さいたま市立大宮図書館/おおみやデジタル文学館 ―歌人・大西民子―

全短歌(10824首)

全短歌(歌集等)

短歌現代

 
尾の太き        人込みを        店先の         もつと身を       
樅の木を        バスを待つ       崖下に         妹の          
散りがたの       縫ひものを       彷徨ひて        若き日の        
かの里の        留守の間に       庭深く         きれぎれの       
棘を持つ        小さくて        借り得たる       仏像を         
帆ばかりの       胴体を         謎一つ         われの持つ       
夕刊に         大きさの        もの縫ひて       人は人と        
四つ割りに       吊り革の        
 
 
 

08471
尾の太き 石の狐を 見て過ぎて きつかけを作り 易きこころよ
オノフトキ イシノキツネヲ ミテスギテ キツカケヲツクリ ヤスキココロヨ

『短歌現代』(短歌新聞社 1977.1) 第1巻4号 p.102


08472
人込みを かき分けてゐて 突き出せる われの左の 肩を意識す
ヒトゴミヲ カキワケテヰテ ツキダセル ワレノヒダリノ カタヲイシキス

『短歌現代』(短歌新聞社 1977.1) 第1巻4号 p.102


08473
店先の ワゴンの上は 脱ぎ捨てて のがれし人らの 靴の如しも
ミセサキノ ワゴンノウエハ ヌギステテ ノガレシヒトラノ クツノゴトシモ

『短歌現代』(短歌新聞社 1977.1) 第1巻4号 p.102


08474
もつと身を 捩ぢて避け得し ことありや 日ぐれは殊に 影深き街
モツトミヲ ヨヂテサケエシ コトアリヤ ヒグレハコトニ カゲフカキマチ

『短歌現代』(短歌新聞社 1977.1) 第1巻4号 p.103


08475
樅の木を 照らし出しては 消して去る ヘッドライトに 時を刻まる
モミノキヲ テラシダシテハ ケシテサル ヘッドライトニ トキヲキザマル

『短歌現代』(短歌新聞社 1977.1) 第1巻4号 p.103


08476
バスを待つ もう一人来て 街灯の 光のなかに 大き荷を置く
バスヲマツ モウヒトリキテ ガイトウノ ヒカリノナカニ オオキニヲオク

『短歌現代』(短歌新聞社 1977.1) 第1巻4号 p.103


08477
崖下に かかりて音の かしましき 電車にゐたり 何か紛れて
ガケシタニ カカリテオトノ カシマシキ デンシャニヰタリ ナニカマギレテ

『短歌現代』(短歌新聞社 1977.1) 第1巻4号 p.103


08478
妹の 在りしころより ふくろふの 鳴かなくなりて 幾年過ぎむ
イモウトノ アリシコロヨリ フクロフノ ナカナクナリテ イクトシスギム

『短歌現代』(短歌新聞社 1977.1) 第1巻4号 p.103


08479
散りがたの エリカの鉢を 隣室へ 移ししのみに よく眠りたり
チリガタノ エリカノハチヲ リンシツヘ ウツシシノミニ ヨクネムリタリ

『短歌現代』(短歌新聞社 1977.1) 第1巻4号 p.103


08480
縫ひものを なすほかあらぬ 一日と 決むれば優し 精出でてをり
ヌヒモノヲ ナスホカアラヌ イチニチト キムレバヤサシ セイイデテヲリ

『短歌現代』(短歌新聞社 1977.1) 第1巻4号 p.103


08481
彷徨ひて 盲ひのゆゑに ときのまの 世に会ひ得たる 二人なりしか
ハイカヒテ メシヒノユヱニ トキノマノ ヨニアヒエタル フタリナリシカ

『短歌現代』(短歌新聞社 1977.1) 第1巻4号 p.103


08482
若き日の われの不孝を 知りゐたる 最後の一人 妹も亡し
ワカキヒノ ワレノフコウヲ シリヰタル サイゴノヒトリ イモウトモナシ

『短歌現代』(短歌新聞社 1977.1) 第1巻4号 p.103


08483
かの里の ならはしとして はだしにて 墓より帰りき 世継ぎのわれは
カノサトノ ナラハシトシテ ハダシニテ ハカヨリカエリキ ヨツギノワレハ

『短歌現代』(短歌新聞社 1977.1) 第1巻4号 p.104


08484
