さいたま市立大宮図書館/おおみやデジタル文学館 ―歌人・大西民子―

全短歌(10824首)

全短歌(歌集等)

短歌

 
降りやまぬ       ゆるやかに       裏道の         予告なき        
バスに行き       善悪の         電圧の         灯を消して       
エンジンを       正面に         雨のあとの       階段の         
人だのみの       いくたびも       目の前に        一人前の        
駆け戻る        年を経し        ばらばらの       あらかじめ       
見のがして       売られゐる       白粉花の        琴を弾く        
畳の上に        口をあく        いつとなく       列車よりも       
出奔の         ラベンダーより     左右より        
 
 
 

08112
降りやまぬ 雨を見をれば わが茎の 芦より青く 立つことのあり
フリヤマヌ アメヲミヲレバ ワガクキノ アシヨリアオク タツコトノアリ

『短歌』(角川書店 1979.9) 第26巻9号 p.40


08113
ゆるやかに レール分れて 草のなか 穀倉地帯の 名も古りむとす
ユルヤカニ レールワカレテ クサノナカ コクソウチタイノ ナモフリムトス

『短歌』(角川書店 1979.9) 第26巻9号 p.40


08114
裏道の 昼のしづけさ ローラー カナリアの声など このごろ聞かず
ウラミチノ ヒルノシヅケサ ローラー カナリアノコエナド コノゴロキカズ

『短歌』(角川書店 1979.9) 第26巻9号 p.41


08115
予告なき もののみにして 目の前の マンホールから 人の出で来る
ヨコクナキ モノノミニシテ メノマエノ マンホールカラ ヒトノイデクル

『短歌』(角川書店 1979.9) 第26巻9号 p.41


08116
バスに行き 遠見となれば かたまりて あはきみどりを なす梨の花
バスニユキ トホミトナレバ カタマリテ アハキミドリヲ ナスナシノハナ

『短歌』(角川書店 1979.9) 第26巻9号 p.41


08117
善悪の かなたのことと 慰めて 慰めきれず 人の歎きは
ゼンアクノ カナタノコトト ナグサメテ ナグサメキレズ ヒトノナゲキハ

『短歌』(角川書店 1979.9) 第26巻9号 p.41


08118
電圧の 変るときのま チアノーゼ 色に映れる 俳優の口
デンアツノ カワルトキノマ チアノーゼ イロニウツレル ハイユウノクチ

『短歌』(角川書店 1979.9) 第26巻9号 p.41


08119
灯を消して みひらきをれば 一定の 量の闇にて 濃くなるばかり
ヒヲケシテ ミヒラキヲレバ イッテイノ リョウノヤミニテ コクナルバカリ

『短歌』(角川書店 1979.9) 第26巻9号 p.41


08120
エンジンを かけて夜通し 待ちゐたる 船も何をか のせて発ちたり
エンジンヲ カケテヨドオシ マチヰタル フネモナニヲカ ノセテタチタリ

『短歌』(角川書店 1979.9) 第26巻9号 p.42


08121
正面に 見たる魚の 顔一つ 最前列の 顔とかさなる
ショウメンニ ミタルウオノ カオヒトツ サイゼンレツノ カオトカサナル

『短歌』(角川書店 1979.9) 第26巻9号 p.42


08122
雨のあとの 街に湧きたつ ささめきは わがゐる五階の 窓にも届く
アメノアトノ マチニワキタツ ササメキハ ワガヰルゴカイノ マドニモトドク

『短歌』(角川書店 1979.9) 第26巻9号 p.42


08123
階段の ひとところ陽の 差してゐて 少女ら脛を 光らせて過ぐ
カイダンノ ヒトトコロヒノ サシテヰル ショウジョラハギヲ ヒカラセテスグ

『短歌』(角川書店 1979.9) 第26巻9号 p.42


08124
人だのみの 多くなりつつ 目に見えて 諦め易く われは働く
ヒトダノミノ オオクナリツツ メニミエテ アキラメヤスク ワレハハタラク

『短歌』(角川書店 1979.9) 第26巻9号 p.42


08125
いくたびも 仕事を替へて いとまある 職場といふは 得ず終らむか
