さいたま市立大宮図書館/おおみやデジタル文学館 ―歌人・大西民子―

全短歌(10824首)

全短歌(歌集等)

短歌

 
光りつつ        両手もて        一枚の         雨の日の        
選びがたき       言葉を持つ       急行の         掃きよせて       
何により        あくる日の       眠る前の        次々に         
メラミン樹脂      ルワンダの       ゆく末に        しめ繩の        
山の端に        おもむろに       骨格の         抜けおちて       
あきらめて       この秋の        葉がくれに       年を経て        
鹿の角の        感情の         きれぎれに       堕ちてゆく       
てのひらに       外套に         夕刊を         
 
 
 

08164
光りつつ へだてあひつつ 花びらは 雲のうろこの やうに降りくる
ヒカリツツ ヘダテアヒツツ ハナビラハ クモノウロコノ ヤウニフリクル

『短歌』(角川書店 1980.1) 第27巻1号 p.274


08165
両手もて ふさぎし耳に ひとしきり 遠き故郷の 吹雪の声す
リョウテモテ フサギシミミニ ヒトシキリ トオキコキョウノ フブキノコエス

『短歌』(角川書店 1980.1) 第27巻1号 p.274


08166
一枚の 皮膚と思ふに 目の前を 黄色に染めて 風の吹く日よ
イチマイノ ヒフトオモフニ メノマエヲ キイロニソメテ カゼノフクヒヨ

『短歌』(角川書店 1980.1) 第27巻1号 p.275


08167
雨の日の 津和野はわれの 思ふのみ 滴を切りて 傘の始末す
アメノヒノ ツワノハワレノ オモフノミ シズクヲキリテ カサノシマツス

『短歌』(角川書店 1980.1) 第27巻1号 p.275


08168
選びがたき 思ひにをれば かかはりも あらぬ埴輪の 筒などが見ゆ
エラビガタキ オモヒニヲレバ カカハリモ アラヌハニワノ ツツナドガミユ

『短歌』(角川書店 1980.1) 第27巻1号 p.275


08169
言葉を持つ 不幸に思ひ 至る日を はればれと舞ふ 銀杏の落ち葉
コトバヲモツ フコウニオモヒ イタルヒヲ ハレバレトマフ イチョウノオチバ

『短歌』(角川書店 1980.1) 第27巻1号 p.275


08170
急行の とまらぬ駅と 寂しみて 待つ間に逢魔が 時も過ぎなむ
キュウコウノ トマラヌエキト サビシミテ マツマニホウマガ トキモスギナム

『短歌』(角川書店 1980.1) 第27巻1号 p.275


08171
掃きよせて 砂のまじれる 葉を燃せば 森の匂ひを たててくすぶる
ハキヨセテ スナノマジレル ハヲモセバ モリノニオヒヲ タテテクスブル

『短歌』(角川書店 1980.1) 第27巻1号 p.275


08172
何により 山鳩などに 生まれしや 問ひやまず啼く 一羽木にゐる
ナニニヨリ ヤマバトナドニ ウマレシヤ トヒヤマズナク イチワキニヰル

『短歌』(角川書店 1980.1) 第27巻1号 p.276


08173
あくる日の 仕事のことを われの言ひ こころさもしく なりて別れき
アクルヒノ シゴトノコトヲ ワレノイヒ ココロサモシク ナリテワカレキ

『短歌』(角川書店 1980.1) 第27巻1号 p.276


08174
眠る前の やさしさのなか 青蚊帳の 麻の匂ひを 久しく嗅がず
ネムルマエノ ヤサシサノナカ アオガヤノ アサノニオヒヲ ヒサシクカガズ

『短歌』(角川書店 1980.1) 第27巻1号 p.276


08175
次々に 疑ひばかり 湧く日にて 人の掛けおく コートが赤し
ツギツギニ ウタガヒバカリ ワクヒニテ ヒトノカケオク コートガアカシ

『短歌』(角川書店 1980.1) 第27巻1号 p.276


08176
メラミン樹脂 塗られて固き 机とぞ 手を置けば手の かたちに曇る
メラミンジュシ ヌラレテカタキ ツクエトゾ テヲオケバテノ カタチニクモル

『短歌』(角川書店 1980.1) 第27巻1号 p.276


08177
ルワンダの コーヒー匂ふ ゐながらに たのしむことの 限界として
