さいたま市立大宮図書館/おおみやデジタル文学館 ―歌人・大西民子―

全短歌(10824首)

全短歌(歌集等)

短歌現代

 
たどきなく       噴水を         位置を替へ       どのやうな       
さまざまの       覆ひがたき       憎むべき        芝生より        
ドラマとて       突き落とす       箱舟に         幾たびも        
鍵を見に        なまじろき       帰り来て        妹の          
迎へ火の        不用意に        待ち針を        女名の         
一つづつ        噴水の         玉すだれ        帰り来む        
あけぐれに       
 
 
 

08511
たどきなく 雨の晴れまを 出でて来て 雌雄あるとふ 銀杏を仰ぐ
タドキナク アメノハレマヲ イデテキテ シユウアルトフ イチョウヲアオグ

『短歌現代』(短歌新聞社 1980.9) 第4巻9号 p.12


08512
噴水を 身すがら浴びて 立つ裸婦の 像見てあれば まだらに乾く
フンスイヲ ミスガラアビテ タツラフノ ゾウミテアレバ マダラニカワク

『短歌現代』(短歌新聞社 1980.9) 第4巻9号 p.12


08513
位置を替へ 鳴きなほしつつ 滅びゆく かなかなは今 欅の梢
イチヲカヘ ナキナホシツツ ホロビユク カナカナハイマ ケヤキノコズエ

『短歌現代』(短歌新聞社 1980.9) 第4巻9号 p.12


08514
どのやうな われと思ひて 幼な子は 小鳥の墓の 前へいざなふ
ドノヤウナ ワレトオモヒテ オサナゴハ コトリノハカノ マエヘイザナフ

『短歌現代』(短歌新聞社 1980.9) 第4巻9号 p.12


08515
さまざまの 表皮撫で来て いつとなく 摩滅はげしき てのひらならむ
サマザマノ ヒョウヒナデキテ イツトナク マメツハゲシキ テノヒラナラム

『短歌現代』(短歌新聞社 1980.9) 第4巻9号 p.13


08516
覆ひがたき 夏の荒びと 思ふまで 花々はみな 葉を垂れて立つ
オオヒガタキ ナツノアレビト オモフマデ ハナバナハミナ ハヲタレテタツ

『短歌現代』(短歌新聞社 1980.9) 第4巻9号 p.13


08517
憎むべき ものあるごとし 梔子の 若葉むしばむ 青虫よりも
ニクムベキ モノアルゴトシ クチナシノ ワカバムシバム アオムシヨリモ

『短歌現代』(短歌新聞社 1980.9) 第4巻9号 p.13


08518
芝生より 舞ひ出でし蛾は ひとひらの 落ち葉となりて 吹かれてゆけり
シバフヨリ マヒイデシガハ ヒトヒラノ オチバトナリテ フカレテユケリ

『短歌現代』(短歌新聞社 1980.9) 第4巻9号 p.13


08519
ドラマとて 模倣世界に すぎざらむ 男の抱ける みどり児が泣く
ドラマトテ モホウセカイニ スギザラム オトコノダケル ミドリゴガナク

『短歌現代』(短歌新聞社 1980.9) 第4巻9号 p.13


08520
突き落とす 衝動に人も 堪へゐしか 怒濤見下ろし ゐしかのときに
ツキオトス ショウドウニヒトモ タヘヰシカ ドトウミオロシ ヰシカノトキニ

『短歌現代』(短歌新聞社 1980.9) 第4巻9号 p.13


08521
箱舟に 乗り得ざりしは かく集ひ さしさはりなき ことを言ひあふ
ハコブネニ ノリエザリシハ カクツドヒ サシサハリナキ コトヲイヒアフ

