さいたま市立大宮図書館/おおみやデジタル文学館 ―歌人・大西民子―

全短歌(10824首)

全短歌(歌集等)

短歌

 
大方は         葉がくれに       着替へして       コンサートの      
何をして        山越えて        くぐもれる       男言葉         
まる見えに       いきいきと       立ち退きの       母ならで        
遠き日に        針金の         をりをりに       新幹線は        
盤をかこみ       三十年         予測して        トルソーの       
計算器の        職場は         つながねば       ひさびさの       
隠し絵の        飲み慣れし       振り向けば       地球ごと        
跳びはねて       どのやうに       骨として        
 
 
 

08195
大方は 忘れて過ぐる 死者にして かすかにわれを 縛ることあり
オオカタハ ワスレテスグル シシャニシテ カスカニワレヲ シバルコトアリ

『短歌』(角川書店 1980.7) 第27巻7号 p.154


08196
葉がくれに 朴は花咲き ひとすぢの 水の流れの ごとく匂ひ来
ハガクレニ ホオハハナサキ ヒトスヂノ ミズノナガレノ ゴトクニオヒク

『短歌』(角川書店 1980.7) 第27巻7号 p.154


08197
着替へして 出でゆく用の あるはよし 朝の声音に 鳥も鳴くなり
キガヘシテ イデユクヨウノ アルハヨシ アサノコワネニ トリモナキナリ

『短歌』(角川書店 1980.7) 第27巻7号 p.155


08198
コンサートの ための暗譜を してゐたり 夢に出で来し 少女のわれは
コンサートノ タメノアンプヲ シテヰタリ ユメニイデコシ ショウジョノワレハ

『短歌』(角川書店 1980.7) 第27巻7号 p.155


08199
何をして 冬を越ししや 畦道は 幅いっぱいに 若草のいろ
ナニヲシテ フユヲコシシヤ アゼミチハ ハバイッパイニ ワカクサノイロ

『短歌』(角川書店 1980.7) 第27巻7号 p.155


08200
山越えて あがる凧あり うら若き 父とその子の 走るならずや
ヤマコエテ アガルタコアリ ウラワカキ チチトソノコノ ハシルナラズヤ

『短歌』(角川書店 1980.7) 第27巻7号 p.155


08201
くぐもれる 声に鳴きつつ ゐる鳩の 飛びたつときに 音あらあらし
クグモレル コエニナキツツ ヰルハトノ トビタツトキニ オトアラアラシ

『短歌』(角川書店 1980.7) 第27巻7号 p.155


08202
男言葉 女言葉の けぢめなく 語らひゆけり 若き人らは
オトココトバ オンナコトバノ ケヂメナク カタラヒユケリ ワカキヒトラハ

『短歌』(角川書店 1980.7) 第27巻7号 p.155


08203
まる見えに 立ちて一日 働くは つらからむ白の ハイヒール履く
マルミエニ タチテイチニチ ハタラクハ ツラカラムシロノ ハイヒールハク

『短歌』(角川書店 1980.7) 第27巻7号 p.156


08204
いきいきと レジ打つさまに 見とれしが うとむにもあらず われの職場を
イキイキト レジウツサマニ ミトレシガ ウトムニモアラズ ワレノショクバヲ

『短歌』(角川書店 1980.7) 第27巻7号 p.156


08205
立ち退きの 終れる広き 工場跡 古しり祠の ありて残さる
タチノキノ オワレルヒロキ コウバアト フリシホコラノ アリテノコサル

『短歌』(角川書店 1980.7) 第27巻7号 p.156


08206
母ならで 聞くはうとまし 幼な子の あたりかまはぬ 声に泣くなり
ハハナラデ キクハウトマシ オサナゴノ アタリカマハヌ コエニナクナリ

『短歌』(角川書店 1980.7) 第27巻7号 p.156


08207
遠き日に 失ひてをり 買物籠を みたして帰る よろこびなども
トオキヒニ ウシナヒテヲリ カイモノカゴヲ ミタシテカエル ヨロコビナドモ

『短歌』(角川書店 1980.7) 第27巻7号 p.156


08208
針金の 錆びてまつはる 垣などを 予測してゐる われかと思ふ