ルワンダノ コーヒーニオフ ヰナガラニ タノシムコトノ ゲンカイトシテ

『短歌』(角川書店 1980.1) 第27巻1号 p.276


08178
ゆく末に 賑はひあれよ 群書類従 二十四巻 今日は届きぬ
ユクスエニ ニギハヒアレヨ グンショルイジュウ ニジュウヨンカン キョウハトドキヌ

『短歌』(角川書店 1980.1) 第27巻1号 p.277


08179
しめ繩の 張られてゐたる 片隅の 遠き記憶の なかのくらがり
シメナワノ ハラレテヰタル カタスミノ トオキキオクノ ナカノクラガリ

『短歌』(角川書店 1980.1) 第27巻1号 p.277


08180
山の端に 今し浮く雲 平面に 叩きつけられし 如きかたちす
ヤマノハニ イマシウククモ ヘイメンニ タタキツケラレシ ゴトキカタチス

『短歌』(角川書店 1980.1) 第27巻1号 p.277


08181
おもむろに 芯に近づく けはいにも 身動きならぬ 果実かわれは
オモムロニ シンニチカヅク ケハイニモ ミウゴキナラヌ カジツカワレハ

『短歌』(角川書店 1980.1) 第27巻1号 p.277


08182
骨格の 模型垂りゐし 標本室 夢に見て今も 入りてゆけず
コッカクノ モケイタリヰシ ヒョウホンシツ ユメニミテイマモ ハイリテユケズ

『短歌』(角川書店 1980.1) 第27巻1号 p.277


08183
抜けおちて 隙間だらけの 羽根を持ち 谷の一つも 越え得るらむか
ヌケオチテ スキマダラケノ ハネヲモチ タニノヒトツモ コエエルラムカ

『短歌』(角川書店 1980.1) 第27巻1号 p.277


08184
あきらめて 忘れて今は 眠らむに 重たき腕を 両脇に置く
アキラメテ ワスレテイマハ ネムラムニ オモタキウデヲ リョウワキニオク

『短歌』(角川書店 1980.1) 第27巻1号 p.278


08185
この秋の 終りの蜆 蝶ならむ 草のもみぢに まぎれつつ飛ぶ
コノアキノ オワリノシジミ チョウナラム クサノモミヂニ マギレツツトブ

『短歌』(角川書店 1980.1) 第27巻1号 p.278


08186
葉がくれに くぐもり咲ける 枇杷の花 思ひ自虐に 似つつ仰ぎぬ
ハガクレニ クグモリサケル ビワノハナ オモヒジギャクニ ニツツアオギヌ

『短歌』(角川書店 1980.1) 第27巻1号 p.278


08187
年を経て 狭められたる 庭園に しろじろと立つ 噴水の穂は
トシヲヘテ セバメラレタル テイエンニ シロジロトタツ フンスイノホハ

『短歌』(角川書店 1980.1) 第27巻1号 p.278


08188
鹿の角の やうに開きし 枯れ枝に 間違ひならむ 黄の花の咲く
シカノツノノ ヤウニヒラキシ カレエダニ マチガヒナラム キノハナノサク

『短歌』(角川書店 1980.1) 第27巻1号 p.278


08189
感情の ひろがる幅の 見えやまず 船が分けゆく 水脈を見をれば
カンジョウノ ヒロガルハバノ ミエヤマズ フネガワケユク ミヲヲミヲレバ

『短歌』(角川書店 1980.1) 第27巻1号 p.278


08190
きれぎれに なりても生きむ など思ひ 眠りしのちは ゆくへ知られず
キレギレニ ナリテモイキム ナドオモヒ ネムリシノチハ ユクヘシラレズ

『短歌』(角川書店 1980.1) 第27巻1号 p.279


08191
堕ちてゆく こころまざまざ 見し夢に 憎みゐたりき 人の背中を
オチテユク ココロマザマザ ミシユメニ ニクミヰタリキ ヒトノセナカヲ

『短歌』(角川書店 1980.1) 第27巻1号 p.279


08192
てのひらに 残る記憶よ 霧の夜の 石のてすりの つめたかりけり
テノヒラニ ノコルキオクヨ キリノヨノ イシノテスリノ ツメタカリケリ

『短歌』(角川書店 1980.1) 第27巻1号 p.279


08193
外套に 首をうづめて 人波に まぎれゆきたる 咎びともゐむ
ガイトウニ クビヲウヅメテ ヒトナミニ マギレユキタル トガビトモヰム

『短歌』(角川書店 1980.1) 第27巻1号 p.279


08194
夕刊を 取りこみドアの 鍵一つ かけてしまへば 夜の檻のなか
ユウカンヲ トリコミドアノ カギヒトツ カケテシマヘバ ヨノオリノナカ

『短歌』(角川書店 1980.1) 第27巻1号 p.279