(短歌新聞社 1985.1) 第9巻1号 p.12


08590
村の名と 今ごろ知りて 何にならむ 青くともれり 駅の時計は
ムラノナト イマゴロシリテ ナニニナラム アオクトモレリ エキノトケイハ

『短歌現代』(短歌新聞社 1985.1) 第9巻1号 p.12


08591
街灯の とぎれし闇に 踏み入れて 砂利の見えくる までに間のあり
ガイトウノ トギレシヤミニ フミイレテ ジャリノミエクル マデニマノアリ

『短歌現代』(短歌新聞社 1985.1) 第9巻1号 p.12


08592
くらがりに 馴れて歩めば 近づきて コンクリートの 電柱が立つ
クラガリニ ナレテアユメバ チカヅキテ コンクリートノ デンチュウガタツ

『短歌現代』(短歌新聞社 1985.1) 第9巻1号 p.12


08593
夜の更けて 釘打つ音は どの家か われもしきりに 何か打ちたし
ヨノフケテ クギウツオトハ ドノイエカ ワレモシキリニ ナニカウチタシ

『短歌現代』(短歌新聞社 1985.1) 第9巻1号 p.13


08594
留守の日は 仏の棲家と なる家ぞ 使はぬ部屋にも 菊を活けおく
ルスノヒハ ホトケノスミカト ナルイエゾ ツカハヌヘヤニモ キクヲイケオク

『短歌現代』(短歌新聞社 1985.1) 第9巻1号 p.13


08595
奈良の秋 更科の秋と しのびつつ 病めば何をか つぐなふ如し
ナラノアキ サラシナノアキト シノビツツ ヤメバナニヲカ ツグナフゴトシ

『短歌現代』(短歌新聞社 1985.1) 第9巻1号 p.13


08596
近々と 鳥威しの音 聞こえをり 本を探して 二階にあれば
チカヂカト トリオドシノオト キコエヲリ ホンヲサガシテ ニカイニアレバ

『短歌現代』(短歌新聞社 1985.1) 第9巻1号 p.13


08597
五分後に 炊飯器の蒸気を 抜く習ひ 翅音は石蕗の 花にあつまる
ゴフンゴニ ジャーノジョウキヲ ヌクナラヒ ハオトハツハノ ハナニアツマル

『短歌現代』(短歌新聞社 1985.1) 第9巻1号 p.13


08598
サンダルは 昨日の雨に 湿りゐて 体温を持つと いふさびしさよ
サンダルハ キノウノアメニ シメリヰテ タイオンヲモツト イフサビサシヨ

『短歌現代』(短歌新聞社 1985.1) 第9巻1号 p.13


08599
目の前に 何かよからぬ 細胞の かたまりの如し 黄の鶏頭は
メノマエニ ナニカヨカラヌ サイボウノ カタマリノゴトシ キノケイトウハ

『短歌現代』(短歌新聞社 1985.1) 第9巻1号 p.13


08600
寝入りたる みどり児をとつぷり 埋めたる 乳母車押して 帰りゆきたり
ネイリタル ミドリコヲトツプリト ウズメタル ウバグルマオシテ カエリユキタリ

『短歌現代』(短歌新聞社 1985.1) 第9巻1号 p.14


08601
病みあとの しづけさにゐて また思ふ 好事も無きに しかずと言へり
ヤミアトノ シヅケサニヰテ マタオモフ コウジモナキニ シカズトイヘリ

『短歌現代』(短歌新聞社 1985.1) 第9巻1号 p.14


08602
信号の みな赤となる 町の角 瀬戸ものの店は いつしかあらず
シンゴウノ ミナアカトナル マチノカド セトモノノミセハ イツシカアラズ

『短歌現代』(短歌新聞社 1985.1) 第9巻1号 p.14


08603
遠くゆく 旅にかあらむ 母と子の となりあひゐて あやとりをなす
トオクユク タビニカアラム ハハトコノ トナリアヒヰテ アヤトリヲナス

『短歌現代』(短歌新聞社 1985.1) 第9巻1号 p.14


08604
干し草の 匂ひ嗅ぎつつ 乗り換へて 一両となる ローカル線は
ホシグサノ ニオヒカギツツ ノリカヘテ イチリョウトナル ローカルセンハ

『短歌現代』(短歌新聞社 1985.1) 第9巻1号 p.14


08605
芝焼くを 立ちて見をれば 火の範囲 ふちどりながら ひろがりてゆく
シバヤクヲ タチテミヲレバ ヒノハンイ フチドリナガラ ヒロガリテユク

『短歌現代』(短歌新聞社 1985.1) 第9巻1号 p.14


08606
光れるは パラボラアンテナと 気づくまで 真横より見て 枯れ野を行けり
ヒカレルハ パラボラアンテナト キヅクマデ マヨコヨリミテ カレノヲユケリ

『短歌現代』(短歌新聞社 1985.1) 第9巻1号 p.14


08607
前の世を ふと思はせて 城門の 鋲の羅列に 冬日あたれる
サキノヨヲ フトオモハセテ ジョウモンノ ビョウノラセツニ フユヒアタレル

『短歌現代』(短歌新聞社 1985.1) 第9巻1号 p.15


08608
信ずるは なににてもよく 足型の 大き一つを 石に刻めり
シンズルハ ナニニテモヨク アシガタノ オオキヒトツヲ イシニキザメリ

『短歌現代』(短歌新聞社 1985.1) 第9巻1号 p.15


08609
羽根の紋 あざやかに見え ゐたりしが 飛び立ちゆけり 黄の蝶として
ハネノモン アザヤカニミエ ヰタリシガ トビタチユケリ キノチョウトシテ

『短歌現代』(短歌新聞社 1985.1) 第9巻1号 p.15


08610
木下闇を くぐり抜け来し 顔一つ ひきしめてまた 歩まむとする
コノシタヤミヲ クグリヌケコシ カオヒトツ ヒキシメテマタ アユマムトスル

『短歌現代』(短歌新聞社 1985.1) 第9巻1号 p.15


08611
消しゴムが 目の前にあり 火祭りを 見て来てつねの われに戻れば
ケシゴムガ メノマエニアリ ヒマツリヲ ミテキテツネノ ワレニモドレバ

『短歌現代』(短歌新聞社 1985.1) 第9巻1号 p.15


08612
月出でて いよいよ暗き わが庭に 八つ手の花の 光りはじめぬ
ツキイデテ イヨイヨクラキ ワガニワニ ヤツデノハナノ ヒカリハジメヌ

『短歌現代』(短歌新聞社 1985.1) 第9巻1号 p.15


08613
ころがりて 離れてしまひし 巻き貝の 二粒をそのまま 卓上に置く
コロガリテ ハナレテシマヒシ マキガイノ フタツブヲソノママ タクジョウニオク

『短歌現代』(短歌新聞社 1985.1) 第9巻1号 p.15