さいたま市立大宮図書館/おおみやデジタル文学館 ―歌人・大西民子―

全短歌(10824首)

全短歌(歌集等)

短歌

 
水量の         いづくまで       芥とも         浅き瀬に        
わだかまる       呼ぶ声の        うづ高く        乱るるは        
倒れたる        会ひがたき       音の無き        はすかひに       
窓にさす        ガラス絵の       若き子を        トロイメライ      
戻り得ぬ        運ばれて        吸呑を         病室に         
霧のなかに       緊急を         病室の         忙しき         
獄中の         癒えて再び       みまかりて       薔薇あまた       
向う側は        十日ばかりを      あやつりの       トランプの       
 
 
 

08246
水量の つねに戻りて しづかなる 川のほとりの をもだかの花
スイリョウノ ツネニモドリテ シヅカナル カワノホトリノ ヲモダカノハナ

『短歌』(角川書店 1982.1) 第29巻1号 p.162


08247
いづくまで 行く魂か 流木の かたちに流れ つくことのあり
イヅクマデ ユクタマシイカ リュウボクノ カタチニナガレ ツクコトノアリ

『短歌』(角川書店 1982.1) 第29巻1号 p.162


08248
芥とも あらずときをり ひるがへり 流るるものの ふと反照す
アクタトモ アラズトキヲリ ヒルガヘリ ナガルルモノノ フトソリテラス

『短歌』(角川書店 1982.1) 第29巻1号 p.163


08249
浅き瀬に 何のひそむや かすかなる 水の濁りの 見えて音無し
アサキセニ ナンノヒソムヤ カスカナル ミズノニゴリノ ミエテオトナシ

『短歌』(角川書店 1982.1) 第29巻1号 p.163


08250
わだかまる 藻のかたまりに 波は来て 力を試す さまに引き摺る
ワダカマル モノカタマリニ ナミハキテ チカラヲタメス サマニヒキズル

『短歌』(角川書店 1982.1) 第29巻1号 p.163


08251
呼ぶ声の 水にひびかひ 草むらに もう一人ゐて 少年のこゑ
ヨブコエノ ミズニヒビカヒ クサムラニ モウヒトリヰテ ショウネンノコヱ

『短歌』(角川書店 1982.1) 第29巻1号 p.163


08252
うづ高く 積まれし落ち葉 おのづから 声吐くごとし どこか崩れて
ウヅタカク ツマレシオチバ オノヅカラ コエハクゴトシ ドコカクズレテ

『短歌』(角川書店 1982.1) 第29巻1号 p.163


08253
乱るるは われのこころと 思ふまで 収穫終へし キャベツの畑
ミダルルハ ワレノココロト オモフマデ シュウカクオヘシ キャベツノハタケ

『短歌』(角川書店 1982.1) 第29巻1号 p.163


08254
倒れたる 萩を起こして ゐる人に 振り向かれつつ 歩み来にけり
タオレタル ハギヲオコシテ ヰルヒトニ フリムカレツツ アユミキニケリ

『短歌』(角川書店 1982.1) 第29巻1号 p.164


08255
会ひがたき 人のみにして 石仏の 祠を示す 道しるべ立つ
アヒガタキ ヒトノミニシテ セキブツノ ホコラヲシメス ミチシルベタツ

『短歌』(角川書店 1982.1) 第29巻1号 p.164


08256
音の無き 時間ながれて 石蕗を 離れし蝶の いづくへ帰る
オトノナキ ジカンナガレテ ツワブキヲ ハナレシチョウノ イヅクヘカエル

『短歌』(角川書店 1982.1) 第29巻1号 p.164


08257
はすかひに 飛べるフリスビー 帰り来て 黄の鳥の如く 草生に沈む
ハスカヒニ トベルフリスビー カエリキテ キノトリノゴトク クサフニシズム

『短歌』(角川書店 1982.1) 第29巻1号 p.164


08258
窓にさす 陽をカーテンに やはらげて 何か吊りあふ 思ひにゐたり
マドニサス ヒヲカーテンニ ヤハラゲテ ナニカツリアフ オモヒニヰタリ

『短歌』(角川書店 1982.1) 第29巻1号 p.164


08259
ガラス絵の 薔薇の花びら すきとほる 幾重かさねて つひに紅薔薇
ガラスエノ バラノハナビラ スキトホル イクエカサネテ ツヒニベニバラ

『短歌』(角川書店 1982.1) 第29巻1号 p.164