ハリガネノ サビテマツハル カキナドヲ ヨソクシテヰル ワレカトオモフ

『短歌』(角川書店 1980.7) 第27巻7号 p.156


08209
をりをりに 炎あげつつ 野火は燃え 暮れゆく山の たちまち黒し
ヲリヲリニ ホノオアゲツツ ノビハモエ クレユクヤマノ タチマチクロシ

『短歌』(角川書店 1980.7) 第27巻7号 p.157


08210
新幹線は 動かずと言へり 春雪に 阻まれてしまふ 逢ひなどあらむ
シンカンセンハ ウゴカズトイヘリ シュンセツニ ハバマレテシマフ アヒナドアラム

『短歌』(角川書店 1980.7) 第27巻7号 p.157


08211
盤をかこみ 老ひし人らの なす遊び 球はぶつかり にぶき音立つ
バンヲカコミ オヒシヒトラノ ナスアソビ タマハブツカリ ニブキオトタツ

『短歌』(角川書店 1980.7) 第27巻7号 p.157


08212
三十年 経て忘られず 道だけが 残りてゐたる 空中写真
サンジュウネン ヘテワスラレズ ミチダケガ ノコリテヰタル クウチュウシャシン

『短歌』(角川書店 1980.7) 第27巻7号 p.157


08213
予測して ゐたる通りに 告げられて 飛びのくやうな 思ひをなせり
ヨソクシテ ヰタルトオリニ ツゲラレテ トビノクヤウナ オモヒヲナセリ

『短歌』(角川書店 1980.7) 第27巻7号 p.157


08214
トルソーの 胸にも深く 響きゐむ ガラス戸に鳴る 木々の嵐は
トルソーノ ムネニモフカク ヒビキヰム ガラスドニナル キギノアラシハ

『短歌』(角川書店 1980.7) 第27巻7号 p.157


08215
計算器の ボタン押しつつ 思ひ出づ 暗算に母は ひいでいましき
ケイサンキノ ボタンオシツツ オモヒイヅ アンザンニハハハ ヒイデイマシキ

『短歌』(角川書店 1980.7) 第27巻7号 p.158


08216
職場は 地獄などと 思ふにあらねど 穴より出でし 如くに歩む
ショクバハ ジゴクナドト オモフニアラネド アナヨリイデシ ゴトクニアユム

『短歌』(角川書店 1980.7) 第27巻7号 p.158


08217
つながねば 見えぬ星座も さびしけれ おぼろに高き 春の夜の空
ツナガネバ ミエヌセイザモ サビシケレ オボロニタカキ ハルノヨノソラ

『短歌』(角川書店 1980.7) 第27巻7号 p.158


08218
ひさびさの 休日の朝 わが庭の 羊歯はけぶらふ さまに茂りぬ
ヒサビサノ キュウジツノアサ ワガニワノ シダハケブラフ サマニシゲリヌ

『短歌』(角川書店 1980.7) 第27巻7号 p.158


08219
隠し絵の 女の顔に 見覚えの ありてやさしく 春の夜をゐる
カクシエノ オンナノカオニ ミオボエノ アリテヤサシク ハルノヨヲヰル

『短歌』(角川書店 1980.7) 第27巻7号 p.158


08220
飲み慣れし 薬といへど 散りやすく ガラスの粉の やうなざらざら
ノミナレシ クスリトイヘド チリヤスク ガラスノコナノ ヤウナザラザラ

『短歌』(角川書店 1980.7) 第27巻7号 p.158


08221
振り向けば 壁に立つ影 声もなし 流れ着きたる 岸辺かここは
フリムケバ カベニタツカゲ コエモナク ナガレツキタル キシベカココハ

『短歌』(角川書店 1980.7) 第27巻7号 p.159


08222
地球ごと 滅ぶるは何時 砂をゑぐる 駱駝の足を 画面は捉ふ
チキュウゴト ホロブルハイツ スナヲヱグル ラクダノアシヲ ガメンハトラフ

『短歌』(角川書店 1980.7) 第27巻7号 p.159


08223
跳びはねて 帰りゆきしが あやつりの 狐も今は 眠れるころか
トビハネテ カエリユキシガ アヤツリノ キツネモイマハ ネムレルコロカ

『短歌』(角川書店 1980.7) 第27巻7号 p.159


08224
どのやうに 生きても一生 繭なさぬ 糸を吐きつぐ 一生もあらむ
ドノヤウニ イキテモヒトヨ マユナサヌ イトヲハキツグ ヒトヨモアラム

『短歌』(角川書店 1980.7) 第27巻7号 p.159


08225
骨として 埋めらるるまで 幾日か 死にたらむ後も いまいましけれ
ホネトシテ ウメラルルマデ イクニチカ シニタラムノチモ イマイマシケレ

『短歌』(角川書店 1980.7) 第27巻7号 p.159