イクタビモ シゴトヲカヘテ イトマアル ショクバトイフハ エズオワラムカ

『短歌』(角川書店 1979.9) 第26巻9号 p.42


08126
目の前に 紙切る見れば 左利きと 知らで過ぎたり 十日余りを
メノマエニ カミキルミレバ ヒダリキキト シラデスギタリ トオカアマリヲ

『短歌』(角川書店 1979.9) 第26巻9号 p.43


08127
一人前の 労働力に 還元し 励む日萎ゆる日 ありてすぎゆく
イチニンマエノ ロウドウリョクニ カンゲンシ ハゲムヒナユルヒ アリテスギユク

『短歌』(角川書店 1979.9) 第26巻9号 p.43


08128
駆け戻る 思ひに夜々を 帰り来て 机に向ふも あと幾年か
カケモドル オモヒニヨヨヲ カエリキテ ツクエニムカフモ アトイクトシカ

『短歌』(角川書店 1979.9) 第26巻9号 p.43


08129
年を経し 死者の一人は 幾たびも わが夢のなかに 来ては死ぬるも
トシヲヘシ シシャノヒトリハ イクタビモ ワガユメノナカニ キテハシヌルモ

『短歌』(角川書店 1979.9) 第26巻9号 p.43


08130
ばらばらの クッキーをホイルに 包みゐて 心一つを まとめむに似る
バラバラノ クッキーヲホイルニ クルミヰテ ココロヒトツヲ マトメムニニル

『短歌』(角川書店 1979.9) 第26巻9号 p.43


08131
あらかじめ 人の寿命は 定まると 聞き来て歩度の ゆるむ思ひす
アラカジメ ヒトノジュミョウハ サダマルト キキキテホドノ ユルムオモヒス

『短歌』(角川書店 1979.9) 第26巻9号 p.43


08132
見のがして ゐることあらむ セロリーの 鮮度などにわが かかづらふ間に
ミノガシテ ヰルコトアラム セロリーノ センドナドニワガ カカヅラフマニ

『短歌』(角川書店 1979.9) 第26巻9号 p.44


08133
売られゐる もののみに足る 生活と 思ひてをれば バスの近づく
ウラレヰル モノノミニタル セイカツト オモヒテヲレバ バスノチカヅク

『短歌』(角川書店 1979.9) 第26巻9号 p.44


08134
白粉花の 折れ易き茎 ほきほきと 節から折りて 児らのあそべる
オシロイバナノ オレヤスキクキ ホキホキト フシカラオリテ コラノアソベル

『短歌』(角川書店 1979.9) 第26巻9号 p.44


08135
琴を弾く 埴輪見をれば わが指に 届かぬ弦の あるごとき日よ
コトヲヒク ハニワミヲレバ ワガユビニ トドカヌゲンノ アルゴトキヒヨ

『短歌』(角川書店 1979.9) 第26巻9号 p.44


08136
畳の上に 大き鋏の ありにしが 朝起き出でて 何事もなし
タタミノウエニ オオキハサミノ アリニシガ アサオキイデテ ナニゴトモナシ

『短歌』(角川書店 1979.9) 第26巻9号 p.44


08137
口をあく 扇形グラフ 馬鈴薯を むくことなども なくてすぎゆく
クチヲアク センケイグラフ バレイショウヲ ムクコトナドモ ナクテスギユク

『短歌』(角川書店 1979.9) 第26巻9号 p.44


08138
いつとなく 死せる人らを 責むるまで さかのぼりゆく われの思ひは
イツトナク シセルヒトラヲ セムルマデ サカノボリユク ワレノオモヒハ

『短歌』(角川書店 1979.9) 第26巻9号 p.45


08139
列車よりも 心馳せにき 西へ向ふ ブルートレインも なくなるといふ
レッシャヨリ ココロハセニキ ニシヘムカフ ブルートレインモ ナクナルトイフ

『短歌』(角川書店 1979.9) 第26巻9号 p.45


08140
出奔の 夜なりきわれは 街灯に 次々に照らされて 駅へ急ぎき
シュッパンノ ヨナリキワレハ ガイトウニ ツギツギニテラサレテ エキヘイソギキ

『短歌』(角川書店 1979.9) 第26巻9号 p.45


08141
ラベンダーより 色濃き花と 見てありて 詳しく知れる ことも少なし
ラベンダーヨリ イロコキハナト ミテアリテ クワシクシレル コトモスクナシ

『短歌』(角川書店 1979.9) 第26巻9号 p.45


08142
左右より 木立の欝は 迫り来て またさしかかる 峠のごとき
サユウヨリ コダチノウツハ セマリキテ マタサシカカル トウゲノゴトキ

『短歌』(角川書店 1979.9) 第26巻9号 p.45