さいたま市立大宮図書館/おおみやデジタル文学館 ―歌人・大西民子―

全短歌(10824首)

全短歌(歌集等)

短歌現代

 
うす雪の        雪のあとの       登庁の         一度にて        
B4の         狐ほどに        やめてゆく       二十歳にて       
追ひ詰められし     いとまいとまに     目つぶしを       ユリア樹脂の      
ゆく末に        流氷の         道々に         うたかたの       
くらがりに       生活の         しろじろと       みひらかば       
生きをれば       縛られつつ       余すなく        野の空の        
大仰な         三枚の         定期券など       有楽町へ        
立ちどまり       青銅の         あやとりを       湯のたぎる       
沿線に         
 
 
 

08546
うす雪の 白くこごれる しづけさに あと幾朝と 思ひつつ出づ
ウスユキノ シロクコゴレル シヅケサニ アトイクアサト オモヒツツイヅ

『短歌現代』(短歌新聞社 1982.6) 第6巻6号 p.28


08547
雪のあとの 木の間しづもり 身の軽き ものの足跡 かそかに曳けり
ユキノアトノ コノマシヅモリ ミノカルキ モノノアシアト カソカニヒケリ

『短歌現代』(短歌新聞社 1982.6) 第6巻6号 p.28


08548
登庁の かはりなければ 三月後に やめゆくわれと 人に知られず
トウチョウノ カハリナケレバ ミツキゴニ ヤメユクワレト ヒトニシラレズ

『短歌現代』(短歌新聞社 1982.6) 第6巻6号 p.28


08549
一度にて 点きしライター 思はざる 大きほのほを 目の前に上ぐ
イチドニテ ツキシライター オモハザル オオキホノホヲ メノマエニアグ

『短歌現代』(短歌新聞社 1982.6) 第6巻6号 p.29


08550
B4の 紙片一枚 回付され 組織をまるごと ゆさぶる日あり
ビーヨンノ シヘンイチマイ カイフサレ ソシキヲマルゴト ユサブルヒアリ

『短歌現代』(短歌新聞社 1982.6) 第6巻6号 p.29


08551
狐ほどに 痩せたる顔を 持ち歩く 夢ながながと 見て夜の明けぬ
キツネホドノ ヤセタルカオヲ モチアルク ユメナガナガト ミテヨノアケヌ

『短歌現代』(短歌新聞社 1982.6) 第6巻6号 p.29


08552
やめてゆく 職場にあれば 日毎日毎 遠景となる 書類の束も
ヤメテユク ショクバニアレバ ヒゴトヒゴト エンケイトナル ショルイノタバモ

『短歌現代』(短歌新聞社 1982.6) 第6巻6号 p.29


08553
二十歳にて 教員たりき こだはらぬ 性にからくも 働きて来し
ハタチニテ キョウインタリキ コダハラヌ ショウニカラクモ ハタラキテコシ

『短歌現代』(短歌新聞社 1982.6) 第6巻6号 p.29


08554
追ひ詰められし 思ひにをれば 目の前の パンジーの花も 両眼を持つ
オヒツメラレシ オモヒニヲレバ メノマエノ パンジーノハナモ リョウガンヲモツ

『短歌現代』(短歌新聞社 1982.6) 第6巻6号 p.29


08555
いとまいとまに 物縫ふならひ いつとなく 失せて買ひおく 更紗も古りぬ
イトマイトマニ モノヌフナラヒ イツトナク ウセテカヒオク サラサモフリヌ

『短歌現代』(短歌新聞社 1982.6) 第6巻6号 p.30


08556
目つぶしを 投げて鬼より のがれしが 鬼の顔さへ われは見ざりき
メツブシヲ ナゲテオニヨリ ノガレシガ オニノカオサヘ ワレハミザリキ

『短歌現代』(短歌新聞社 1982.6) 第6巻6号 p.30


08557
ユリア樹脂の 羊歯あをあをと 繁らせて 装ほふことの 限り見えくる
ユリカジュシノ シダアヲアヲト シゲラセテ ヨソホフコトノ カギリミエクル

『短歌現代』(短歌新聞社 1982.6) 第6巻6号 p.30


08558
ゆく末に 虹を見ぬとも 決まりゐず 光るコインの まろび出で来る
ユクスエニ ニジヲミヌトモ キマリヰズ ヒカルコインノ マロビイデクル

『短歌現代』(短歌新聞社 1982.6) 第6巻6号 p.30


08559
流氷の 寄せ来む春と 言ふ聞けば わが待つ春に かさねて思ふ
リュウヒョウノ ヨセコムハルト イフキケバ ワガマツハルニ カサネテオモフ

『短歌現代』(短歌新聞社 1982.6) 第6巻6号 p.30


08560
道々に 思ひつづけし はかなごと 目の前に来て 木の立ちあがる