留守の間に なりと来たりて 漕ぎゆけよ 在りし日のままに 揺り椅子を置く
ルスノマニ ナリトキタリテ コギユケヨ アリシヒノママニ ユスリイスヲオク

『短歌現代』(短歌新聞社 1977.1) 第1巻4号 p.104


08485
庭深く 焼却炉据ゑて ゐる家の 木下闇のみ 日々見て通る
ニワフカク ショウキャクロスヱテ ヰルイエノ キノシタヤミノミ ヒビミテトオル

『短歌現代』(短歌新聞社 1977.1) 第1巻4号 p.104


08486
きれぎれの 記憶のごとく 少年の 声に九官 鳥は物言ふ
キレギレノ キオクノゴトク ショウネンノ コエニキュウカン チョウハモノイフ

『短歌現代』(短歌新聞社 1977.1) 第1巻4号 p.104


08487
棘を持つ 葉がいきり立ち 肉眼に 何も見えない 絵の前にゐつ
トゲヲモツ ハガイキリタチ ニクガンニ ナニモミエナイ エノマエニヰツ

『短歌現代』(短歌新聞社 1977.1) 第1巻4号 p.104


08488
小さくて 虫の顔なす わが顔を 見いだす記念 写真のなかに
チイサクテ ムシノカオナス ワガカオヲ ミイダスキネン シャシンノナカニ

『短歌現代』(短歌新聞社 1977.1) 第1巻4号 p.104


08489
借り得たる 男物の傘に 全身を 匿す魔力を 持たせて帰る
カリエタル オトコモノノカサニ ゼンシンヲ カクスマリョクヲ モタセテカエル

『短歌現代』(短歌新聞社 1977.1) 第1巻4号 p.104


08490
仏像を 仰ぎてをれば 欲望の 数だけの手を 持つかと思ふ
ブツゾウヲ アオギテヲレバ ヨクボウノ カズダケノテヲ モツカトオモフ

『短歌現代』(短歌新聞社 1977.1) 第1巻4号 p.104


08491
帆ばかりの 見ゆるヨットと なりながら 降るやうにをりをり 掛け声届く
ホバカリノ ミユルヨットト ナリナガラ フルヤウニヲリヲリ カケゴエトドク

『短歌現代』(短歌新聞社 1977.1) 第1巻4号 p.104


08492
胴体を タオルに抑へ 栓を抜く かかるときめきを 久しく忘る
ドウタイヲ タオルニオサヘ センヲヌク カカルトキメキヲ ヒサシクワスル

『短歌現代』(短歌新聞社 1977.1) 第1巻4号 p.105


08493
謎一つ 掛けたるに似む わが歌の 誤植を見ても あわてずなりぬ
ナゾヒトツ カケタルニニム ワガウタノ ゴショクヲミテモ アワテズナリヌ

『短歌現代』(短歌新聞社 1977.1) 第1巻4号 p.105


08494
われの持つ 順応性に すぎざらむ 人を励ます ことも言ひつつ
ワレノモツ ジュンノウセイニ スギザラム ヒトヲハゲマス コトモイヒツツ

『短歌現代』(短歌新聞社 1977.1) 第1巻4号 p.105


08495
夕刊に 知るころ夜は くだちゐて 茅の輪くぐりに 今年も行かず
ユウカンニ シルコロヨルハ クダチヰテ チノワクグリニ コトシモユカズ

『短歌現代』(短歌新聞社 1977.1) 第1巻4号 p.105


08496
大きさの 異なる石を 置くやうに 月の仕事の 予定入れゆく
オオキサノ コトナルイシヲ オクヤウニ ツキノシゴトノ ヨテイイレユク

『短歌現代』(短歌新聞社 1977.1) 第1巻4号 p.105


08497
もの縫ひて 一日ありしが 何者に 踏み込まれたる 部屋かと思ふ
モノヌヒテ ヒトヒアリシガ ナニモノニ フミコマレタル ヘヤカトオモフ

『短歌現代』(短歌新聞社 1977.1) 第1巻4号 p.105


08498
人は人と 突き放すまでに いくばくの 時間ありしや 雨降りてゐる
ヒトハヒトト ツキハナスマデニ イクバクノ ジカンアリシヤ アメフリテヰル

『短歌現代』(短歌新聞社 1977.1) 第1巻4号 p.105


08499
四つ割りに したるレモンの 切り口の みづみづと黄の 半月をなす
ヨツワリニ シタルレモンノ キリグチノ ミヅミヅトキノ ハンゲツヲナス

『短歌現代』(短歌新聞社 1977.1) 第1巻4号 p.105


08500
吊り革の 高さにかなふ 身丈持ち かくすこやかに わが両手あり
ツノカワノ タカサニカナフ ミタケモチ カクスコヤカニ ワガリョウテアリ

『短歌現代』(短歌新聞社 1977.1) 第1巻4号 p.105