『短歌現代』(短歌新聞社 1980.9) 第4巻9号 p.13


08522
幾たびも 電話に呼ばれ つゆの世の われと忘れて はなやぐ日あり
イクタビモ デンワニヨバレ ツユノヨノ ワレトワスレテ ハナヤグヒアリ

『短歌現代』(短歌新聞社 1980.9) 第4巻9号 p.14


08523
鍵を見に 戻らむとする うす暗がり 橋掛来る 鬼に会はずや
カギヲミニ モドラムトスル ウスクラガリ ハシガカリクル オニニアハズヤ

『短歌現代』(短歌新聞社 1980.9) 第4巻9号 p.14


08524
なまじろき 鱗をかさね ゐたるのみ 闇のなかなる あぢさゐの花
ナマジロキ ウロコヲカサネ ヰタルノミ ヤミノナカナル アヂサヰノハナ

『短歌現代』(短歌新聞社 1980.9) 第4巻9号 p.14


08525
帰り来て はづす指輪の ころがれば ころがる向きを 占はむとす
カエリキテ ハヅスユビワノ コロガレバ コロガルムキヲ ウラナハムトス

『短歌現代』(短歌新聞社 1980.9) 第4巻9号 p.14


08526
妹の 逝きて八年 坐らなく なりたる雛は 立てかけて置く
イモウトノ ユキテハチネン スワラナク ナリタルヒナハ タテカケテオク

『短歌現代』(短歌新聞社 1980.9) 第4巻9号 p.14


08527
迎へ火の 炎のほかは 見えずなり くぐまりゐたり 夜の道の上
ムカヘビノ ホノオノホカハ ミエズナリ クグマリヰタリ ヨノミチノウエ

『短歌現代』(短歌新聞社 1980.9) 第4巻9号 p.14


08528
不用意に 言ひたるならむ 本音ならむ のがれ得ぬまま 一日をゐしか
フヨウイニ イヒタルナラム ホンネナラム ノガレエヌママ ヒトヒヲヰシカ

『短歌現代』(短歌新聞社 1980.9) 第4巻9号 p.14


08529
待ち針を 刺し替へをれば 指先に かすかに影の ゆき戻りする
マチバリヲ サシカヘヲレバ ユビサキニ カスカニカゲノ ユキモドリスル

『短歌現代』(短歌新聞社 1980.9) 第4巻9号 p.15


08530
女名の 表札を掲げ おくことの ふとなまなまし 二十年経て
ヲンナナノ ヒョウサツヲカカゲ オクコトノ フトナマナマシ ニジュウネンヘテ

『短歌現代』(短歌新聞社 1980.9) 第4巻9号 p.15


08531
一つづつ 小石を置きて 置きながら 離りゆきたる 人かと思ふ
ヒトツヅツ コイシヲオキテ オキナガラ サガリユキタル ヒトカトオモフ

『短歌現代』(短歌新聞社 1980.9) 第4巻9号 p.15


08532
噴水の ほとりは人の 影あらず 土にかすかに カルキの匂ふ
フンスイノ ホトリハヒトノ カゲアラズ ツチニカスカニ カルキノニオフ

『短歌現代』(短歌新聞社 1980.9) 第4巻9号 p.15


08533
玉すだれ 咲くを言ひつつ 見送りし うしろ姿の 老いていませり
タマスダレ サクヲイヒツツ ミオクリシ ウシロスガタノ オイテイマセリ

『短歌現代』(短歌新聞社 1980.9) 第4巻9号 p.15


08534
帰り来む たれかゐさうな この夕べ われにひとすぢ 修羅走りたり
カエリコム タレカヰサウナ コノユウベ ワレニヒトスヂ シュラハシリタリ

『短歌現代』(短歌新聞社 1980.9) 第4巻9号 p.15


08535
あけぐれに 醒めゐて思ふ 水源は 人の住まはぬ さびしきところ
アケグレニ サメヰテオモフ スイゲンハ ヒトノスマハヌ サビシキトコロ

『短歌現代』(短歌新聞社 1980.9) 第4巻9号 p.15