ミチミチニ オモヒツヅケシ ハカナゴト メノマエニキテ キノタチアガル

『短歌現代』(短歌新聞社 1982.6) 第6巻6号 p.30


08561
うたかたの 職場におのれ 尽くし来ぬ 指のあはひを 風の抜けゆく
ウタカタノ ショクバニオノレ ツクシコヌ ユビノアハヒヲ カゼノヌケユク

『短歌現代』(短歌新聞社 1982.6) 第6巻6号 p.31


08562
くらがりに 時計を打つは たれの手か 二階の部屋と 気づきて寒し
クラガリニ トケイヲウツハ タレノテカ ニカイノヘヤト キヅキテサムシ

『短歌現代』(短歌新聞社 1982.6) 第6巻6号 p.31


08563
生活の 資を得るのみに 終らむと 思ひ見ざりき 日々に気負ひて
セイカツノ シヲエルノミニ オワラムト オモヒミザリキ ヒビニキオヒテ

『短歌現代』(短歌新聞社 1982.6) 第6巻6号 p.31


08564
しろじろと どこからも見ゆる 明るさに 喪の家の灯の 夜すがら点る
シロジロト ドコカラモミユル アカルサニ モノイエノヒノ ヨスガラトモル

『短歌現代』(短歌新聞社 1982.6) 第6巻6号 p.31


08565
みひらかば 大きなる目を 逝きまして 左合はせの 白衣もやさし
ミヒラカバ オオキナルメヲ ユキマシテ ヒダリアハセノ ハクイモヤサシ

『短歌現代』(短歌新聞社 1982.6) 第6巻6号 p.31


08566
生きをれば 嘆くことのみ あるものを いたく小さし 柩の顔は
イキヲレバ ナゲクコトノミ アルモノヲ イタクチイサシ ヒツギノカオハ

『短歌現代』(短歌新聞社 1982.6) 第6巻6号 p.31


08567
縛られつつ 護られてもゐし われならむ 公務員とふ 肩書失せぬ
シバラレツツ マモラレテモヰシ ワレナラム コウムイントフ カタガキウセヌ

『短歌現代』(短歌新聞社 1982.6) 第6巻6号 p.32


08568
余すなく 咲きたる桜 仰ぎゐて かかるゆとりも われに久しき
アマスナク サキタルサクラ アオギヰテ カカルユトリモ ワレニヒサシキ

『短歌現代』(短歌新聞社 1982.6) 第6巻6号 p.32


08569
野の空の いづこに落ち合ふ 蝶ならむ ふはふはとして とめどなく舞ふ
ノノソラノ イヅコニオチアフ チョウナラム フハフハトシテ トメドナクマフ

『短歌現代』(短歌新聞社 1982.6) 第6巻6号 p.32


08570
大仰な しあはせなどは 願はねど すこやかにしばし あらしめ給へ
オオギョウナ シアハセナドハ ネガハネド スコヤカニシバシ アラシメタマヘ

『短歌現代』(短歌新聞社 1982.6) 第6巻6号 p.32


08571
三枚の ガラスを透かす 角度にて 花びらの如し 黄の洋傘は
サンマイノ ガラスヲスカス カクドニテ ハナビラノゴトシ キノヨウガサハ

『短歌現代』(短歌新聞社 1982.6) 第6巻6号 p.32


08572
定期券など 忘るることの なくいすむ たつきのあるを 知らで過ぎ来し
テイキケンナド ワスルルコトノ ナクテスム タツキノアルヲ シラデスギコシ

『短歌現代』(短歌新聞社 1982.6) 第6巻6号 p.32


08573
有楽町へ 着くまで長し 独りごとを 言ひやまぬ人と 隣りあはせて
ユウラクチョウヘ ツクマデナガシ ヒトリゴトヲ イヒヤマヌヒトト トナリアハセテ

『短歌現代』(短歌新聞社 1982.6) 第6巻6号 p.33


08574
立ちどまり 捨てし煙草を 踏み消して 去りゆくさまの 映画めきたる
タチドマリ ステシタバコヲ フミケシテ サリユクサマノ エイガメキタル

『短歌現代』(短歌新聞社 1982.6) 第6巻6号 p.33


08575
青銅の 像を見をれば 胸板の つめたかりにし 夜を忘れず
セイドウノ ゾウヲミヲレバ ムナイタノ ツメタカリニシ ヨルヲワスレズ

『短歌現代』(短歌新聞社 1982.6) 第6巻6号 p.33


08576
あやとりを してゐし夢に たれならむ もうひとりゐし 幼な子の影
アヤトリヲ シテヰシユメニ タレナラム モウヒトリヰシ オサナゴノカゲ

『短歌現代』(短歌新聞社 1982.6) 第6巻6号 p.33


08577
湯のたぎる 待ちて立ちゐて いつよりか マッチを置かぬ 厨と気づく
ユノタギル マチテタチヰテ イツヨリカ マッチヲオカヌ クリヤトキヅク

『短歌現代』(短歌新聞社 1982.6) 第6巻6号 p.33


08578
沿線に 春闌けにけむ 勤めやめて 桐の花など 見られずなりぬ
エンセンニ ハルタケニケム ツトメヤメテ キリノハナナド ミラレズナリヌ

『短歌現代』(短歌新聞社 1982.6) 第6巻6号 p.33