08260
若き子を 死なしめし人の おもむろに 立ち直る日々を 共に働く
ワカキコヲ シナシメシヒトノ オモムロニ タチナオルヒビヲ トモニハタラク

『短歌』(角川書店 1982.1) 第29巻1号 p.165


08261
トロイメライ 久しく鳴らす こともなく オルゴール置く 二階の部屋に
トロイメライ ヒサシクナラス コトモナク オルゴールオク ニカイノヘヤニ

『短歌』(角川書店 1982.1) 第29巻1号 p.165


08262
戻り得ぬ 家かと思ふ 入院の 車のバック ミラーに見つつ
モドリエヌ イエカトオモフ ニュウインノ クルマノバック ミラーニミツツ

『短歌』(角川書店 1982.1) 第29巻1号 p.165


08263
運ばれて 来てなす朝餉 体温より やや温かし 流動食は
ハコバレテ キテナスアサゲ タイオンヨリ ヤヤアタタカシ リュウドウショクハ

『短歌』(角川書店 1982.1) 第29巻1号 p.165


08264
吸呑を 濯ぎてをれば 効用に 合はせて作られし もののかたちよ
スイノミヲ ススギテヲレバ コウヨウニ アハセテツクラレシ モノノカタチヨ

『短歌』(角川書店 1982.1) 第29巻1号 p.165


08265
病室に われのみとなる ときのあり 滝なして降る 暮れがたの雨
ビョウシツニ ワレノミトナル トキノアリ タキナシテフル クレガタノアメ

『短歌』(角川書店 1982.1) 第29巻1号 p.165


08266
霧のなかに 斜塔のごとき 見えながら 眠りゆきたり 点滴のあと
キリノナカニ シャトウノゴトキ ミエナガラ ネムリユキタリ テンテキノアト

『短歌』(角川書店 1982.1) 第29巻1号 p.166


08267
緊急を 告げて呼ばれし 医師ならむ 雑音のみの 放送終る
キンキュウヲ ツゲテヨバレシ イシナラム ザツオンノミノ ホウソウオワル

『短歌』(角川書店 1982.1) 第29巻1号 p.166


08268
病室の 片隅に置く ハイヒール 癒えて履く日の いつとも知れず
ビョウシツノ カタスミニオク ハイヒール イエテハクヒノ イツトモシレズ

『短歌』(角川書店 1982.1) 第29巻1号 p.166


08269
忙しき 職場なれども 光差す 場所のごとくに 病みをれば恋ふ
イソガシキ ショクバナレドモ ヒカリサス バショノゴトクニ ヤミヲレバコフ

『短歌』(角川書店 1982.1) 第29巻1号 p.166


08270
獄中の くらしも知らず たぐへつつ 嵐の夜半を ながく醒めゐる
ゴクチュウノ クラシモシラズ タグヘツツ アラシノヨワヲ ナガクサメヰル

『短歌』(角川書店 1982.1) 第29巻1号 p.166


08271
癒えて再び この病院を 出で得なば 身を粉にして なすことのあれ
イエテフタタビ コノビョウインヲ イデエナバ ミヲコニシテ ナスコトノアレ

『短歌』(角川書店 1982.1) 第29巻1号 p.166


08272
みまかりて 空きたる部屋に 病む人の 間なく入り来て 点滴を受く
ミマカリテ アキタルヘヤニ ヤムヒトノ マナクイリキテ テンテキヲウク

『短歌』(角川書店 1982.1) 第29巻1号 p.167


08273
薔薇あまた 挿せる病室 持ちて来し 小さき辞書は 開くことなし
バラアマタ サセルビョウシツ モチテコシ チイサキジショハ ヒラクコトナシ

『短歌』(角川書店 1982.1) 第29巻1号 p.167


08274
向う側は 小児病棟 子どもらの つむり幾つも 並ぶことあり
ムコウガワハ ショウニビョウトウ コドモラノ ツムリイクツモ ナラブコトアリ

『短歌』(角川書店 1982.1) 第29巻1号 p.167


08275
十日ばかりを 苦しみてわれの 去りゆくに 命のきはを 病む人多き
トオカバカリヲ クルシミテワレノ サリユクニ イノチノキハヲ ヤムヒトオオキ

『短歌』(角川書店 1982.1) 第29巻1号 p.167


08276
あやつりの 糸のもつれて 立ち得ぬと 病みつつ見たる 夢のきれぎれ
アヤツリノ イトノモツレテ タチエヌト ヤミツツミタル ユメノキレギレ

『短歌』(角川書店 1982.1) 第29巻1号 p.167


08277
トランプの 占なひをして 夜にをれば 隣の部屋は くらやみの箱
トランプノ ウラナヒヲシテ ヨニヲレバ トナリノヘヤハ クラヤミノハコ

『短歌』(角川書店 1982.1) 第29巻1号 p.167